龍焼却
ふう……すっきりした。
右腕の狙撃銃の銃口から硝煙の煙を立ち上らせながら一息つく。
あの後、アンジェリーナと別れて気紛れに森に来て目についた獣やら魔物やらを片っ端から撃ち殺していたが……案外楽しいもんだな。
今度はスナイパーライフルではなく、マシンガンでやってみるのも良いかもしれないな。……ん?
《音叉》が車輪の音を捉える。それと同時に右腕を元に戻して木々の影に身を潜め魔力をローブに通して透明化する。
透明化は別に良いかもしれないが……まあ、そこら辺は念には念を入れて、だ。《音叉》を応用して人の話し声でも聞こえてこないかな。
『なあ、知ってるか?』
お、聞こえてきた。案外使い勝手が良いな。
『ヴァイラ鉱山の方で神龍が現れたらしい。それも2頭も』
『はあっ!?』
ティアマトとエリドのことだな。あの龍たちは人間たちも認識しているのか。
『まさか、それを討伐とか言うなよ?冗談じゃねぇ!』
『んな訳ないだろ。目的はそっちじゃねぇ。神龍の出現地域には様々な龍が出現するんだよ。それこそ、珍しい龍もな』
『ああ、そういうことか。神龍じゃねぇ龍を狩ればぼろ儲けできる』
『ま、そういうことさ』
……いや、バカなのか?あそこまでの化物の劣化個体だとしてもそれでも充分脅威だろ。
恐らく龍という種自体がそこまでいないから実力を見誤っているのかもれしないな。
『あぁ?……何だこりゃ』
お、どうやら何かを見つけたようだな。確認は……ちっ、森が深すぎて《鷹の目》でも視認できない。
『エルフの村だ。ひでぇなこりゃ。生きてるやつはもういないだろ』
『兄者、ここが依頼の村だよな?』
『そうだ、弟よ。依頼の内容は村の近くに生息し始めた魔物の狩猟だったが……何があればこうなるのだか』
村が壊滅した。しかも、村の付近で魔物が出現していた。となれば魔物によるものだろ。
だが……いくら小さくても村なら全滅するなんて事はそうそうないだろ。
『兄者!井戸の中にエルフの女が!』
『分かった。引っ張り上げ……なんだありゃ!?』
お、展開が変わった。
驚愕が絶叫に変わる前に《音叉》を解除する。
一々五月蝿い声を聞くのは精神的衛生的に悪いしな。
何事もないように透明化を解除し森を出るために歩き始める。
逃げる訳ではない。敵対することにメリットがないからだ。
強制進化とはいえ俺も龍の亜種。なら、龍を殺すことにメリットはない。それに、殺すだけなら手段はいくらでもある。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
まあ、それもこれも向こうが見逃してくれたら、だけどな。
身体を震わせるほどの咆哮と共に目の前に何かが墜落する。衝撃で周囲の木々を吹き飛ばす。
たく……ダイナミックすぎないか?
皹の入った身体を《錬金術》で修復する。それと同時に土煙の中から鋭い尾が蛇のように現れる。
咄嗟に右半身を切り離す。それと同時に尾が右半身を貫き粉々にする。
たく……。一々直すのが面倒なのだが。
《錬金術》で近くの土を泥のように変え《鉱物接合》で固着、身体を元に戻す。
一から作り直すことも出来たが……この相手にはそんな隙を見せることは出来なさそうだ。
土煙の奥からのっそりと現れる龍に私は警戒しながら右腕をスナイパーライフルに変え銃口を向ける。
それと同時に右肩から先を噛み千切られる。
なん……!?
「グオオオオオオオオ……」
噛み切った右腕を吐き捨てた龍は赤い瞳で私を睨み付ける。
龍の姿は一見するとムササビに似ている。前足と後ろ足に繋がるように翼膜があり臀部から生える尾は反り返り、返しのついた尾の先端がこちらを向いている。黒ずんだ鱗に覆われているが狼を想起させる顔立ちには鱗ではなく同色の毛が生えていた。
まあ、それはどうだっていいけど。
ローブを脱ぎ体内に沈め魔力に変換しながら振り下ろされる尾を避ける。
動きが大振りすぎ。馬鹿みたいに予備動作が大きければどれだけ速くても躱すのは容易い。
そして、頭が足りないからこそあっさりと終わる。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
地面から吹き出した火柱に龍は巻き込まれ絶叫する。
お前が砕いて捨てたスナイパーライフルを土に戻した際についでに《業火魔法》を発動させていた。何時臨界になるか、どれくらいの規模になるか定かではなかったからヒヤヒヤしたよ。
溶けた左足を溶かして元の形に戻すと同時に火の中から身を燃やしながら龍が飛び出てくる。
なるほど、道連れにでもするつもりか。だが、無駄だ。
腹から飛び出した腕を切り離して放り投げる。
それと同時に爆発し吹き飛ばされる。
今度は規模は小さいけどすぐに爆発したか。火力は馬鹿みたいに高いし、制御が利かないし、本当な厄介な魔法だ。
だがこれが現状一番強い魔法だから使わざるをおえないのが難点なんだよな。
《レベル5からレベル6になりました》
周囲の土を泥に変え身体を形成する。
あー……やっぱしこうなっちまうか。
爆発や火柱のせいで抉れた地面を見てため息をつくとさっさと木々が生い茂った場所に逃げ込む。
別段逃げ込まなくても良かったが……ま、全裸の状態を見られるのもな。
ローブを取り出して羽織ると村の方に向かう。
《音叉》で村の位置を把握しておいてよかった。まあ、別段助ける必要はないが……あ?なんだあの連中。
俺が茂みに隠れてると全身黒づくめのローブを着た集団が森の中を歩いていた。
《音叉》に反応がないとしても、なんだあの連中は。少し気になるし、追いかけるか。
俺は《無音》を発動しながら黒づくめの集団の跡を追いかける。
気づいてはいないようだが……怪しすぎるからな。




