協力者 (2)
「―――なるほど。確かにこれはオフレコでないと話せない話ですね。」
益子さんは頭をポリポリと掻きながら僕が話した事を自分なりに考えているようだ。
話していた僕ですら、未だに信じられない気持ちの方が大きいし、どうしてこうなったのかと思うとこが多い。
新聞記者を長年続けている益子さんなら、色々な話を聞く機会も多いだろうし、不可思議な事件や事故の現場にでくわしたりしているだろう。
そのような人でもちょっと困るような話である。話を聞いていた教授も同様だろう。3人共、何と言ったらいいのやらという空気に包まれていた。
そんな中だった。益子さんの直感に引っかかるものがあったようだ。
「うん、まてよ・・・戸田君だっけ、さっき、〇〇県の××村のキャンプ場と言ってたよね。それって、間違いないよね?」
「ええ、間違いないです。透明度本州一って言われる沼のそばにあるキャンプ場だと聞いてます。」
僕がそう答えると、はっと何かに気がついたような顔をする。
「そこのキャンプ場に近いところにある廃墟か。しかも、何かの隔離施設か医療施設だったような跡のか。そこってどれぐらい前のだかって行った人達から聞いているかい?」
「いえ、すいません。聞いてはいないです。ただ、かなり古い施設のように感じたとは聞いています。」
「そうか・・・。しかも、内部は土砂で埋まっている所もあったって、もしかしてだな・・・。」
益子さんは何やら思う節があるようだけれど、言葉に詰まっている。流石に僕が知っている情報だけでは、確信に至るまでは難しいのだろう。
思わず何が分かったのか聞きそうになったが、僕が聞く前に教授が口を挟んできた。
「益子さん、何か分かったのかい?何かヒントのようなものがあれば、私の持っている資料で分かるモノがあるか探してみるが。」
「あ、先生、すいません。分かってというわけではないのですが、隣県とはいえ、あの辺りは今度特集を組む大地震で大きな被害を受けた地域なんですよ。ましてや、その地震が起きたのがよりによって例の大戦中でしたからね・・・。」
教授もその言葉を聞いて納得した様子であった。あの大戦で我が国の敗戦ムードが一気に高まった時、当時の軍部や国の上層部は自分達に不利になる証拠や資料という物は全て焼き尽くしているし、何よりも精神論優先で悪逆非道な事をしていた人達も上層部には多かったという話がある。
「そうなると、資料を探すのも証言を得るのも一苦労になりそうですね。私としてはあの時期に失われた証拠や資料は興味深いものがありますし。・・・そうだ、迷惑でなければ、うちの戸田を益子さんの手伝いとして貸したいと思うのですが。」
何食わぬ顔でしれっと恐ろしい事を教授は言い出したのに気がついた。
思わず、え?!という顔をしてしまった。
「それは助かります。私としても人手は欲しかったところです。これから社に戻って取り急ぎの確認と稟議を上げてみますが、教授の紹介という形の短期のアルバイトって事にすれば、彼にもメリットはありそうですね。」
僕が口を挟む間もなくどんどんと話が進んでいく。思わず、「教授~!勘弁してください!!」と心の叫びを言いそうになってしまうぐらいの勢いで。
「それじゃ決まりですね。まだ1年生とはいえ私にこき使われていますからそれなりに使えると思いますのでよろしくお願いします。」
教授はそういうと益子さんと握手を交わし、益子さんは僕に向かっていい笑顔で「よろしく!」と声をかけてきた。
・・・うん、この雰囲気では断れない。絶対に無理だ。毎度の事とはいえ教授の後押しが強過ぎる。
その後、二人は軽く今後についての話を済ませ、益子さんは社へと帰っていった。
帰り際に「2日後に×××駅に午前8時半に来てくれ。迎えに行くから。」と言い残し、新幹線の回数券を僕に預けて。
益子さんが研究室から出ていった後、僕は思わず教授に恨み節をぶつけそうになった。
「教授~、僕が益子さんの手伝いって・・・」
少し涙目になりながら、流石にこれ以上言ったらヤバいと思う寸前で止めるような感じで。
「戸田君にとってもいい勉強になると思ってな。1年とはいえ、今後の将来の事も考えなければならないだろ?それに益子さんのとこでの経験は社会に出た際に戸田君にとっても役に立つかもしれんと思ってな。」
この人らしい回答に思わず頭を抱え込みそうになった。僕の事を思って言ってくれているのは分かるのだけど、羽生教授は天邪鬼な性格なのもあって唐突な事をしたがるのだ。
「はぁ・・・わかりました。それで益子さんの手伝いをしている間は僕は何をすればいいのでしょうか?」
これは聞いておかなければならない事。どういう形で状況報告をすればいいのかなど確認しておかなければ後で面倒になる。
「それなら、分かった事があればメールで構わないからレポートとして送ってきてくれればいいよ。流石にきっちりとしたレポートにまとめて送ってくれは時間的に厳しくなるだろうから、簡潔かつ明確に要点をまとめたものでいい。何時も私の手伝いで現地入りしている時の感じのでいいよ。」
教授はそう言い残し、研究室の奥の資料庫へ向かっていったのだが、何かを思い出したかのように一度振り返り僕に言う。
「そうそう、益子さんには戸田君の連絡先電話番号とメールアドレス教えてあるから。何かあれば連絡が来ると思うよ。」
・・・相変わらず手回しと手配が早い教授だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は研究室からの帰り、絵里の入院している病院に再度寄る事にした。朝方にも訪れているが、2日後からはなかなか行く事が出来なくなる。
そう思うと、少しでも絵里の傍に居られる時間を作りたいのもあったし、赤城の件もあっただけに絵里の身に何やら起きてなければという不安があった。
病院に向かい絵里のいる病室へ行くと、そこには絵里の両親がいた。
「戸田君・・・絵里の事では迷惑をかけていてすまない。」
病室に入るなり、絵里の父親から謝られた。
「いえ、僕がしっかりしていないばかりに・・・。ご迷惑をおかけしてしまいすいません。」
本来であれば絵里の父親に謝られるのではなく、謝らなければならないのは僕である。僕の都合が原因とは言え、絵里を危険な目遭わせてしまったのだから。
「いや、戸田君が謝る事ではないのだから。君は君なりに出来る事をやってくれている。こうやって見舞いに来てくれているのもだ・・・。」
絵里の父親はそういうと僕の頭をポンと軽く撫でた。知らない仲ではない人ではあるけど、びっくりしたのは言うまでもない。
絵里の母親も父親と同様に僕には感謝しかないと言ってくれている。ただ、その心遣いが正直今の僕には心苦しかった。彼女を助ける事も出来ない僕にとっては。
ただただ、3人で眠り続けたまま起きる様子のない絵里を見守るだけの時間。時折、苦しそうに何かを呟く彼女を見守るだけしかできない事が自分自身の力の無さを無力感を痛感させるだけ。
ふと時計の針をみるともうすぐ18時になろうとしている。かれこれ、1時間ほどそのような時間を過ごした時だった。
絵里が何かを言ったように聞こえた。
「・・・私の・・・返して・・・。それは・・・」
それ以上は何を言っていたのかはわからない。絵里の両親も20時発の最終の飛行機で家に帰らないとならないとの話だったので、一緒に病院を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/06/30 21:00頃に公開します。
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