犠牲者 (3) / 協力者 (1)
「そんな事があったんだ・・・」
僕はポツリと漏らした。
「ごめんね。絵里ちぃが嫌がっていたのに・・・」
藤岡さんに謝られてしまった。
話を聞く限り一番の原因は赤城なのだが、その赤城は・・・今はあのガラス片の中だ。
藤岡さん以外の人達も藤岡さんが話し始めた事であの時の出来事を互いを補足するように話してくれた。
その話を総合すると、絵里は何かを感じていたようでこうなる事を感じていたのかもしれない。
そういえば絵里は昔から直感的に何か起きるかもしれないとなると言動に現れる事が多かった。
まさかとは思うけれど、そんな非現実的な事が起きるとは思っていなかった僕にとっては正直、信じがたい話でもある。
僕達がそんな話をしている間にこの状況に気がついた警備員と施設管理課の人達がこの現場にやってきた。
何があったのか事細かに聞かれたが、答えられるのは「倒れている赤城が校舎内のロビーに駆け込んできたところ、突然、天井や窓が割れてこの状況になっている」という事だけだ。
それ以上は答える事が出来なかったのだが、不審がられたのもあって僕達は警備員と施設管理課の人達に伴われ、警備員室で詳しく説明する事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
4. 協力者
警備員室から連絡が行ったのだろう。僕達が個々に事情を聴かれていると羽生教授が驚いた様子で迎えに来てくれた。
「戸田君、なにやら大変な事に巻き込まれたようだね・・・。」
教授はそう言うと他の人達の様子も確認し、警備員に何があったのかを確認すると僕達の身元引受人として来てくれたのを明かすと、必要な手続きを済ませると解放してくれる事になった。
但し、僕以外の人達は門までは一緒にいる事、僕はそのまま教授と一緒に研究室に向かって詳しく説明するという条件の下にだが。
「しかし、あの状況は・・・なんといったらいいものか・・・」
警備員室からの帰り道、ロビーのそばを通ると警備員と施設管理課から連絡がいったようで警察が非常線を張り現場に近づけないようにした上で調査を行っているのが見えた。
赤城の遺体は何時の間にか片付けられ、今は赤城が倒れていた場所に人型のテープが貼られていて、その近辺では鑑識がなにやら調査を行っているようである。
その様子を横目に見ながら門まで辿り着くと、僕と一緒に事情聴取されていた5人は羽生教授にお礼を告げその足で帰宅する事となった。
ただ、ここに来るまでみんなの口数は少なく足取りは重かったのは言うまでもない。目の前であんな事が起きたのだから仕方はないのだが。この様子だと家に帰るのも一苦労かも知れない。
僕は5人を門のところで見送ると教授と共に研究室へ向かった。
向かう道すがら起きた事を見た事を全て教授に話した。
僕の話を聞いた教授もやはり僕と同じく信じがたい話のようで、なんて答えてよいものやらという顔をしている。もし、僕が教授の立場だったらこの反応は分からなくもない。それだけ荒唐無稽な話だと思う。
ちょうど話終えた頃だろうか、研究室に着くと見知らぬ中年男性から声をかけられた。
「先生、お待ちしてましたよ!」
声をかけてきた男性の格好を見ると気崩してはいるが背広を着ていて、身に着けている物もそこそこ良いモノであるというのが分かる。
「あぁ、益子さん、約束は今日でしたっけ?」
「そうですよ。先生。お忘れになってましたか?」
教授は頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。
「ちょっと色々あって、忘れてた。お待たせしてすまない。」
益子さんと呼ばれた男性は教授の「ちょっと色々とあって」という部分に引っかかったのだろう。「うん?」と何やら感づいたような顔をしている。
「ま、詳しくは後でお伺いしますよ。で、そちらの学生さんは?」
男性は僕の方をみて教授に尋ねた。
「彼か?彼は私の助手だよ。まだ1年だが入学前に私を質問攻めしたような人材でね。面白そうだから引っ張ってきたんだ。」
「先生がそこまで見込まれるとは・・・将来有望ですね。うちの社あたりだと欲しがりそうな人材かも。」
「おっと、こんなとこで立ち話もなんだから、益子さん、続きは中で。」
