21話:手料理を作って食べてもらおう。
三時過ぎにキッチンに向かいました。
なぜかシェフさんたちにホッとされつつ、物凄く急かされました。
全力でお手伝いしますから、何をお作りしたいのかお教えください。と言われてふと思いましたが、そこまで来ると私がお手伝いになるのでは?
気のせい?
「大丈夫ですよー。食材の場所と使っていいものさえ教えていただければ……あ、全部いい? わお」
骨付き鶏もも肉があったので、それを四本もらい骨から剥がしました。
もも身は、表面にブッスブスとフォークを入れておきます。こうすることによって柔らかくなるのと、味の染み込みも良くなるのです。
両面に塩コショウとドライハーブがミックスされた粉末を少し振り掛け、一旦放置。
先程剥がした骨はクズ野菜などとお鍋に入れて出汁取り。スープは味を整えればオッケーです。
サラダは葉物を適当にぶっちぶちとちぎるだけ。白ワインビネガーに塩コショウと砂糖、最後にオリーブオイルを混ぜてドレッシングの完成。
「はちみつはありますか?」
「はい、こちらに」
色々な種類のはちみつがありましたが、その中でもローズマリーを蜜源としたはちみつを使うことにしました。
はちみつに粒マスタードとマヨネーズ、塩などの調味料で味を整えて完成。
そこでジョルダン様が帰ってきたと報告があったのでパタパタと玄関ホールに向かいました。
「おかえりなさい!」
「ただいま、ソフィ。ん? なんだか美味しそうな匂いがするな」
「移り香ですかねぇ?」
さっきまでキッチンにいたのでよくわかりません。
ジョルダン様がきょとんとして「移り香?」と聞いて来られました。このきょとん顔は幼く見えて大好きです。
「夜ご飯を用意していたんです。もうすぐ出来ますので、お着替えされて、待っていてくださいね?」
「っ! ん!」
なぜか唇にガッツリとキスをされました。何やら幸せいっぱいらしいです。幸せいっぱいということは、お腹はすでにいっぱい!? 私的にはそう思うのですが、真顔で違うと言われました。
「そこだけはソフィと一緒にはされたくないな。着替えてくる」
「はーい」
キッチンに戻り、もも肉をフライパンで焼きます。皮面をバリッバリに仕上げて盛り付け。
ジョルダン様のお皿に三枚分、私のお皿には一枚。
普通、三枚は多いかと思われがちですが、普段の食事量を見ている限り、この量で間違いありません。
パンは柔らかめのバターロールを用意してもらいました。
すべてが揃ったのでダイニングに運ぶと、ジョルダン様がウキウキとしたお顔で席につかれていました。
「お待たせいたしました」
「おお、凄くいい匂いがするな。チキンのハーブ焼きか?」
「はい! それにハニーマスタードソースをお好みの量かけてくださいね。ちょっと多めくらいが美味しいですよ」
まずはサラダから。普通のシンプルなドレッシングだったのですが、ジョルダン様はとても美味しそうに食べてくださいました。
チキンソテーは、ハニーマスタードソースは初めてだと言われ驚きました。脳筋兄も作れるのですが?
「ん! これは美味い。はちみつだから甘々しいのかと思ったが、そうでもないのだな。んっ、スープも美味い」
ジョルダン様が物凄い早さで食事をされます。
ふと、兄が『誰にも取られないので落ちいて食べなさい!』と母に怒られていたのを思い出してクスクスと笑っていましたら、兄と一緒にするなと怒られてしまいました。
「ふぅ。とても美味しかったよ」
「わぁぁ、ありがとうございます」
もしよかったら、これからも時々でいいので手料理が食べたいと言われました。
「愛しい妻の作った料理を食べられる貴族などほぼいない。しかも味までも伴っている。こんな幸せなことはない」
過大評価をされている気がしますが、美味しいと思っていただけたのは、心から嬉しかったです。
次話も明日のあさに投稿します。




