34話:膨らむ妄想、気になる過去。
気になります。とても、とてもとても気になります。
なぜに、ジョルダン様がドレスの着付けができるのかが。
近年は自分で着けられるコルセットが主流になり、普段着などは基本的に簡単に脱ぎ着が出来る作りになっています。
ですが、晩餐用のドレスは流石に一人では着れないため、使用人さんのどなたかに手伝ってもらうつもりでした。
人手が欲しければ誰かに言え、と王太子殿下に言われていましたので。
まさかジョルダン様が背中の調整紐を使い適度に締め付けたり、腰のリボンの飾り結びまでも出来るなんて……。
「手慣れていらっしゃる!? もしや、百戦錬磨的な過去が!?」
「はいはい。そういう妄想はいいから。ちゃんと前を向いて立ってなさい。リボンがズレる」
軽くあしらわれてしまいました。
いえ、そうですよね……。お付き合い当初に私が初恋なのだと教えて下さいましたし。
――――あっ!
恋心を抱かずとも、女性とお付き合いなど、されていた可能性を失念していました。
老若男女に人気のジョルダン様。
老若男女が恋愛の対象になり得ます。
若い、男……ぐふっ…………ワンチャン、渋メン……ジュルッ…………おっと!
危うく妄想の世界に入り込むところでした。
「ウエストは少し緩めにしている」
「ありがとうございます」
ジョルダン様が私から一歩離れ、全身を眺めて破顔しながら軽く頷かれました。
「ん、可愛い」
一言の破壊力が凄すぎます。心臓が爆発するかと思いました。
「そそそそそんなことを言われても、百戦錬磨の過去を全て話さないと絆されませんからねっ!」
「ハァ…………一体何の話をしているんだ?」
ため息混じりにそう聞かれ、必死に説明しましたら、鼻をギュムッと抓まれて「ほら行くぞ」と怒られてしまいました。
「はははは! そっ、それでこんなに不機嫌になっているのか!」
「食事中は静かにされてください」
「歓談の席だろうが馬鹿め」
今回同行されている騎士様や使用人たちの労いも含めて、必要人員以外はみな晩餐会に出席していいと殿下がおっしゃられました。
用意されていた席に着きましたら、真顔のジョルダン様を見た殿下が一瞬で不機嫌だと気付いてしまい、理由を話さざるを得なくなったのが今です。
「コイツは機嫌を隠すためにすぐ無表情になるからな」
「確かに……」
何度かやらかした時に、よく見てます。
辺りの気温がスッと下がるような感覚がするんですよね。
「ブフォッ。何度もやらかしてるのか! いやほんと、ソフィ嬢は面白い!」
「殿下」
「何だよ」
「ノーザン伯爵夫人です」
「ブフフフッ。はぁ、無骨なだけだったヤツがこうなるとは、愛とは恐ろしいものだな」
参加されている方々にクスクスと笑われてしまいました。
ジョルダン様は相変わらず無表情です。
晩餐を終わらせて部屋に戻りました。
「あのっ、その……ごめんなさい」
「ん?」
「馬鹿なことばっかり考えて……疑ったりして……」
「あぁ、気にするな。ああやって私をからかって、取っ付きやすい王太子を演じているんだよ。まぁ、素もあのまんまなんだがな」
気にしなくていいと、頬にキスをされましたが、なんとなくジョルダン様のお元気が無いような気がしました。
次話も明日の朝に投稿します。




