16話:ドレスの最終チェックとお茶会。
連日続くダンスの訓練でクタクタになりつつ、適度な食事を繰り返していました。
「……本当に痩せるとは」
まさかのドレスがピッタリ。
お腹がかなり引き締まりました。
「良かった、本当に良かったわ」
お母様が心底ホッとされていましたが、私も本気でホッとしました。
この一週間、毎日のように耳元でジョルダン様の鼻歌を聞き続けて、何度卒倒しそうになったことか。
格好良いうえに音感まで良くて、声は何かゾワゾワするし、ダンスは上手いし、いい匂いはするし、密着し続けるしで、私の精神は疲労困憊です。
「延期になって、どうなることかと心配したけど、本当に良かったわ」
「ですねぇ」
なんやかんやとやっているうちに、四週間があっという間に過ぎていて、あと三日で結婚式です。
先程ドレスの最終チェックも終わり、今はお母様と二人でお茶を飲んでいました。
「でも、貴女が家から出るのだと思うと、本当に寂しくなるわね」
「お兄様がいるじゃないですか」
「いやよ、あんなムキムキ筋肉ダルマ」
「それには同意ですが」
流石に可哀想というか…………。
「カリーナもお嫁に行ってしまって、残っているのは将来は有望なのに、家庭を築けなさそうなマクシムよ!? ノーザン伯爵と縁続きになれるって踊る馬鹿な子だけなのよ!?」
そこについては何も言えません。
それにね、とお母様が続けます。
「貴女が出ていくと、家に一人きりになって、寂しいのよね……」
「…………お母様」
たしかにお姉様も随分前にお嫁に行きましたし、私も出ていくと、この家の女性はお母様だけになってしまいますし、お父様も兄も帰るのは夜。
日中は一人きりになることも増えるでしょう。
たしかに寂しくはなりますね。
「そろそろ住み込みか通いのメイドを雇いませんか?」
「そうねぇ、そうしましょうか」
取り敢えずは、通いのメイドを何人か雇い、その中で波長が合う人物に住み込みの打診をしてみることになりました。
いつも利用している、平民街のお手頃なカフェで友人――ミヌエットとお茶をしました。
「今日はお茶だけにしておきなさいよ?」
「わかってるわよぉ」
でも――――と友人が続けた言葉に天啓が降ってきました。
「貴女とこんなふうにワイワイと騒いだり、お屋敷にお邪魔してマクシム様を眺められなくなるのねぇ。そろそろ働き口も探さないとだし、色々と変わっていくのねぇ」
友人は寂しさを感じているようですが、私はそれどころではありません。
「っ! ミヌエット! 貴女、私の家で働かない?」
「え……ありなの?」
「え? ありじゃないの?」
「マクシム様眺め放題するわよ?」
そこは一向に構わないのだけど。
ミヌエットってわりと脳筋兄を気にいってるけど、なんでなのかしら?
「格好良いし、見てて面白いじゃない」
あ、面白いのね。まあ、その程度よね。
借金もなくなり、金銭的余裕が出来てきた我が家、たぶん数人は雇えるのですよね。
お父様はそこそこに収入がありますし、兄はわりとありますし。
「おじ様に働きたいって伝えてくれる?」
「もちろんよ!」
ミヌエットは私と同じく、あまり結婚や貴族のお付き合いには興味がないので、ゆくゆくは働きたいと常に話していました。
今回がなかなかいいチャンスなのかもしれません。
我が家で働くことに慣れれば、きっと他のいい雇先などが見つかるかもですし。
貴族の家は良くも悪くもなかなか未経験者は雇わないのです。基本が口コミや紹介や斡旋。
「そんな足掛かりにするみたいに……」
「え、いいじゃない。そもそも、お母様だけでも割りとできるけれど、寂しいというのがメインなのよ」
「まぁ! おば様ったら相変わらず可愛いわね」
「えー? そう?」
わいわいとそんな話をしつつ、お茶だけでグッと我慢して、友人とのお茶会を終わらせました。
「へぇー。いいんじゃね?」
「おぉ、助かるな」
友人を雇うことに兄もお父様も賛成のようでした。
これでお母様も寂しい思いや大変な思いをせずに済みそうです。
次話は明日の朝に投稿します。




