26話:観察と妄想。
私の友人ミヌエットに淡い恋心を抱いていた脳筋兄の背中を勢いよく押しました。わりと脳筋に叫んで。
見事に燃えた兄は走ってミヌエットに突撃かましに行ったのですが…………まさかお仕事に行っていたはずのジョルダン様に見られるとは!
「いや、普通に終業して帰ってきたんだがな」
「あら? もうそんなお時間だったんですね」
それはいいとして、ミヌエットの気持ちなどは大丈夫なのか、マクシムはやると言ったらやるやつだぞ、相手の拒否とか完全に無視するぞ、物凄くしつこいんだぞ、と心配されました。
――――はっ!? もしや、ジェラシー!?
「どうして、そうなる?」
「いーたたたたた!」
真顔でアイアンクローをされてしまいました。
正直なところ、絶対に大丈夫なんですよね。
「ほお?」
ジョルダン様が疑わしそうな目で見つめてきます。
――――はっ!? これは!
「し・つ・こ・い」
「ふぇい、ごべんばはい」
「ブフッ」
頬を両側から押さえられ、アヒルのお口みたいにされてしまいました。
ちゃんと喋れません。
ジョルダン様はなんだかツボったようで、お腹を抱えて笑われています。
話を戻しましょう。
ミヌエットですが、準男爵家の五女なので、私と同じく支度金などほぼ用意出来ないというのと、本人があまり結婚などに興味がないのです。
ただ、ミーハー気質なので、時々好きな異性が出来たりはしていました。
そして、最近は脳筋兄の観察にハマっているのです。
「アレの、観察…………」
ジョルダン様は首をひねりながら、楽しいのか? と呟いていらっしゃいました。
「我が家の使用人の話を出したとき、そしてそれが決定したとき、かなり喜んでいたのですよ。兄の観察が間近で出来ると」
「なんというか……奇特な少女だな」
「そうですか?」
わりと、好きな人は間近で観察していたいというのは、恋する乙女の共通項かと思っていました。
「…………共通項。ということは、ソフィは過去に好きな者がいたのか」
なぜか、ジョルダン様のお顔が大魔王です。帝王を通り過ぎてます。何がスイッチだったのかよくわかりません。
顎クイッからの艶めかしいキスをされました。
玄関先で、使用人たちの目の前で。
「私のソフィが、私以外を心に住まわせていたと、知りたくはなかったな。取り敢えず、じっくりと話を聞きたいな……移動するか」
ジョルダン様が耳元でそう囁いて、私の腰をグイッと抱き寄せて歩き始めてしまいました。
慌てて歩調を揃えていると、夫婦の主寝室に到着してしまいました。
――――え!? 今からワカラセ!?
「お前は私をなんだと思っているんだ……」
――――あ、やばっ。
軽く本気で説教されつつ、執務室で兄とミヌエットの事を詳しく話すようにと言われました。
主寝室へは、着替えをしに立ち寄っただけでした。てへ。
「なんだ、ミヌエット嬢はそんなにマクシムのことを気に入っていたのか」
「はい!」
「それで、ソフィの初恋は? 何を観察したり、想像していた」
「へ!?」
ジョルダン様が真顔でそんなことを聞いてきます。
流石に恥ずかしいのですが。
そういうのって、女子たちの内緒話といいますか、秘めておきたい部分じゃないのでしょうか? でも、愛しの旦那様が知りたがっている。
秘密はあんまり持ちたくないし。
話すしかないのかな?
「ソフィ」
「っ………! はいっ」
急かされてしまい、結局話すことに。
騎士団の訓練をソッと覗きに行ったり、兄から情報を得ては悶えてみたり、お休みの日はどうやって過ごされてるのかとか、どんな匂いがするのかなとか、あの大きな手で頬や頭を撫でられたいなとか、とかとか妄想したりしていました――――。
「――――って、本人に話すの、物凄く恥ずかしいのですがっ!」
「………………ほんにん? っ? は? 私!?」
ジョルダン様のお顔が見る見るうちに真っ赤になっていきました。
そして、口元を隠されてそっぽを向かれたのですが、耳まで真っ赤になっているのが丸見えです。
どうやらジョルダン様は色々と勘違いされていたようです。
あと、わりと照れ屋さんでした。
――――これは心のノートにメモしておかなければ!
ゆきや紺子様より、またまたまたファンアートをいただきましたヽ(=´▽`=)ノ
短編のときよりも更にレベルアップした素敵絵です!
一話の頭に貼り付けていますので、ぜひぜひそちらもご覧くださいm(_ _)m
次話も明日の朝に投稿します。




