廃墟の真実(5)
例の場所に監禁されている銀髪の少女からあの話を聞いた数日後、昼間の時間に隠し扉の先にあるもう一つの場所について知る機会を得てしまった。
私自身が潜入して調べる必要があると思っていたのだが、ある人物からその情報はもたらされたのである。
その人物とは、あの場所であった新人と思われる若い軍人だ。
ある日の昼ぐらいだったろうか、彼が私の居る診療室を訪れた。その時の彼の顔色は物凄く悪く、今にも倒れそうなほど衰弱していた。
「先生、ちょっといいでしょうか?」
「どうしたんだい?かなり顔色が悪いようだが。何かあったのかい?」
「ええ・・・実は―――。」
彼は、私にこれから話す事は絶対に口外しないで欲しいと嘆願すると少しずつ話し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その日、彼はここの任務にも慣れただろうとの事で、上官から新たな任務を与えられた。
彼に与えられた任務とは、隔離病棟にいる患者を秘密裏にある場所に連れてきて、軍医に引き渡すというもの。
誰を連れてくるかなどは軍医の指示に従えばいいとだけでそれ以上は伝えられていなかった。
上官の指示に従い、彼はある軍医の元を訪ねると、1枚の紙を渡された。
渡された紙には病室名と患者の名前だけが書いてあり、これから何が行われるかは一切分からない。
彼は渡された紙を下に該当の患者の元を訪れた。
「―――さんはいますか?」
「はい、私ですが。」
「―――さん、―――先生に連れてくるように言われましてお迎えに上がりました。」
彼が該当の人物にそれを伝えると、伝えられた相手は突然、暴れだした。
「わ、私は行きたくない!!―――が連れてこいと言うのはロクな事にならない!!前に同じ部屋だった奴も、アイツに呼び出されてから一度も戻ってきてない!!」
何故ここまでわめき叫びながら行くのを拒むのか分からない。その意味を知る事になったのは、該当者を連れていった後である。
彼はなんとか暴れわめき叫ぶ該当者を落ち着かせようと必死にしたが、それは無駄な努力に終わってしまった。
あまりにもなかなか連れてこないからと、別の軍人が該当者を迎えに来たのである。
「また、何時ものやつか。おい、新人、これは毎度の事だからこうやって大人しくさせればいいんだ!」
後からきた先輩軍人は慣れた手つきで該当者のみぞおちに一発蹴りを決め込むと、大人しくなった該当者の両手両足をロープで縛り、口には猿轡をはめ、担ぎ上げた。
「次回からはこうやれ。必要な道具は軍医の所にあるから必ず持ってこい。」
先輩軍人は後からついて来いとばかりに、先に病室を出ていった。彼は遅れてしまわないようにと急いでその後をついて行く。
「―――先生、連れてきましたよ。」
「遅かったな。やはり君に頼んで正解だった。初めに来た奴はなかなか連れてこなかったからな。」
「先生、新人にすぐに連れてこいは酷ですよ。私の方でやり方は先ほど見せましたから、次からは大丈夫だと思います。」
「そうか、では、例の場所に頼むよ。」
軍医はそう言い残し、何処かへ消えていった。軍医が居なくなった事を確認した先輩軍人は遅れてはならないと、速足で何処かに向かい始める。
必死にその後を追いかけていくと、例の少女達がいる場所へ続く隠し扉とは別の場所にある隠し扉の場所に辿り着いた。
「よく覚えておけ。今度からは指示を受けたらここに連れてくるんだ。わかったな。」
不自然な場所にある照明のスイッチに偽装されたスイッチを押すと、隠し扉が開けられるようになった。
扉を開け、薄暗い通路を奥まで進むと、頑丈な扉が現れた。
先輩軍人は手慣れた手付きで扉を開ける為のボタンを押し、中へと進んでいく。
中にあったのは、いくつにも頑丈な扉で隔離された牢。
ただ、普通の牢とは違い、岩盤をくり抜いて作った個別の牢に完全に空気すら通さないと言わんばかりの強固なガラスで内部を観察できるようになった窓と、どんなに力を込めても壊れないのではないかと思える頑丈な鉄の扉が備え付けられていた。
あまりにも異質な光景に彼は呆然としていた。そして、その異質な光景を際立だせるかのように、何処からともなく呻き声が聞こえてくる。
「先輩、ここは一体・・・」
「・・・あまり詮索せん方がいいぞ。この前、懲りずにまた所長のお気に入りに手を出した馬鹿がいただろう?アレが戦わされた相手がいる場所だ。」
そのような話をしていると、先ほどの軍医が何処からともなく現れ、指示を出す。
「それは、そこの空いている牢に放り投げてくれ。拘束はそのままでいい。」
言われたとうりにぐったりとしたままの該当者を投げ込むと、軍医は何処からか注射を取り出し、投げ込まれた人物に打ち、素早く牢から抜け出して鍵をかけた。
「・・・新人だから、ここで何が行われているかは知らんだろうが、よく見ておけ。これで少しは理解できるだろう。」
先輩に言われたまま、ガラス越しに中の様子を眺め続けていると、さっきまでぐったりとしていた該当者が突然目を見開き立ち上がると、何かの拒絶反応を起こしているのかその場で吐き始めた。
正直、見ている方としては気分のいいモノではないのだが、先輩や軍医がいるこの状況では見続けるしかなかった。
ある程度吐き終わって楽になったハズなのに、中に居る人物は、今度は自分の首や腕を掻き毟り始める。しかも、ものすごい勢いで。その勢いのあまり、掻き毟られた場所からは血が溢れ出し、足元には吐しゃ物と血だまりができていた。
「・・・実験は失敗か。やはり抗体に対する拒否反応が大き過ぎる。しかし、何故、奴だけは耐えきれているのかが分からない・・・。」
軍医はそう漏らすと、また何時の間にか居なくなっていた。
「お前もみたな・・・。ここで行われている実験と言うのはこういう事だ。我々の仕事は患者が暴動を起こさないように力で押さえつけるのもあるが、それ以外にも実験で失敗した奴の始末もある。大抵の場合は、集団で始末を行うのだが、所長を筆頭に上の連中や軍医達の機嫌を損ねると、アレと同じ目に遭わされるから注意しろ。」
「わかりました・・・。ところで中に居る人は大丈夫なのでしょうか?」
「さあな。そのうち、対処せねばならなくなるだろう・・・。」
その後、先輩軍人は「持ち場に戻らねば」と言い残し、彼を置いてそのまま何処かへ消えていった。
一人残された彼は、ここを出ようと出口を探したのだが、見つける事が出来ずに出口を探し求めて、中を見て回る羽目になってしまった。
ちょうどこの場所の奥の辺りまで進んだ時だったろうか、最奥にある牢の方から人の声が聞こえてきた。
彼はその声が気になって、そこまで進み、ガラス越しに中を見るとそこには一人の青年が両手両足を鎖で縛られて壁に括りつけられていた。
青年は、常にこちらの方を睨みつけるようにしながら、鎖から解放されようと必死にもがき続けている。
時折、何か大声をあげて叫んでいるようであるが、二重になったガラスや二重になった上に厚みのある扉のせいで聞き取れなかった。
ただ、口の動きからは『今すぐ殺せ!早く殺せ!!』と言っているように感じる。一体、この中に居る青年をここまで駆り立てるのは何なのかはわからないが、それだけの思いを秘めているように思えてならなかった。
その後、何とか出口を見つけて出る事が出来たのだが、正直、新人と思われる若い軍人である彼にとってはかなり衝撃的な物であった。
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この続きは2020/07/29 23:00頃に公開します。
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