20話:平穏な日々。たぶん。
ジョルダン様と結婚し、共に暮らすようになって一ヶ月ほど経ちました。
毎日のようにジョルダン様とお話できるって素晴らしいです!
この国は結婚して家を出ると、『たとえ実家でも別の家庭であり他人だ』という風習のようなものがあります。爵位なども関係してきて、実の父母に恭しい態度を取られてしまうことや、単純に話す機会がほぼ無くなったりするのだそう。
…………そう、らしいのですが。
「よお!」
「……おはようございます」
週三くらいの頻度で、脳筋兄が玄関ホールにいます。
今までより兄の顔を見ている気がするのは気のせいでしょうか?
「ソフィ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
そして、ジョルダン様のお見送り。
兄の前でキスをするはめになっています。
流石に恥ずかしいので頬がいいのですが、ジョルダン様にお伝えしましたら、キラキラの笑顔で無視されました。
「今日はかなり遅くなるから、先に休んでなさい」
「はぁい」
またかー、となりつつ返事をしていると、ジョルダン様が仕方なさそうに笑いながら、今度は頬にキスをくださいました。
「そうも寂しそうな返事をされると、今すぐ寝室に――――」
「いーってらっしゃいませぇぇい!」
「ははははは! ん、行ってくる」
危ないあぶないアブナイ!
もう少しで帝王が降臨するところでした。
脳筋兄が「よし! それなら、俺と!」とか謎の発言をして、鳩尾に膝蹴りをされていましたが、あれは無視でいいはずです。なんか、嬉しそうですし。マゾですね。真性のマゾ。
今日も、平和です!
ベッドの中で微睡んでいましたら、程よく温かくて弾力のある何かにギュッと包まれました。
これはあれです……ジョルダン様。
そうは分かっているものの、落ちてしまった目蓋がなかなか開いてくれません。
「んー、じょるだんさま…………おかえりなさぃ…………」
「起こしてすまない。大丈夫だから寝てなさい」
「…………うん」
耳元でくすくすと低く柔らかな笑い声を聞きながら、また夢の世界へと戻りました。
そして朝目覚めると、ベッドに一人きり。
こんなこともよくあります。
ジョルダン様の体調が心配ですが、もう慣れたとのことでした。
執事さんから、今日の帰りはいつもより早めにはなるとお伺いしましたので、手料理でお迎えすることにしました。
ジョルダン様に初披露の時です!
「では、シェフに伝えておきますね」
「よろしくお願いし……よろしく?」
「はい」
老齢の執事さんにクスリと笑われました。
未だ年上の方に偉そうな態度は取れません。
朝食をササッと取り、午前中は読書。そして昼食をのんびりと食べていたら、執事さんに料理はいつ作るのかと聞かれてしまいました。
「えーと、ジョルダン様が帰ってきそうな一時間前くらい?」
「は……その程度で大丈夫ですか?」
一時間もあれば大概できると思うのですが、何やら料理のイメージにズレがありそうです。
「あ、シェフさんのような手の込んだものは出来ませんよ?」
「承知しました。何かお手伝いする必要があれば、シェフと手伝い達にお伝え下さい」
「ええ、ありがとう」
さぁて、何作ろうかなぁ。
食材は色々と取り揃えてあるらしいから、作り放題らしい。
肉体と頭脳と両方酷使されているジョルダン様に、何か疲れがぶっ飛ぶようなものを作りたいけれど……。
脳内で、夕飯の献立を組み立てつつ、美味しくおやつとお茶もいただいた。
――――さて、そろそろ動こう。
次話も明日の朝に投稿します。




