17話:誓いの口付け、とは?
――――眠れません!
ベッドの上でゴーロゴロ。右へゴーロゴロ。左へゴーロゴロ。
全く眠くないけど、眠らないととは思っています。
なぜこうも眠れないのかというと、明日は結婚式。
朝早くから沢山の準備が待っているのです。
こうなったら羊でも数えましょうか?
うーん、羊も可愛いけれど…………。
「ジョルダンさまがいっぴき、ジョルダンさまがにひき、ジョルダンさまがさんびき、じょるだ…………」
「ということで、気付いたら百人近いジョルダン様とお部屋にぎゅうぎゅう詰めにされていたんです」
「ぶっ! …………くははははは!」
ぐえーぐえー言いながらコルセットで締め付けられ、真っ白で神々しいウエディングドレスを着終えたところで、ジョルダン様がお迎えに来られました。
今朝方見た夢のお話をしましたら、なぜかお腹を抱えて笑われました。
私個人としては、圧死の危機を物凄く感じていたのに!
「夢に見るほど、逢いたかった?」
「それはっ……その…………はい」
「ん、かわいいな」
お化粧をバッチリとしてもらっていたせいなのか、ジョルダン様が私の左手を握ると、掌や手の甲、そして手首にまで、何度もキスを繰り返していました。
「さあ、そろそろ式場へ行こうか」
「はい!」
近年は迎賓館という場所でお客様をお呼びし、式と披露宴を行う習わしです。
チャペルの入口でジョルダン様と二人並んで腕を組みます。
扉が開き、入場。
しずしずと歩いて司祭の前へ。
ジョルダン様の執事が婚姻証明書を大司教様に提出すると、大司教様がうなずきました。
「これより、ジョルダン・ノーザンとソフィ・アゼルマンの結婚式を執り行う」
普通は司祭様が執り行われるのですが、ジョルダン様のご実家や、将来引き継がれる爵位などで、まさかの大司教様が執り行われています。
今更、ジョルダン様のご実家をちゃんと把握できていないとか言えない状況です。
式は順調に進み、指輪の交換も済ませました。
結婚指輪はシンプルなものが良いという私の希望を取り入れてくださって、細身のシルバーリングです。
ただし、内側に技術の粋を集めたかのような細かい文字で『永遠に消えぬ愛を君に捧ぐ』と書いてありました。
「では、誓いの口付けを」
ヴェールをゆっくりと捲られました。
ぼんやりとしか見えていなかったジョルダン様のお顔が、ヴェールが無くなりやっと見ることが出来ました。
心臓が締め付けられるほどの破顔。
「ソフィ、この時をずっと心待ちにしていた。愛しているよ」
「はい、私もあ――――」
続きは誰にも聞かせないとでも言うかのように、隙間なく深く重なり合った唇。
カクリと膝が抜けてしまい、ジョルダン様に抱きとめられてしまいました。
これ、普通の誓いのキスなのでしょうか?
何だかチャペル内がザワッとしていますが?
ジョルダン様をジットと見つめると、にっこりと優しく微笑まれたので、きっと普通なんでしょう。
「ん」
髪型を崩さぬようにそっと頭をぽんぽんされました。
何故に子供扱い!?
披露宴会場に移り、立食を楽しまれているお客様にご挨拶。
「ソフィ嬢、見違えるほど美しいね」
「おととととととうさま」
「ハハッ」
ジョルダン様のお父様がタラシです!
侯爵様ってもっとこう、『鬼厳しい』みたいなイメージだったのですが、いつもこうやって場を明るくしてくださいます。
あと、ジョルダン様がお年を召したら、こんなイケシブメンになるのかというワクワクドキドキも――――。
「父上……ソフィを誘惑しないでください」
「はははは!」
「全く、貴方はもぅ……。ソフィさん、これで正式に我が家の一員ですね。ジョルダンをよろしくね」
「ここここちらこひょ、よろしくお願いいたします」
噛みました。
ジョルダン様のお母様は驚くほどに若く美しいです。ジョルダン様と同じ年にしか見えません。何なら顔合わせの際に妹さんかなーとか思っていたくらいです。
「まぁ! ありがとう存じます」
あれ? どれか声が漏れてた?
「『わかいぃぃ、うつくしぃぃぃ』とボソボソ言っていたが?」
「あらららら?」
苦笑いしたジョルダン様に蟀谷にキスをされました。
それ、どういう表情と感情なんですか!?
三時間ほど挨拶回りや歓談をして、宴もたけなわなお時間らしいです。
ジョルダン様が参加してくださった皆様にご挨拶をして、脳筋兄が「今夜から明日の朝は絶対に呼び出さないんで、安心してください!」と叫んで、殴り飛ばされ、全員が笑うという謎の一連はありました。
「ソフィは気にしなくていい」
そう言われるので、気にしないことにします!
次話も明日の朝に投稿します。