そう教授が言うと益子さんは「では、失礼します」と教授に続いて研究室の中へ入っていった。僕も教授や益子さんの後に続いて研究室に入った。
研究室内に入ると教授と益子さんは応接セットのソファーに座り何やら話をはじめた。
僕は二人にだすお茶の準備を済ませ、会話の邪魔にならないタイミングでお茶と茶菓子をだす。
「お、気が利くね。そういえば先生、彼の名前は?」
「あぁ、紹介がまだだったね。彼はうちの大学の1年の戸田君だ。」
教授は僕を益子さんの前にたたせ、自己紹介するように促す。
「戸田俊です。よろしくお願いします。」
僕は簡単に挨拶を済ませ、頭を下げた。
「戸田君か。よろしくな。私は下毛野新聞の記者をしている益子だ。先生には今度ウチの新聞で掲載している忘れ去られた郷土史の記事の件でずっとお世話になっているんだよ。」
益子さんは自己紹介を終えると僕に名刺を差し出してくれた。
――――――
下毛野新聞社 社会部
記者
益子 朋之
TOMOYUKI MASHIKO
〇〇県〇〇〇市〇〇一丁目X番XX号
TEL : ***-***-****
FAX : ***-***-****
E-MAIL : tomoyuki.mashiko@XXXXXXXX.co.XX
――――――
その名刺に書かれていた新聞社の住所は絵里達が行ったキャンプ場のある県の隣の県の県庁所在地。
この大学がある都市からは電車で1時間半程度の距離のところだ。
「ちょうどいい機会だから、戸田君も益子さんの話を聞いてみないかい?」
教授にそう言われた僕は一緒に話を聞く事になった。
「実はですね、先生、今度特集を組もうと思っているのが県北部で起きた大地震の事でして。」
益子さんはそう切り出すと今のところ分かっている事を要点をまとめて話しはじめた。
「――――――そういう訳で、起きた時期も時期だったので分からない事が多いのも事実なんです。」
一通りの要点の説明が終わるとそう益子さんは括った。
「それは確かに調べるのは大変になりますね。私としては調査のしがいがありますが。あの時期の資料や証言を集めるのは大変ではありますがやりがいが大きいですし。私の方も手持ちの資料で提供できるのがあれば協力しますよ。」
「助かります。何分、資料が少な過ぎますから。うちの社にもほとんど残ってなく、地元の大学にも資料が少なくて困っていたんですよ。」
教授の返答に一安心したのか益子さんは安どの表情を見せていた。そして、ふと何かを思い出したのように話を変えた。
「そういえば、先生達が来るまでに知り合いの通信社の記者から連絡があったのですが、大学内で何か事件があったようですね。」
多分、赤城の件だろう。流石新聞記者。情報が早い。僕と教授は互いにアイコンタクトであの件だろうと合図しあった。
「流石、益子さんですね。情報が早い。」
教授が軽いジョブをいれると益子さんは申し訳なさそうな顔をする。
「いや、私がここの大学に出入りしているのを知り合いの記者が知ってまして。それで今日、大学内にいるなら情報をくれと言われてしまっただけなんですよ。」
「そうでしたか。うぅ~ん、益子さん、ここからの話はオフレコって事にしてもらえますか?」
さっきあった赤城の件は正直言えば眉唾物の話だけに教授が釘を刺すのもわかる。そのまま伝えても記事には絶対に出来ないだろう。あまりにも不可思議過ぎるからだ。
「話を聞いてみない事には何とも言えないのですが、わかりました。それじゃ聞かせてもらえますか。」
僕は話して大丈夫なのかな?という顔をすると教授が大丈夫だろうとジェスチャーに近い感じでうなずいた。
「詳しくは、戸田君から話をさせましょう。彼はあの現場にいた人物の一人ですから。私も何故、あのような事が起きたのか詳しく聞きたかったのもありますし。」
教授に言われるがまま、僕はあのキャンプに行く事になったキッカケから知っている事全てを話す事となった。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/06/29 21:00頃に公開します。
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