40話:それぞれの想い。
「ソフィ、私は――――」
ジョルダン様が目頭をグッと押さえて、滲みかけていた涙を散らすようにされていました。
「――――この旅で君を失う恐怖を何度も味わった。なのに君は平気そうにしていて。もしかして私は君には必要のない存在だったのか、と」
そんな気持ちが溢れかえってしまった。だからあんな態度になってしまったと謝られた。
この旅の主軸は視察であって、二人の旅行ではないのに、ジョルダン様はそれを忘れていたらしい。
「君と二人でどこかに出かけられるのが、何時間も共に過ごせるのが楽しみだった。同じ景色を見て、同じ思いを抱いて、笑い合いたかった」
それなのに私は同じ馬車には乗ってくれないし、ジョルダン様と同じ部屋じゃなかった事を受け入れて眠ろうとしていた。
そして今日は、助けに来てくれたのに普通に食事を続けた。
それはただ単にポリシーで、食べ物を残すのが嫌だっただけなのですが。
「抱きしめても良いだろうか?」
「………………はい」
嫌なんて言えない。だって、大好きだから。嬉しいから。
苦しいほどに掻き抱かれて、ジョルダン様の強い想いが流れ込んで来るようでした。
「酷い態度だった、すまない。この醜い感情をコントロールできず、君にあたってしまった。本当は抱きしめて眠りたかった」
「ジョルダン様……」
「よく見たら顔色が悪い。ソフィもほとんど眠っていなかったんだな?」
食事は全て食べていましたが、深く眠ることは出来ませんでした。ウトウトしてもハッと目が覚めてしまっていました。
いつ助けに来てくれるのか、助けは絶対に来るから、いつでも動けるようにしておかないと。ジョルダン様に早く逢いたい。
ずっとそんなことだけを考えていました。
助けに来てもらえた事が嬉しくて、頭がぼーっとしていて、色々なことに気付くのが遅れていました。
取り敢えず、目の前の食事を終わらせないと。そうしたら、ジョルダン様と帰れる。
帰りたい。
ジョルダン様と、王都の家に。
誰も邪魔してこない場所で抱きしめられて、泣きたい。寂しかったと、怖かったと。
だけど戻ったのは、家ではなく宿泊先。
まだジョルダン様のお仕事の延長線上。これ以上の迷惑はかけられない。
「っ…………ソフィ、迷惑なんて考えないでいい。悪いのは私だ。どこでだって甘えていい。泣いていい」
「抱きしめてください。ぎゅうぎゅうに抱きしめて。一緒に眠りたいです」
「ん」
ジョルダン様が泣きそうなお顔で、私を抱き上げるとベッドに運ばれました。
もっとちゃんと話し合おう、しっかりと眠って起きてから。
次話も明日の朝に投稿します。




