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願い

◇◆◇◆◇◆


20. 願い



 ふと、あの頃の話を思い出しながら感傷に浸っていると部長から声をかけられた。

「おや、手が止まっているけどどうした?少し、一緒に休憩するか??」

あの後、廃墟で起きた事を調査にて判明した事実をつけて全国に一斉報道した事で一時は進退が危ぶまれた益子さんだったのだが、色々とあって今では部長の座まで上り詰めていた。

何故、そのような事があったのかと言うと、当時、あの場所の存在を隠し続けていた戦争責任を本来なら取らなければならなかった者達の子孫が政権を握っていた事によって、報道した事に対する国と政権の熱狂的支持者からの圧力が社へかけられたからだ。

報道機関は中立であり、真実を伝えるべきという信念の元、そんな圧力に屈してはならないと社も耐え続けた甲斐もあってか、益子さんは社を辞めずに済んだ。

社のこの方針は、あの大戦によってもたらされたものだというのだから、ある意味、戦争責任から逃げ続けた者達にとっては痛いしっぺ返しのようなものでもあるのだが。

そこに、政権の度重なる不祥事が起き、国民の不満が一気に爆発し、政権から去らざるおえなくなり、新しい政権へ変わったお陰で、世間一般にあの場所の存在を知らしめる事が出来た。しかも、国の全面的な保護の下、自国が先の大戦で自国民や諸外国でおこなった非道の数々を残す負の遺産として残すという方針に変わったのもあり、今の立場になった。

今ではその負の遺産として残す事になった廃墟・・・いや現在では資料館に収める資料の作成などを社を通して受けるなど多岐にわたって活躍をしている。

僕と益子さんの関係はあの頃とは少し違う部分もあるが、相変わらず気さくに接してくれるいい上司の一人だ。

「そうですね。益子さんも仕事は大丈夫なのですか?」

「ああ、ちょうど区切りのいいとこまで片がついたからな。」

「それじゃ、ちょっと休憩しますか。」

二人で部を離れ、社の屋上にある休憩所へ向かった。

屋上に出ると初夏の心地良い光が降り注ぎ、優しい風が吹いていた。

「ふぅ。あまり根を詰めすぎるのもよくないな。」

益子さんはそう言って背伸びをした。

「そうですね。」

僕もずっとパソコンに向かっていたのもあって首や肩に違和感を感じていたのもあり、背伸びをした。

「そういえば、あの事件から8年も経つのか。」

「ええ、月日が流れるのは早く感じます。」

「そうだな・・・。あの後も色々あったものな。今となってもあの事件がこんな結末になるとは予想だにしていなかったしな。」

「確かにです。この国の隠された真実のひとつがあんな形で露呈するとは僕も思ってもいませんでした。」

あの場所で過去に遭った事をあの時まで隠し通してきたこの国のあり方や人々のあり方について今も思う事がある。もし、過去にあのような惨事が起きなければ、人々が忘れ去るという道を選ばなければ、当時の上層部の者達が隠し通そうとしなければ、こんな結末にならずに済んだのだろう。

今も昔も、人々の心に抱える闇は深い。もし、あの時に心ある者がいたのなら、逃げる事が許されていたのなら、負の連鎖は起きなかったのかもしれない。

全ては連鎖して起きた事故と言っていいものではない。何かが違えば全く違った。全ては人の中にある醜さ、嫉妬心、偏見、差別などが巻き起こした結果だと思う。

「そういえばだが、児玉さんだったか。彼女は完全に立ち直ったのかい?彼女は赤城君の事が好きだったんだろ?」

「えぇ、時間はかかりましたが、今は昔の児玉さんのように戻りましたよ。一時期は僕も絵里もどうなるかと思いましたが。」

「確かにな。児玉さんにとっては赤城君が自分を選んでくれなかった事でああなったと思いたくなる部分もあるだろうしな。戸田君や奥さんが怨まれるのも仕方あるまい。」

原因のほとんどは赤城にあるのだろうけど、児玉さんから僕や絵里が怨まれるのは仕方ない部分もある。僕は絵里と付き合っていた事を隠し続けていたし、絵里も赤城に強く言えずにいたのもあってヤツの暴走を助長させてしまったのがある。そこは変えようのない事実だ。

「あとは、奥さんの方も落ち着いたかい?あの事件の事の顛末はしばらくひた隠しにしていたんだろ。その余波でなかなか大変だったようだしな。」

「いや、今思い出しても失敗したと思っているのですから。お陰で今も絵里には頭が上がりませんよ。お陰で彼女の精神面の安定には時間を要してしまいましたし。」

「あははは。違いないな。ただ、お前さんが責任を感じて身を固めるのを決めた時は安心したぞ。傍からみてたこっちも内心ヒヤヒヤし続けていたしな。」

絵里の件では益子さんにもだいぶ迷惑をかけてしまった。それは絵里の両親にもだが。それ以上に絵里本人から「責任取ってね。」と言われる羽目になるとは思ってもいなかった。

