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グレイラード

『ほう……これは凄いな』

「でしょでしょー」


馬に乗り合わせて数時間、私たちは最寄りの街である『グレイラード』に着いた。


グレイラードはその周囲を10メートル近くある城壁に囲まれた軍用都市だとアンジェリーナから聞かされていたが、実際に見てみるとかなり迫力がある。


それに、城壁全体に魔力が行き渡っているのが見て分かる。魔法についてはよく分からないが防衛用の魔法だろう。


あれだけの魔力を常に維持するのはかなりの資金が必要になる筈だ。


「この街は帝国との戦う際に最も近い防衛ラインの一つになるの。だから王国はこの街の軍事力に多額の資金を投入してるの」

『なるほどね……』


どうりで、これほどの城壁を維持することができるのか。


アンジェリーナが騎士の勲章を門の衛士に見せてそのまま城壁の内部に入る。


城壁の中は中世の町並みだが排泄物が当たり前のように捨てられている訳ではなくそれなりに清潔だった。そして、かなり賑わっていて活気がある。


ふーん……中世ヨーロッパに近い世界観だからてっきり排泄物が当たり前のように道に捨てられていると思ってたが、意外と綺麗だな。上下水道でも完備されているのだろうか。


……それと、かなり視線を集めているな。ついでに、邪な視線も。害意がある訳ではないのが幸いだ。あったらとりあえず火の矢を射ってた。


「そういえば、ガラティアは何か職業を就いてるの?」

『いや、私はそういうのは特に…』


それを考えていたんだがな。なるべく制約が少ない職業があれば楽だ。


「騎士でも良いけど……うーん、魔物狩りのハンターになるのは?基本的に身分を持ち出すのがタブーになってるし」

『それも良いかも知れないな』


まあ、魔物が魔物を狩って収入を得るのは少しばかりおかしな話だけどな。


……うん?


アンジェリーナと談話していると街を歩く人間――の隣を歩く狼に目を向ける。


あの狼……魔物だ。人間が魔物を連れている。それを周りは珍しくもなさそうにしているし、魔物が街を闊歩するのは珍しくないのだろうか。


『……魔物を人が手懐けているのか?』

「ん?ああ、低ランクの魔物だったり、産まれた時から人の手で育てられた魔物は特殊な魔法を使って使役できるんだ。『従魔』と呼ばれていて、上位の騎士たちが使う馬や城で飼育されているワイバーンも『従魔』よ」


成る程ねぇ……ペットと野生の動物の違いみたいなものか。


「ガラティアちゃんの近くでは従魔はいなかったんだね」

『かなり田舎だったからな』


田舎というか、何もない山だった。


「まーかなり珍しい魔法だからね。それに、どんな魔物も従魔にできる訳じゃないし。あ、それとガラティアちゃんは宿は決めてるの?」

『……特には。適当な場所で野宿すれば良いだろ』


第一、襲われたところで誰にも悟られずに皆殺しにできる訳だから宿を取る必要もない。


「駄目よ。ガラティアちゃんは顔立ちが整ってるんだから連れ去られるのが目に見えてるわ」

『……そうだろうか』

「ええそうよ。……分かった、少し寄るわ」


少し不機嫌気味に手綱を引くとアンジェリーナは目的地に向かって馬を走らせる。


やれやれ……どこに連れていかられるのやら。


そんな事を考えているととある建物に着く。


一階が飲食店で二階が宿として運営される建物で、アンジェリーナが馬を停めて降りため俺もその後に続く。


「黒雫亭。騎士たちが愛用してる酒場で、二階は宿になってるの」

『……ここを宿にしろと?』

「まぁそうね。雑魚寝もあるけど個室の方が良いでしょ」


まぁ、それは確かにな。


アンジェリーナが店の扉を開けて中に入るとウサミミ生やした幼女がやってくる。


白く艶やかな毛並みに頭から生えるウサミミ。これは……うん、獣人と呼ぶべきだろう。


「獣魔族は初めてかい?」

『……まあな』


元いた世界にはいなかった生物を見ると本当に異世界に来たと理解できる。見ていて興味深いのだ。


ていうか、獣人ではなく獣魔族ね。あくまで人とは違う生き物だとしたいのだろうな。


「は、始めまして!ミーシャです!あの、お名前は」

『ガラティア』

「ガラティアさんですね。何日ほど泊まりますか?」

「とりあえず一週間くらい泊めてもらいな。あ、お金はアタシが持つで」


そういってアンジェリーナは金貨を数枚ミーシャに渡す。ミーシャは金貨を腰に着けた袋に仕舞いお釣りを渡し、鍵を取り出す。


「二階にあがってすぐ右側の部屋です」


どうも。


ミーシャから鍵を受けとるとミーシャは奥に入っていく。


さて、それじゃあ……。


『何故、私にここまで世話を焼く。貴方にはメリットがない筈だ』


私の問いにアンジェリーナは少し照れたような笑顔で、


「実は……君の事を美しいと思ってしまったからなんだ」


……は?


「圧倒的なまでに整った体型に寸分違わず左右対称の体。石像のように美しい顔立ち。白亜のように白い肌。宝石のように美しい翡翠色の瞳。長くきめ細かい白髪。全てが美しく、全てが噛み合っている。ませに、芸術品だ。どんな彫刻家でも君を越えることはできない!」


……あ、こいつは変態だ。色んな意味で。


鼻息を荒くし、頬を高揚させ、汚い笑顔で近づいてくるアンジェリーナから少し身体を引く。


私は前世の頃から顔立ちは整っていたが、ここまで言われた事はない。というか、美術品に例えられるのはあまりにも予想外だ。


「そんな訳で、アタシは貴方の世話を焼きたいのよ」

『……まあ、それはそれとして職場に戻らなくて良いのか?』

「あ……やばっ。それじゃあ、また明日!」


話を逸らすと簡単にアンジェリーナは宿を出ていった。


はぁ……また明日って、明日も来るのかよ。重度の変態だと思ってしまった以上、来てもらっても困るが……まぁ、別に構わないだろう。どのみち、そう長い期間滞在するつもりはないしな。


私は鍵を人差し指に引っかけて回しながら階段を上がり、ミーシャに言われた部屋の中に入る。


ふむ……ベッドに机に椅子と、まぁ最低限の物が揃った部屋というべきか。ま、短期間の滞在なら別に良いだろう。


ベッドに寝っ転がり、目蓋を閉じる。


……そういえば、眠るという行為をしたのは何日ぶりだろう。転生してからもうずっと眠っていない。鉱物だから、睡眠が不要になったからな。


疲れが溜まってる訳ではないし、睡魔がある訳でない。


だが、少しくらい意識を落としても問題ないだろう。


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