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37話:逢いたい。

 



 『もしも誘拐されたら』なんて、考えたこともなければ、対策を練ったこともなく。

 ただただ薄暗い部屋の中で、震える身体を自分で抱きしめて、じっと耳を澄ませている事しかできませんでした。


『――――! ――? ――!』

『――? ――――! ――――!』


 ドアの向こう側で、知らない国の言葉が飛び交っています。

 先程の方と別の方が何やら言い合いをしているようです。

 片方は女性ですね。って、それがわかったところでどうしようもないのですが。


 何時間か立った頃、私を誘拐したであろう浅黒い肌の男性が食事を持ってきました。

 ちょっとホッとしました。どうやら殺すつもりはなかったようです。


「毒は入って、いません」

「え、あ。ありがとうございます!」


 そうでした。ご飯を出されたから当たり前にガッツリ食べようとしていましたが、普通はそういうことも考えないといけないのですよね。

 ハッ!としすぎて、えらく張り切った返事をしてしまいました。

 浅黒い肌の男性がクスクスと笑いながら頭を撫でて来ます。


「もう少しだけ、待っていて、ください。なんとかしますので」


 少し不思議なアクセントなのは、彼が違う国の人だからなのでしょう。

 こくんと頷いて、ご飯をいただくことにしました。


「んむっ……おいひい」

「すまない、おかわりはない。我慢できる? 果物ならまだ、あります」

「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「はい」


 男性がフッと柔らかく笑って、ドアから出ていきました。ガチャリとしっかりと施錠も忘れずに。

 酷いことはしないけど、逃しもしないということなのでしょうね。




 誘拐されて二日が経ちました。

 浅黒い肌の男性が申し訳無さそうにしています。そして、ドアの向こうではよく言い合いのケンカのようなものが起こっているようです。

 

「すまない。湯浴みは、させてやれないが」


 そう言ってお湯の入った桶ときれいなタオルを下さいました。

 彼の所作を見ていると、ジョルダン様に近いものを感じます。貴族らしい動きと、騎士らしい動き。

 もしかしたら元は身分が高かった?


「ありがとうございます」

「私は、外にいる。終わったら、ドアを叩いて、ください」

「はい」


 こういうところは、本当に紳士だと思います。

 もしかしたら油断させたり、絆されるのを狙っているのかもですが。


 ワンピースは脱がずに体をしっかりと拭いました。ちょっとさっぱりしたので、本当にありがたかったです。

 ドアをノックして桶とタオルを返しました。

 ちらりと見えたのは石の上り階段。

 やっぱり、地下室のようです。


 浅黒い肌の男性を見ていると、どうしてもジョルダン様の所作を思い出してしまい、心臓がギュッと締め付けられます。


 ――――ジョルダン様に、逢いたい。




次話も明日の朝に投稿します。

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