38話:暗雲立ち込める。
事件が進展したのは、誘拐されて三日目の夜ごはんを食べているときでした。
チキンステーキをモグモグしていましたら、何やらドタバタと足音と怒号が聞こえてきました。
いつもはドアから誘拐犯であろう二人の言い合いが漏れ聞こえるくらいしか音がないのに、今日は上からも音が響いてきます。
いつもの女の人の悲痛な叫び声が聞こえたと思ったら、急に静かになりましたモグモグ。
温かいパンプキンスープって美味しいわね、とかカップで手を温めつつクピッと飲んでいると、ドアの鍵が開けられて、男の人が入ってきました。
逆光に目を細めつつよく見ると――――。
「あ、ジョルダン様」
「…………ソフィ」
「なんだ、思ったより快適そうに過ごしているな」
ジョルダン様の後ろから、王太子殿下がひょっこりと顔を出されました。
どうやら上には兄もいるようです。
「あ、ちょっとお待ちを。直ぐに食べ終わりますので」
「ソフィ…………」
残っていたチキンステーキ二切れをパンプキンスープで流し込み、立ち上がりました。
「お迎えありがとうございます、お手数おかけしました」
そう言ってカーテシーをすると、なぜか王太子殿下が大爆笑してしまいました。
そしてジョルダン様はスンとした無表情です。これは怒らせてしまっている方なのか、呆れ返っているだけなのか……まぁ、前者な気がしますが。
ちょっとだけデジャヴ感です。
宿泊させていただいているお屋敷に戻り、お部屋でジョルダン様と二人きりになりました。
何やら後始末など色々とあるようなのですが、全てを王太子殿下と兄に任せて良いそうです。
「ソフィ」
ジョルダン様がきゅっと抱きしめて来られました。柔らかく、温かく。
とても心配したと、生きた心地がしなかったと。
ジョルダン様の腰に腕を回し、応えます。
「私もです。もうジョルダン様に逢えないかも、ということは考えないようにしていました」
「二度もこんな目に合わせてすまない」
――――二度?
「待て、何故そんなにキョトンとしているんだ」
「……あっ!」
ジョルダン様がとても大きな溜め息を吐いて、スッと離れて行かれました。
私に背を向けると服を脱ぎながらボソリと一言。
「君のそういうところがとても――――いやいい」
その後、ジョルダン様はお風呂には入られ、一人でベッドに入り、眠られてしまいました。
連日寝ずの捜索で疲れているから先に寝る、と理由は仰られたのですが、私が怒らせてしまったのは明確です。
――――どうしよう。
次話も明日の朝に投稿します。




