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台所の排水詰まりを自力で解決した話  作者: 沖綱真優
第一部 見慣れぬ穴の正体
11/36

一の十一 最深部への道程 〜凝固〜

汚水枡の側面付近をスパチュラで何度も突き、隙間に差し込み、左右に揺する。

 壁から引き剥がし、緩めるイメージで。


 がっがっがっ。ぐっ。


 手に戻る感覚を頼りに、突いて突いて、揺する。ぐらり。感触が変わる。

 スパチュラが動かしやすくなった。固まりが砕けて小さくなったようだ。


 お玉に持ち替え、掬い上げる。


 ()()()


 固まり。

 固まりだ。

 臭いは、ほとんどしない。

 鼻が麻痺してきたのかもしれないが。


 こんな、固まるほどの。


 もちろん台所シンクから天ぷら油を流したりはしない。

 鮪の油漬けの油も新聞紙に吸わせて捨てている。

 煮豚の冷えた後に表面を覆う真っ白な脂の層も生ゴミで捨てるし、ハンバーグを焼いたフライパンの油も新聞で拭き取る。


 だが、揚げ物調理は週二回以上、魚よりも牛肉や豚肉の使用が多い。

 少しずつ、溜まっていった。十数年掛けて。


 愕然と。

 意識の低さ、知識の少なさ。

 今日を招いた昨日までの自分に、愕然とする。


 だが。

 だから、今、掘っている。

 足りない分を、行動で埋める。


 水分のほとんどない固まりは、そのままビニール袋に入れた。

 お玉の上げ下げを繰り返し、何度か固まりを引き上げると、じゅるりとした感触に変わる。


 これは。


 汚泥。

 引き上げたお玉には、固まりとともに汚泥が入っている。


 汚泥の層と固まりの層があるのか。


 悪臭に刺されつつ、汚泥を引き上げる。


 すでに前腕の中ほどまで汚水枡に突っ込んでいる。

 垂直に立った汚水枡に垂直に腕を入れ、握るお玉の先に触れる汚泥や固まりの感触を逃さぬよう集中している。


 引き上げたお玉の中身をバケツに移し、検分し、溜まれば捨てて水切りネットを交換、泥水を捨てに行く。


 繰り返す。

 淡々と、繰り返す。

 

 座り込み、腕を突っ込み、引き上げ、振り返る。

 立ち上がり、歩き、また戻り、座り込む。

 

 繰り返す作業の中、疑念が擡げる。


 これは、下流に通じているのだろうか。


 台所シンクからの排水がこの汚水枡から溢れたの()()()、下流に通じる横穴があるに違いない。

 排水管は家屋側面に平行に伸びているの()()()、左手側に現れるに違いない。


 理屈は合っている()()

 だが、()()()()()理屈だ。

 その人物は、足りない考えを行動で埋める。()()()()()

 都合に合わせて理屈を変えることなど、造作ない。


 冬の日、家屋の影にひとり蹲り、向き合うは汚れと悪臭と。否定的な思考が断続的に襲い来る。

 だからといって、手足は止まるわけでもない。

 マスクの中、今度はひとり笑む。


 上流から水が流れてきている。やはり、出口は必ずある。それに。

 

 ずっしりと中身の詰まったビニール袋を見遣る。


 これだけの汚泥と固まりを取り除いたのだ。

 決して、()()にはならない。

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