22話:ジョルダン様の煽られ耐性。
私達の結婚生活は割と穏やかなものです。
「ジョーーーーーだーんーちょーーーー!」
兄が叫びながら飛び込んでくる以外は。
ジョルダン様はそんな兄をちらりとも見ずに、朝食を続けられます。
「ソフィ、目を合わせたら終わりだぞ」
チラッと兄を見ましたら、なぜか恍惚とした表情でした。ジョルダン様の言うことは一理あるのかも?
「団長ぉぉ、急いで急いで! 宰相様と殿下が怒鳴り合いの喧嘩してるんすよ。止めれるの団長だけなんすよぉぉぉ」
「朝から血気盛んなものだな。ソフィ、今日は久しぶりの遅出だ。ゆっくりと過ごそうな?」
「――――え、へ!?」
遅出なのは知っています。先程そのお話をしていましたので。お昼からの出勤だから、今日はサロンでのんびり共に過ごそうと。
ただ、こういった場合は行かざるを得ないのではないのでしょうか?
ジョルダン様は兄を完全無視することに決め込んでいるようです。
「ジョルダン様?」
「ん?」
「あの……本当に大変そうなので…………」
「ん?」
にこりと笑って続きを促して来られますが、目が全く笑っていません。ちょっと怖いです。
「その…………午前中をともに過ごすのはとても好きなのですが、夕方早くに帰って来られた日は、朝までの沢山の時間をずっと一緒に過ごせるので……その、凄く嬉しいのです。なので…………その……」
朝早くに行くかわりに、夕方早めに帰って来れたら、いいんじゃないかなぁ。ご機嫌良くならないかなぁ。喧嘩止めなくていいのかなぁ……なんて考えていました。
「ん。なるほど。夜の共寝を長く取りたいと。それは頑張らねばな。よし、行くか!」
――――ん? んんんん? あれ? 私、そんなこと言いましたっけ? いや、言ったかな? いや、言ってないのね? えぇ? あんるぇぇぇえ?
私が頭をぐいんぐいん捻っている間に、ジョルダン様は物凄い早さで完食されていました。
カツカツと私の横に歩いてきて、頬にキス。
ちらりと見たお顔があまりにも妖艶で、腰を抜かしました。こりゃ本気で夜がヤバいなと。
「早めに切り上げて帰ってくる。しっかりと準備しておきなさい」
耳元で重低音で囁かれました。腰抜かし二回目です。イスに座っててよかった!
ジョルダン様が「では着替えて行ってくる。君は気にせず食べてなさい」と颯爽と立ち去られました。
脳筋兄がサムズアップして『グッジョブ』みたいな笑顔ですが、その意図はありませんし、ジョルダン様の脳内で何やら計画されている夜の意図もありません。
取り敢えず、ジョルダン様はやると言ったらやる派なので、どうにか逃げられる方法を考えておかなきゃです。
うんうんと逃げる方法を考えているうちに、夜の帝王――ジョルダン様の帰宅時間になりました。
私の自室に籠城か、仮病か、のらりくらり躱すか……それしか思い付きませんでした。
「ただいま、ソフィ」
「おかえりなさ、んむ――――」
濃厚なキスと、抱擁。
一手目から攻め過ぎではないでしょうか?
「あれだけ煽って来たんだ、覚悟の上だろう?」
「えぇぇぇぇ!? その、煽ってなど…………本当に、煽ってなどいないんです」
「無自覚か。なお悪いな? 朝からあのように煽るとどうなるか、わからせてあげよう」
――――いや、だから!
「煽ってないですって! それで煽られるジョルダン様の耐性が――――あ」
やってしまいました。
ツルッとお口が滑ってしまいました。
ジョルダン様のお顔が夜の帝王濃縮タイプです。
ヤヴァァァいです。
「さ、夫婦の部屋で、認識の摺り合わせでもしようか」
「ふぁい……」
ギッチリガッチリと腰に手を回して、寝室までエスコートされました。
明日の朝日を無事に拝めるのでしょうか?
あれもこれもそれも、あの脳筋兄のせい………………ということにしたいです。
「どうやっても、ソフィのせいだが?」
「ですよねー」
窓から差し込む夕陽が、なんだか目に染みる……そんな日です。
次話も明日の朝に投稿します。




