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忘れ去られた過去を紡いで(2)

 本題に入ったのは、3人共が落ち着きはじめてそんなに経たないぐらいからだったと思う。

「それで、例の廃墟の方はどうだったんだい?」

教授から聞かれた僕は、廃墟に行く前にどのような人物に会い、その人からどのような話を聞いたかや、あの内部の状況や、起きた事も電話の内容の繰り返しになってしまった部分もあったが、補足を加えて事細か説明した。

「そうだったか。しかし、その状況だと確かに3人だと厳しいな。まあ、今後の調査は私に任せてもらえないだろうか。適任の人物に頼もうと思うんだが。」

まさかの提案であった。教授のコネクションを使いあの場所の調査が始まるとなると短期間で一気に事が進むだろう。

それと、僕達の身に起きた事についても教授なりの解釈を示してくれた。

「これは、あくまでも私の推測に過ぎないのだが、戸田君や益子さんの身には何も起きていないんだろう?今まであの場所に遊び半分で行って不運に見舞われた人達は早ければ1週間以内、遅くても2週間以内に身の上に何か起きているわけだったよね?それが二人には起きていないという事は・・・今後も何か起きる可能性は低いんじゃないかな。」

「なぜ、そう思うのですか?僕には今いち理解できていないところが・・・。」

「ああ、ただ何となくだけどね。戸田君も益子さんも必死にあの場所がどういう場所で何があったのか、キッカケは大地震に関する調査だったかもしれないが、調べ続けたわけだよね。もしもだ、あの場所に遊び半分で行った者に何かをしていた事象があったとする。私は霊とか呪いとかはあまり信じてはいないが、そういう伝承がこの世界には多くあるのは知っているよね?」

僕も益子さんもオカルトじみた事は信じていない方ではあるが、呪いや心霊現象と言われる数々の話があるのは知っている。

中にはそれで有名になってしまった観光スポットもあるぐらいだ。

「まあ人のウワサによって作られた場所もあるけれど、実際に不幸な事があって生まれた場所もある。前者の場合は、悪意を持った者による捏造や面白半分に作られたモノなどが多いけれど、後者の場合は実際にそうなる事件が起きたという場所だという事。で、そのような場所は負の連鎖を起こす事があるよね。けど、負の連鎖を断ち切ろうとする人達もいるわけだ。」

「えっと、教授。負の連鎖を断ち切るというのは・・・。」

「その場所であった悲しい事実を知り、同じ事が起きないようにと言う意味もあるだろうし、そこで起きた惨劇を風化させずに後世に伝えて欲しいというのもあるのじゃないのかな。」

教授の話はボヤっとした感じで僕にはイマイチ理解できていなかった。

「どうもピンと来てないって感じだね。まあ、詳しくその辺を話すのは、私が調べてきた話をしてからかな。」

僕達は、教授が調べてきた村についての話を聞く事にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 その村は例の廃墟があった場所の北側に存在する県の山深い奥地にあった。大学のある大都市からは新幹線とローカル線を乗り継いで3時間弱の場所にあるらしい。

今はその村があった場所は完全に廃村となっており、当時の家々などは全て無くなっており、大きなお寺がポツンと存在するだけ。

教授は、その村があった場所に唯一あるお寺に向かうと、そこの住職さんから色々と聞き出してきた。

そこの先代の住職さんがその村で唯一捕えられずに助かった一人であり、行った時に対応してくれたのは当代の住職さんであったが事情を話したところ、先代住職さんに取り次いでもらえたのが大きかったようである。

そして、聞き出してきた話の内容は、あの本の内容を補足するには十分な内容だった。

話によると、軍に協力していた村人を軍が虐殺した後に、村の人達を捕えようとした時に、一部の村人が散り散りに逃げ出した事で少年だった先代住職は逃げ回る人々に紛れ込みながら、近くのお寺の床の下に逃げ込んだ。

