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異変のはじまり (2) / 犠牲者 (1)

 ××医科大学付属病院に搬送された絵里は待ち構えていた医師や看護師によって様々な検査や処置が行われたのだが、全く何が原因でこうなったのか分からない。

ただ言える事は、身体に問題はないが深い眠りについたままの状態という事だけ。

脳波のデータをみても、レム睡眠とノンレム睡眠を正常に繰り返しているし、心電図にも異常はないし、レントゲンもCTもMRIも全て問題はないと医師から説明を受けている。

本来なら僕ではなく、絵里の親が説明を聞くべきなのだろうけど、絵里も親元を離れてこっちでの一人暮らし。絵里の両親がこっちに来るとしても時間がかかる。

今は眠り続けたままの彼女が何時目を覚ますのかを見守るしかない。


 翌日、大学の研究室に向かう前に、絵里の様子を見に病院へ向かった。

僕が帰ってからのもし目が覚めたりしていればという淡い期待があったのだが、それは叶う事はなかった。

あの後の様子について看護師さんに聞きたところ、やはり意識は戻らずずっと眠りについたままだったとの事だった。

ただ、気になったのは時折、何か寝言のような事を言っていたという事。どんな事を言っていたか気にはなったが、そこまで聞くのは失礼にあたるかもしれないし、何よりも忙しそうにしている看護師さんが一字一句聞いている可能性は低い。

今日も眠ったまま起きる様子のない絵里の顔を見ると、心なしか苦しそうな表情を見せる時がある。

その表情を見るたびに胸が引き裂かれるような思いになる。僕は彼女に何が出来るのだろうかと。

苦しそうな顔をする彼女の頬に手を添え、少しでもその苦しみを引き受けられたらという気持ちになる。

今となっては遅いのだが、あの時、何故、僕が絵里と一緒に行く事を優先しなかったのかと後悔した。教授に迷惑をかける事になるが断れば良かったと自らを責めるしかなかった。


 ふと時計を見ると研究室に向かわないと不味い時間になっている。

眠り続ける絵里のそばをそっと離れ、病室を後にし、大学に向かった。



3. 犠牲者



 大学に向かうと門の付近で昨日のメンバーが僕の事を待ち構えていた。

病院に搬送された後の事を多分聞きたいのだろう。それ以前にどこの病院に搬送されたかは知らされてないハズ。

研究室で待っていなかったのは、昨日、赤城が教授に怒られたのが原因だと思う。

流石に昨日の今日でまたやらかしたら大変な事になるのは分かり切っている。

下手をすれば赤城以外の人達にも飛びかかる火の粉のように延焼するかもしれない。

そうなると僕を待ち構えるには門の辺りにいるのが手っ取り早い。この大学に出入りするにはこの門を通るしかないのだから。

僕が来た事に気がついた太田さんが声をかけてきた。

「戸田君、昨日は任せきりにしちゃってごめんね。佐野さんだけどあの後、大丈夫?」

「ああ、とりあえず異常はないって。ただ、今日も病院に行ってきたのだけど意識は戻ってないんだ・・・。」

ここに来る前の絵里の表情を思い出すと、何も出来ない自分自身に対する情けなさと悔しさで、僕は表情を歪めるしか出来なかった。

その表情をみていた藤岡さんも会話に加わってきた。

「そうなんだ・・・絵里ちぃ・・・意識戻ってないんだ・・・。」

僕は「ゴメン」としか言えなかった。原因も分からず、どうしたらいいのかわからず、説明しようにも説明のしようがないこの状況をどうすればいいのか分からずにいる。

3人の間に重苦しい空気が流れていた。

その時だった。突然、赤城が僕に向かって怒りをぶつけだした。

「なんでお前が絵里の彼氏面しているんだ!!」

そして僕に向かって殴りかかろうとした時、赤城のスマートフォンがけたたましい音で鳴り出した。

「ティロリロ~ン♪ティロリロ~ン♪」

いうまでもなく、その音は緊急速報の音。緊急速報は本来であれば対応スマートフォンを持っている人であれば機能をOFFにしていなければその場所にいる人達なら全員が鳴るものであるのにも関わらず赤城のスマートフォンだけしか鳴っていない。

「チッこんな時に五月蠅い!!」

赤城はスマホをポケットから取り出し、鳴り響き続ける警告音を消そうと画面を見る。

『オマエダケハナニガアッテモユルサナイ・・・イマスグムカエニイク』

何度も表示され続けるメッセージと鳴りやまない警告音。赤城の顔はあまりのしつこく表示されるメッセージと警告音でどんどん怒りで真っ赤に染まっていった。

「誰だ!こんな悪戯をしたのは!!」

怒りに任せスマートフォンを地面に投げつける。すると警告音はとまったようだが、力いっぱい投げつけたせいか画面はヒビだらけになっている。

高崎がその投げつけられたスマートフォンを拾い赤城に渡そうとした時。真っ赤に染まっていた赤城の顔が真っ青に変わっていく。

「く、くるな!!」

赤城は高崎が渡そうとしたスマートフォンから逃げるように突然校舎の方に走り出した。

まるでその様子は何かに追われている小動物のようだ。赤城は時々後ろを振り返りながら、こけそうになりながら逃げ続けている。

僕達は突然走り出した赤城を必死に追いかけた。

ちょうど赤城が逃げ回り続け校舎内のガラス張りで外から大量の日の光が降り注ぐロビーに入った瞬間。また、赤城のスマートフォンがけたたましい音を鳴り響かせた。

「ブオッブオッブオッ―――」

この音も緊急速報の音。地震の際に流れるあの音。

その音が鳴った瞬間、赤城は大声をあげた。

「うわ!よせ!!!助けてくれ!!!」

大声と共に突然校舎の天井と周囲のガラスが割れ、赤城に降り注ぐ。まるで絶対に逃がさないかの如く、大量のガラスが赤城めがけて落ちていく。

初めは赤城の目の前に、次は背後にと。赤城を苦しめてからトドメを刺すかのように、まずは右腕を落ちてきたガラスが切り裂き、今度は左腕、右足、左足とガラスが切り裂いていく。

赤城の腕や足は見る見るうちに血に染まり、足元には血の海ができはじめている。両腕は筋を切断されたようでぐったりと落ちている。足も足で、一歩も歩けないと思えるほど血で染まり動く様子がない。

そして赤城が力なく地面に倒れると赤城の胴体めがけて大きなガラス片が落ちてきて、腹部を貫通した。もう、この状況で赤城は助からないだろう。そんな状況でも関わらず、トドメとばかりに今度は頭部めがけて大きなガラスが落ちてきて突き刺さると、ガラスは何かの衝撃を受けたかのように砕け散り、赤城の周りに飛び散った。

血に染まった赤城は息も絶え絶えになりながら、何かをうめき声をあげながら息絶えていった。

それもそのハズ、赤城の胴体の状況を考えると背後から突き刺さったガラスは的確に内臓を捕えているようで腹部からも物凄い出血が見られるし、首と胴体は皮一枚でどうにかつながっているようにもみえる。

もうこの状態では助からないだろう。救急隊が来たとしても、即死判定をされる可能性が高い。

砕け散って赤城の身体の上に落ちているガラス片がまるで赤城を助けるのを拒むように重なっている。このガラス片をよけて引きずり出すのは大変だろう。

そしてこの光景は見せしめのように感じた。何かの怒りを買ったかのように。

お読みいただきありがとうございます。

この続きは2020/06/27 21:00頃に公開します。

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投稿作品の宣伝をしないダメダメ筆者のTwitter -> @SekkaAsagiri

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