25話:脳筋兄が、なぜか私を訪ねて来た。
お姉様の離婚問題が解決したとミヌエットから連絡を受けた三日後、脳筋兄が私に会いに来ました。
「は? 私ですか?」
「ええ、奥様に会いに来られたとのことです」
部屋で読書をしていましたら、執事にそう言われたのでついつい聞き直してしまいました。
ジョルダン様はお仕事に出られているので、この家には私しかいません。なので、それはそうなのですが……違和感が半端ないです。
首をグイングイン捻りつつ、兄が通されたサロンに向かいました。
「お待たせいたしました」
「遅ぇよ!」
「……はいはい。すみませんねぇ」
珍しく兄が不機嫌です。眉間に皺を寄せて眉がつり上がっています。どうしたのでしょうか?
「なぁ……母さんを説得してくれないか? ミヌエットを家に住まわせるとか言い出してるんだよ」
「あら? ミヌエットが嫌がってるんですか?」
「ちげぇ、俺が嫌なんだよ!」
――――ええ?
「お兄様と仲が悪かったとは思えないのですが……」
しばらく実家に帰っていた間、お兄様がミヌエットにお世話されてニヤニヤしている姿を見ていましたし、普通に話しかけて談笑していた姿も見ています。
ミヌエットが実家で働き出す前も、サロンでミヌエットとお茶をしていると乱入してきたりと、わりと仲がよかったように思えましたが。
「何かあったのですか?」
「いや、仲は悪くない! だから! 住み込むって言い出してるじゃないか!」
「え?」
脳筋兄が鈍感めぇぇぇ!とかなんとか叫び、俯いて頭を抱えてしまいました。
何がどう鈍感なのか説明してほしいです。
兄がガバリと起き上がりました。
「だから、ミヌエットが家にずっといるとか耐えられないんだよ! 今まで通り、通いがいいんだよ!」
「意味がわかりませんが……」
「分かれよぉぉぉ」
またもや頭を抱えました。上下運動の激しい兄です。
ミヌエットが我が家にいるのは嬉しいけど、二四時間は嫌。
ミヌエットを毎日見たいけど、ミヌエットにずっと見られているのは嫌。
ミヌエットに――。
ミヌエットが――――。
ミヌエットは――――――。
あ! これ! そういうことですか!
「お兄様、結婚したら、どうやっても毎朝夜のダラダラした姿や、口を開けている寝顔や、起きぬけのアホみたいな顔……すべて見られるのですよ」
「…………」
兄がうつむいたまま、顔を真っ赤にしています。耳が燃えそうなほど赤いです。
脳筋兄のくせに! 何を自尊心と羞恥心を抱いているのですか。
脳筋のくせに! 何を及び腰になっているのですか。
「脳筋脳筋うるさい!」
「脳筋に脳筋と言って何が悪いのですか! 好きなら好きとちゃんと言いなさい!」
「…………いやだって……あんなに可愛くて器量がいいんだぜ? もっといいとこのヤツ捕まえられるだろ……」
「お兄様のヘタレ! 意気地なし! 不能!」
「は!? なんでそうなる! 不能じゃねえし!」
脳筋兄が顔を真っ赤にしたまま、ガタリと立ち上がって叫びました。
これは負けていられません。
「ならば、好きだと叫んで、ブチュっとかまして来なさい! あ、頬か手に! 唇はだめですよ!」
「わかってっし!」
「ならば今すぐ行きなさい! 脳筋兄!」
「おぉ! やってやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
脳筋兄がバタバタとサロンを飛び出して行きました。
今から実家に帰るか、ミヌエットの家に押しかけるのでしょう。
頑張ってミヌエット!
「いや、まぁ、威勢がいいのは……うん。いいんだがな…………うん」
「ひょわぁぁ!」
お兄様を見送っていましたら、後ろからジョルダン様の声が聞こえました。
――――見られた!?
次話も明日の朝に投稿します。




