28話:変更だらけの新婚旅行。
新婚旅行が翌週に控えたある日、ジョルダン様が暗い顔で帰って来られました。
玄関ホールでギュムムムムと抱きしめられたあと、頬にキスをされました。
「ソフィ、すまない。殿下との急な視察が入ったので、旅行が変更になった」
「え――――、あ、はいっ!」
落ち込みかけた気持ちをなんとか隠そうとしました。
ジョルダン様が悪いわけでもなく、王太子殿下が悪いわけでもなく、視察先が悪いわけでもないはずです。
ただのタイミングの問題。
「それで……殿下が視察先についてきてはどうだろうかと。あちらで二日ほど休みは取れるらしい。ただ旅程としては十日ほどあるのだが……流石にその為だけになど…………ソフィの時間を奪うようで…………」
言葉を発する度に、ジョルダン様がしょんぼりとして行っています。ななななな泣きそうに見えるのは気のせいですよね!?
私としては、むしろついて行っていいのか! と大興奮なのですが。
「え、視察……え? 同行!? いいんですか!」
働いているジョルダン様を間近で見れるなんて。どんなご褒美ですか!
めちゃめちゃ嬉しいんですが!?
溢れ出る歓びと叫びを我慢しようとしましたら、その場でジタバタと足踏みしてしまいました。
「…………それから……視察先は、海辺に都市を構えているフォストーナだ」
「海! うみ! うーみー!」
「プッ…………はははは! 踊るほどか!」
しょんぼりジョルダン様が、ニコニコジョルダン様になりました。
「ソフィ、行きたいところ、見てみたいもの、やってみたいこと、好きなもの、嫌いなもの、全部教えてくれ。海が好きだとは知らなかった」
両頬を包まれ、唇へ柔らかなキス。
少しだけ、寂しそうなお顔に見えたのは気のせいでしょうか?
微笑まれているのに、なぜかそんな気がしました。
「ジョルダン様と一緒にいられれば、どこでもいいんです。……海は見たことがなかったので、ちょっとあれ……あの……興奮してしまいましたが。初めてがジョルダン様とだから、余計に嬉しいんですよ?」
「ん……私もだ。ソフィと沢山の初めてを体験したい」
――――ん? あんれぇ?
キスが何だか艶めかしくなってきました。
初めての体験というのは、『海を見る』ことが、なのですが?
え? あ、分かってる? 分かってたんですね。なんでこんなに艶めかしい口付けなんで……え? 気のせい? 気のせいですかね? あ、はい。気のせいらしいです。
何だかうまいこと誤魔化された気がしますが、このあと普通にダイニングで夕食を取り、普通に過ごして、寝室に入ったので……たぶん、気のせいであってますよね。
「さぁ、行こう!」
「……視察の朝もお兄様が家に来るんですね?」
「悪いか? お前の荷物持ってやってるだろ」
たしかに? そこには感謝しますが、王城の馬場で集合でも良くなかったですかね? 予定では、我が家から王城の馬場に向かい、そこで王太子殿下と合流と聞いていたのですが。
「すまない。私は殿下の馬車に乗らざるを得ないから、君の馬車にはマクシムを護衛で乗せるようにしたんだ」
ジョルダン様を朝からションボリさせてしまいました。
せっかくの旅行なのに私ったら。反省です。
「ジョルダン様、ごめんなさい。お兄様の顔が朝からうざかっただけで他意はないんです」
「ん、それは確かにそうだな。私こそ済まなかったな」
「ちょっ!? 二人とも俺の扱い悪くない!?」
「「うるさい」です!」
煩い脳筋兄は無視するとして、ちょっとイレギュラーな新婚旅行の始まりです!
次話も明日の朝に投稿します。




