33話:到着しました!
途中お昼休憩をはさみ、更に馬車にゆらゆら揺られて夕方より少し前。
「わぁぁぁ! わぁぁぁ! わぁぁぁぁ!」
「落ち着け、馬車から落ちるぞ」
青い水がどこまでも、どこまでも広がっています。
湖や池とは違い、水面がキラキラと輝いています。
ザザー、ザザーッと聞こえるのは波の音。
甲高い声で鳴く、見たこともない白い大きな鳥。
――――海って、綺麗!
馬車の窓からずっと海を眺めていました。
「ん? お兄様、これは何の匂いですか?」
ぷーんと香ってきたのは、お魚とはまた違う何かが凝縮されたような匂いと、少し焼き焦がしたような香ばしさ。
「あぁ、どこかで貝でも焼いているんだろ」
「貝! そういえば、生で食べられる貝があると聞きましたが、本当ですか!?」
「ああ、ミルキーでうまいぞぉ。白ワインが進む! まぁ、好き嫌いはあるがお前は大丈夫だろ」
貝なのにミルキー、よくわからない感覚です。
兄がジョルダン様にお願いして食べさせてもらえと言うので、ジョルダン様もお好きな様子です。到着しましたらお願いしてみましょう。
王族保有地にあるお屋敷に到着しました。
まさかの、目の前が海です。
「はははは! よしよし、海は逃げん。部屋も海が見える側にしているから、一度部屋で落ち着け。それから、晩餐も楽しみにしてろよ?」
「殿下っ! 気安く触らないでいただけますか!?」
王太子陛下が笑いながら私の頭をグリグリ撫でて来られました。
ジョルダン様が何やらワーワーと怒っていますが、無視でいいそうです。
ジョルダン様とお部屋に向かいましたら、大きなテラス窓から燦然と輝く海が一望できました。
「ジョルダン様! ジョルダン様! すっっっごいですよ!」
「ん、ほらこっち向いて」
窓に張り付いて外に広がる海に見惚れていましたら、後ろからそっと抱きしめられました。
片手は腰を抱き、もう片手は私の顎をそっと横向けにしてきます。
「んっ……」
振り返る形でのキスは初めてて、大人の階段をまた上ったような気がします。
「ん……ん? んむっ!」
………………ちょっと、長かったです。
息継ぎくらいさせてほしいと言う意味を込めて、ギロリとジョルダン様を睨むと、頬を染めて柔らかく微笑み返されてしまいました。
あぁ、駄目です。その笑顔はとてもとてもとても、素敵すぎて胸がキュンキュンします。
「少し休んだら着替えて晩餐に備えよう」
「っ、はい」
唇へのバードキスをして、ジョルダン様が荷ほどきに向かわれました。
こういった時の何気ない行動に、何度もときめいてしまいます。
私はあと何度ジョルダン様に恋をさせられるのでしょうか。
――――心臓がもたないっ!
次話も明日の朝に投稿します。