まあ、あの事件を含めてそれを言わせるような事をしていた僕自身も悪い。

ついでに言ってしまえば、絵里に『このタイプはウチのダーリンと同じだからそう言ってトドメ刺した方がいいよ』と素敵な?!アドバイスをしてくれた教授の奥さんには文句を言いたい。

しかも、そこにトドメを刺すように、結婚式の時に大暴露してくれた益子さんにも怨み節を言いたくなるのもあるが、そこは大人の付き合いで言わない方が得策なのかもしれない。

他にも、どこぞのカフェのオーナー夫婦も益子さんに世界一恥ずかしくなるような場所で結婚式あげさせるならここなんてどう?とか教えているとは思いもしなかった。あれは見世物以外の何物でもない。

僕は、あんな全世界から観光客が集まる世界遺産の場所でやる事になるなんて一言も聞いていない状況で、いきなりぶっつけ本番でやらされるなんて思ってもいなかった。

よりによって観光客だらけのシーズン真っ盛りの時に。まあ恥ずかしい話だからこれ以上思い出すのはよそう。

それにこんな結果になったのは、僕自身が絵里に対して、事の顛末を隠したのが悪い。彼女にとって、僕が絵里の事をそれだけ信じてあげられていなかったと受け取られても仕方ないような誤った選択をしてしまったのそもそもの間違いであったのだから。

僕が思っていたよりも絵里は強かった。確実に僕の方がメンタルは弱すぎるのではないかと思うほどに。


「そういえば、あの場所であんな惨事が起きる原因になった大地震ってちょうど今頃の時期でしたっけ。起きたのって。」

「あぁ、そうだったな・・・。そういえば今年はどうするんだ?」

「・・・行こうと思ってます。それが僕の出来るあそこで亡くなった人達への鎮魂でしょうし。」

「そうか。私も今年も行くつもりだ。あのような事があったという事実は決して消し去ってはならないからな。」

僕と益子さんはあの場所で何時までも大切な人を思い続け、最後は悲惨な死を迎えた彼女の事を思い出す。

ある意味、僕も絵里も益子さんも彼女のお陰で助かったようなものだ。彼女の思いがあったからこそ、何時までもその願いがあったからこそ、今がある。

大切な人との永遠の別れを知らぬまま連れ去られ、一部の者達に忌者にされ、軟禁され続けたのにも関わらず、大切な人を思い続け、人を怨む事をせず息絶えた彼女を。

「・・・戸田君、今年は奥さんを連れて行くのかい?」

「ええ、そうしようと思っています。絵里も行きたがっていましたし。それに今回を逃したら絵里は行けなくなりそうですからね。」

「うん?それって・・・あぁそうか。そう言う事か。戸田君ももう少しでパパか。」

益子さんが笑いながら僕の肩を叩いた。

「頑張れよ。パパさん。」

あの場所へ行った帰りには、赤城、高山や藤岡さん、大泉や太田さんの墓参りもしてこよう。こうして生き残っている僕が出来る事だ。


 この世界は色々な思いで繋がっている。人の思いやりも優しさも全てが繋がっている。

繋がっているからこそ、今、こうやって生きている。繋がっているからこそ、新しい生命が生まれ、思いが繋がっていくのだと思う。

きっとそれが彼女の願いだろう。

憎しみや悲しみ苦しみだけが残る世界なんて何時までも続いてはならないのだから。


 ふと見上げた空がどこまでも繋がっているように、人々の記憶も思いも全て繋がり世界は出来ている。

何時の日か、あの場所で命を落とした彼女の願いが叶う事を願うばかりだ―――。

一応、これで完結にはなります。

1ヵ月未満(28日程度)で書き上げたモノなので、強引な展開などが多くなってしまったと反省しきりです。

相変わらず拙いというか言葉選びが適切でないなーと思う部分も多くて多くて。

本当に反省しても反省しきれません。これを書きながらまた別のモノも書き始める準備したりと色々とあっちやこっちに意識が飛んでいたのもありましたし。

正直、無事書きあがって良かったというのが率直な感想なんですよね。(書き上がった時には終わったーっていう達成感は得られたから良かったかも。)


それと、タイトルの435Xですが、これは10進数表記の場合のコードで、16進数に直すと0x110X、これが何の意味かと言うとETWS(地震と津波の警報配信システム)のMessage IDのコードだったりします。

安直だなーと思いつつも、まぁいいかーって事でこのタイトルにしてしまいました。こういうとこも反省材料の一つだったりと。

大抵の人がわかるかー!!というツッコミを食らいそうなオチつけてすいませんでした。


では、裏で懲りずにこそこそと何かを書いておりますので、その時はお付き合いいただければ幸いです。

本当に、最後までお読みいただきありがとうございました。

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