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23話:再びが再びで、ノリと勢い。

 



 人は誰しも、ノリとか勢いで、シュババババっとやっちゃうことがある。

 頭の中に湧き出たモノを追い出したくて。

 ……と、私は思うのよ。


「だから、ちょっとした脳内整理だったんです」

「で、()()()に『脳内整理』と『シュババババ』をふんだんに盛り込んで書いてみた、と?」

「はいぃ……」

「こっちは、離婚届だと解ってて、書き込んだんだね?」

「…………はぁいぃぃ」

「ふうん?」


 私の愛しい愛しい旦那様であるジョルダン様の手には、私がノリと勢いだけで書いた離婚届と手紙が握られています。

 そして、その離婚届と手紙がグシャッと棒のように丸められ、二人の間にあるテーブルに、バッシンバッシンと激しく叩き付けられています。


 実家の私室の、ちょっと作りが心許ないテーブルが、ガッタガタと揺れています。

 そろそろ本気で壊れそうな気が……。


 ――――あら? デジャヴかしら?


「現実だ」

「ですよねぇぇぇ」

「……」


 びっくりするほどに重たい空気です。いつも穏やかな空気を纏っていて、話しかけると微笑み返してくださる優しいジョルダン様を、本気で怒らせてしまったようです。




『ノーザン伯爵 ジョルダン様


 まさかこのようなお手紙を書くとは、思ってもいませんでした。

 人生とは不思議なものですね。


 ジョルダン様とお見合いをしたあの日から、徐々に貴方のことを好きになっていきました。

 結婚式の日、貴方と共に生きていけるのだと、舞い上がっていました。

 日々の生活が、幸せに満ちていました。


 ですが、もう無理です。


 他の方を愛おしそうに見る貴方を、他の方に愛を囁く貴方を、側で見続けるほど私の心は強くありませんでした。

 貴方の瞳を見るのが怖い。

 貴方の声を聞くのが怖い。

 貴方に愛されていないと痛感してしまうから。


 だから、二度と家には戻りません。

 どうか、私と離婚してください。


 幸せな日々をありがとうございました。

 

  ソフィ・アゼルマン』




 ――――と書いた、何かのネタのような離婚届と手紙のせいで!




 ◇◆◇◆◇




 そもそも、事の発端は姉夫婦にあるのです。

 …………たぶん。


 ジョルダン様とのラブラブ新婚生活半年が過ぎたある日、お母様から『緊急』と書かれた手紙が届きました。

 内容は、数年前に結婚して家を出ていたはずのお姉様が、三人の幼児連れで出戻りした。妊娠八ヶ月目ということもあり、三人の男の子たちの面倒が見れない。助けて! というものでした。


 ジョルダン様が結婚時の支度金などを支援してくださったおかげで、少しの余裕が出来た我が家ですが、慢性的な使用人不足がたたって、元気いっぱいの二歳〜六歳の男児の面倒を見る者がいないのでしょう。


 ジョルダン様の帰宅後にご相談すると、これから一ヶ月ほど、ジョルダン様が団長を務める騎士団も忙しくなるとのことでした。


「来週から演習や野営訓練が始まるんだ」

「あ! そういえばこの時期でしたね。お兄様が一番楽しみにしている野営訓練」

「……はぁ。全く解らないのだが、アイツは何故あれほどまでに料理が上手いんだ。煩いから置いていきたいが、全騎士に反対される。『マクシム飯が食えないのは嫌だ!』と」


 何故か、と言われますと、非常に塩っぱい理由なのですが。

 我が家はシェフを雇う余裕もなく、出来ることは自分たちでの精神……というか、必要に迫られて料理をしていました。

 お母様や私は家庭料理が出来ます。そこそこ、普通、という程度で。

 脳筋な兄は、食材が足りないと嘆く私達の為に、野山を駆け回って小動物を狩り、ハーブや食べられる野草を採って来てくれていました。

 そして、十代半ばにはサバイバル飯を作ることが得意になっていました。


「なるほど。そういう理由だったのか。アイツも少しは人の役に立っているのだな」 


 ジョルダン様がウンウンと頷いて感心してくださいましたが、そもそも材料が足りなかったのは、食欲旺盛な兄のせいなので…………まぁ、自給自足してくれたのでとても助かりましたが。

 あと、騎士様たちが言われるように、本当に美味しいのですよね、『マクシム飯』


「まぁ、そういうわけで、しばらく家に帰れない日が増えるから、ソフィに寂しい思いをさせてしまうな、と心配していたんだ」

「ジョルダン様?」

「使用人がいるとはいえ、一人での食事は寂しいだろう? 姉君や母君の助けにもなるし、訓練などが終わるまでの一ヶ月、実家に戻るのはどうだい?」

「でも……」


 全く帰って来られないわけではないようなので、そんな日はジョルダン様がお一人になってしまいます。

 ですが、ジョルダン様は笑顔でそっと頬を撫でて、柔らかなキスをくださいました。


「ならば、手紙を書いて騎士団へ届けてくれ。それだけで私は幸せ者だ」

「っ――――ふぁい」


 あぁぁ、何という心優しい方なのでしょうか!

 たらしです! 人たらし! あ…………もしかしたら、女たらしかも? こんなに素敵な人なんだもん。絶対にブイブイいわせていたはず!

 『ブイブイ』のブイが何かは知らないですけど。


「ソーフィー? なにか良からぬことを考えてはいないかい?」

「ひえっ⁉ なっ、何もっ!」

「ふうん?」


 ジト目で睨まれましたが、華麗にスルーしました!




 このときの妄想が、事件を引き起こすことになろうとは――――。

 



次話も明日の朝に投稿します。

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