先代住職は恐怖で床の下で怯えながら、軍が人々を捕まえていく様子を見守るしかなかった。

その捕まった人達の中に、例の銀髪の少女の幼馴染の青年もいたようである。子供だった先代住職はその青年から良く遊んでもらったのもあって、捕まって連行されていく様子を今でも鮮明に覚えていたそうだ。

その様子は、誰かを心配しながらも、軍の連中には敵意をむき出しにし、今にも飛びかかってやろうとするかにみえた。あまりにも敵意むき出しだったのもあり、青年は途中で猿轡をはめられ、両手両足は拘束され、まるで重犯罪者扱うように何処かに連れていった。

その後、殆どの者を捕え終えたのか、軍の連中は殺した連中を一ヵ所に集めると、ここで何があったのかを隠滅するかのように村中に火を放つ。火が山に飛び火して山火事になるかもしれない危険性があるにも関わらず、そのような事は一切気にする様子もなかった。

幸い、先代住職が隠れこんでいたお寺は火をつけられずに済んだ事で助かったのだが、村に外から人が訪れるまでは一人きりで耐え続けなければならず、心が何度も折れそうになったそうだ。

なにせ、焼けた人の匂いや燃えた家々の匂いの漂うこの場所に留まり続けるのは、それはそれは毎日が地獄としか思えない状況でしかなかったのだから。

なんとか井戸が生きていたので水には困らなかったが、食べるものは一切ない。それ処か、人の焼けた匂いが頭と鼻にこびりつき食事をとる気にもなれなかったようだ。

村が軍によって焼き払われてから1週間後、ちょうど定期的に村を訪れていた住職に助けられ、その後は、住職の下で住み込みをしながら修行をし、成人し、一人前と認められた後、この地の慰霊の為にお寺を建てた。

その頃には、この辺りはほぼ自然に還ってしまっていたようだが、あの頃の悲しみがこの地にはしみついているのか、誰も寄せ付けない雰囲気が漂っていた。

実際に、お寺をこの地に建てる前に、大都市のデベロッパーがこの辺りを大規模なリゾート施設を開発しようとしたようなのだが、その際に色々と事故が多発したようで諦めたという話もあったぐらいだ。

そんな場所にお寺を建てるとなった時、一部からは、きっとあのデベロッパーの時と同じになると言われ続けたのだのだが、慰霊の為の祈りを捧げ続けたのと慰霊碑を建立したお陰かは分からないが、人的被害が出る様なトラブルは一切起きずに無事に建築できたとの事であった。

何故、お寺は大丈夫で、リゾート施設がダメだったのかはわからない。ただ、言えるとすれば、村であった惨劇を風化させるかさせないかの違いなのかもしれないし、今も寺の周囲に大規模な娯楽施設を作ろうとすると何やら起きるらしい。

これ以上は流石に聞き出せなかったが、この地があの村の跡地で、ひっそりと今も慰霊が行われ続けているのが分かっただけでもいいのかも知れない―――。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「教授、村のあった場所でも、あの廃墟と同じような事が起きていたのですね・・・。」

「ああ、そんな感じだね。で、私の話で何が言いたかったか少しは分かったかい?」

「えっと、もしかして、遊びではなく慰霊や事実を知るためだからこそ、許されたって事でしょうか?」

そう答えると教授は「そんな感じだな。」と言いたげな顔でうなずいた。ただ、これにはまだ納得できない部分がある。絵里の事だ。何故、彼女は昏睡状態とはいえ命を取り留め続けていられるのかと。

「教授、では、何故絵里は・・・」

「それは、今後の調査次第だな。ただ、昏睡状態の彼女が漏らしていた言葉がヒントだとすると、彼女は誰かに守られたお陰で、あの程度の状態で済んでいるのかも知れないね。」

教授の答えに、僕は彼女の漏らしていた言葉をふと思い出した。もし、彼女が漏らしていた言葉があの子が言っていた事だとすれば・・・きっと彼女の事を守ってくれていたのはあの子なのだろう。

お読みいただきありがとうございます。

この続きは2020/08/05 23:00頃に公開します。

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投稿作品の宣伝をしないダメダメ筆者のTwitter -> @SekkaAsagiri

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