30話:気付かない内にトラブって、気付かない内に解決していた。
「んん?」
領主館の使用人さんに案内されたのは、使用人さん用の一人部屋。
勘違いしていた。てっきり一緒の部屋なのだと。
ジョルダン様はお仕事なのだから、そりゃそうか!
部屋に夕食が運ばれてきて、少し謎な気持ちになる。
なんというか、ご飯が質素。もしや使用人さんと勘違いされている? いやでも、それなら普通は仕えている人の世話なりなんなりする仕事が…………あ、今日は休み扱いだと思われている?
「なるほど、そのパターンか。いただきます」
ご飯は普通に美味しかった。
濡れた布で身体を拭き清め、ちょっと固いものの、実家のベッドよりは立派なベッドに「さぁ、寝るか!」と潜り込んだところで、部屋にガタイの良い男性が飛び込んできた。
「いたーーーーーーーーー!」
声を聞くに脳筋兄だけれど、部屋の明かりは消してしまっていたので、逆光でよく見えない。
「ソフィ!」
「ほへ? ジョルダン様? おやすみの挨拶ですか? お仕事は終わられたのですか?」
「「…………」」
どうやら、私は領主様のお嬢様に『酷い扱い』をされていたらしいのです。
お嬢様はジョルダン様に恋心を抱いており、最近結婚したという私があまりにも質素だから、ワンチャン狙ったとか。
「酷い扱い?」
「凄く堪能して寛いでいたらしいというのは聞いていた。…………その、強がりというか、弱みに付け込ませないようにしているのかと思ったが…………………………ここは、ソフィの家の部屋より立派……」
ジョルダン様が何やらモゴモゴと話されています。
そうなのですのね。実家の私室より床板や家具や寝具が立派なので、なんだか普通にもてなされているのだとばかり。
「お前……ジョルダン様の屋敷に住んでて、まだそんな感覚なのかよ……」
脳筋に呆れられてしまいました。なんでしょうか、物凄く不服です。
「諸々の問題は解決して、今は王太子殿下に領主をつつかせているから、安心しなさい」
何をどう安心したらいいのでしょうか……。
ジョルダン様、王太子殿下を顎で使ってません!?
それくらいで丁度いい。とかなんとか言われますが、お二人の関係が謎すぎます。
せっかく荷物を解いたのに、またまとめ直して、今度はジョルダン様がお借りしている部屋に行きました。
「ふおっ、豪華!」
「はははっ。本当にソフィはかわいいなぁ」
よくわかりませんが、ジョルダン様が笑顔なのでホッとしました。
私のせいで何やらトラブルが起こってしまいましたので、連れてきたことを後悔されているのでは……とちょっと心配していました。
ギュムムムッとジョルダン様が抱きしめて来られましたら、ぷーんと濃く甘い系の香水の匂い。
「んむむ? 甘くしゃい……」
「………………風呂に入ってくる。ソフィも一緒に入るか?」
「ひょえっ!? ささささっき、清めましたのででででで!」
ジョルダン様がいたずらっ子の少年のような顔で笑いながら、部屋に併設されているお風呂に向かわれました。
――――何故に、このタイミングで夜の帝王が微妙に降臨!?
ジョルダン様のお風呂上がりが、どのパターンの帝王が現れるのか、戦々恐々としました。
次話も明日の朝に投稿します。




