27話:予定は未定で……確定?
なかなかまとまったお休みが取れないジョルダン様。
騎士団長という責任のあるお仕事上、仕方がないものだと私は思っていたのですが、ジョルダン様はそうではなかった模様。
「ずっと、待たせていてすまない」
たまたま読んだ本がこの国の旅行記で、ジョルダン様に出てきた場所を知っているかと聞いたのが事の始まりでした。
寝る前にただの雑談として話しただけだったのです。
そうしたら、ジョルダン様が新婚旅行をしていなかったと、謝ってこられたのです。
「あ、いえ……あの、私は旅行など一度もしたことがないので、特には気にしていないのですが」
「は? 一度も?」
「はい。あ、でも遠出はよくしてますよ…………裏山とか」
それは遠出や旅行ではなく山菜採りだろう、と突っ込まれてしまいました。グゥの音も出ないやつです。
――――ウグゥ。
「再来月……いや、来月にまとまった休みを取る。二人でどこかに行こう?」
「はいっ!」
◆◇◆◇◆
どうしてこうなった…………。
愛しい妻と二人で行くはずだった旅行。
近年は使用人をごく少数にして、夫婦水入らずというのが流行っているらしいと聞いていた。
私もソフィもわりと自身の事が出来るので、そのほうが楽しめそうだと思い、旅行の予定を組んでいたのに。
来週に差し迫っていたのに。
「…………視察」
「いや、私を睨むなよ。仕方ないだろう? 公務だ」
「予定にはありませんでしたが?」
「予定なぞいつでも未定だろ」
王太子殿下のアホ…………んんっ。トチ狂ったお言葉は聞かなかったことにするとして、なぜにこの大切な時期に。
既にホテルやレストランなど様々な場所に予約を入れていたのに。来月にずらすとなると…………。
「来月は無理だからな?」
「…………なんで、役職がこんなに働かねばならないのですか」
「…………私に言うな。私も言いたい」
王太子殿下は殿下で、最近婚約した隣国の第二王女に逢いに行く予定が潰れたのでイライラしている。
「視察先にソフィ連れてけば良いんじゃないっすか?」
出入り口の警備をしていたマクシムが、そんなことを言い出した。
普通の騎士ならば、王族のいる場で口は開かないのだが、マクシムなので殿下の存在など気にしない。そして、殿下は面白がって注意をしない。
しかも、殿下も自らマクシムとよく雑談をして盛り上がる。
おかげでいつもろくなことにならない。
「マクシム! いいこと言うな! 視察先は観光地じゃないか。ジョルダン、いいんじゃないか?」
「ですよね!? あいつ海とか見てみたいって常に言ってましたし」
――――海!? 聞いたことないが!?
そして今も。
本当に、ろくなことにならない。
視察にソフィを連れて行くとかいう話になっているし、ソフィが海が好きだとか初耳だし、元々の旅行は山方面の予定だったし。
――――本当に、ろくなことにならないっ!
帰ってソフィに伝えたら、きっと悲しい顔をされる……そうと思うと今から胃が痛い。
「え、視察……え? 同行!? いいんですか!」
物凄く喜んでいる。
ちょっと軽く踊っている。何だその動きは可愛いじゃないか。
――――本当に! ろくなことにはならない!
◇◆◇◆◇
次話も明日の朝に投稿します。




