表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

もう1冊の本(2) / 廃墟の真実(1)

 現在の時間は09:00。僕達は教授から言われたように朝イチで大学の研究室を前で教授が来るのを待っていた。

明確な時間を約束していなかったのもあるから、待たされるのは仕方ない。

まあ下手に待たせるよりは待った方がいいというのもあるだけに、そこは気にしてはいないのだが、益子さんを待たせるのは申し訳ない気分になる。

「きちんと時間を決めておけばよかったですかね?」

「いや、あの先生との約束は何時もこんな感じだから、私は気にしてないよ。」

その言葉を聞いて、あの教授らしいなー。と思わず思ってしまった。流石に僕は慣れっこになっているので教授と約束をする時は時間を決めるようにはしているのだが、今回ばかりはそれをうっかり失念していた。まぁあの状況だったから仕方ない部分はあると思って、反省はしているのだが。

二人でそんな雑談をしていると、研究室に向かってくる人影がみえた。あの感じだと、教授だろう。

のほほんとした雰囲気を漂わせているが、足取りだけは無駄に早いという一見すると正反対な事を平気でやるような人だから分かりやすい。

「いやいや、待たせてしまって申し訳ない。」

そう言われて時間を確認すると09:00を過ぎてから5分程度しか経っていなかったのもあり、そこは大人の対応で返すのが正解だろう。

「いえ、時間を指定しなかったこちらも悪いですし、僕はそれほど待ってませんから大丈夫ですよ。」

「ああ、私もだ。」

教授は相変わらず頭をかいて申し訳なさそうにしているが、この様子を見る限り何か他にも理由がありそうだ。

「それじゃ中で例の本の解読作業をしますかね。」

「「お願いします。」」

僕達は教授の後に続いて研究室の中に入ると、作業を行うのに前もって確保しておいてくれたと机へ案内され、言われた席に着いた。

「あ、そうだ、戸田君、高崎君と藤岡君の件だけど、今朝方私の所にも話が来たよ。ここまで続くときちんと調べないとならないだろうね。彼らの為にも。」

やはり高崎達の件は確定のようだ。昨日のメールの時点でわかってはいた事とはいえ、大学にも連絡がきているとなると間違いないのだろう。昨日の夜、益子さんの家で就寝時間になって一人になった後、誰にも気がつかれないように一人で泣いていた。ただ、そのお陰で今日は冷静にその事を受け止める事が出来ている。

このタイミングで泣いてしまっていたら、やらなければならない作業に支障をきたすだけだし、教授や益子さんに迷惑をかけてしまうかもしれない。そういう意味では夜のうちに心の整理が出来た事は良かったと思う。

「それじゃ、教授、例の本を持ってきてますので、翻訳作業をお願いしてもいいですか?」

「あー、その件なんだけど、これをみてくれ。いや、昨日電話を貰った時にふと思い出してね。」

教授は机の上に置かれたノートパソコンを操作するとそこに表示されたのは、これから翻訳を頼もうと思っていた本が前もって訳された画面であった。

「先生、これ、何時の間にやられたんですか?!」

益子さんは驚いた顔をしている。僕は僕で、またこの人、昔やっておいた作業を忘れてたのかと呆れた顔をしていた。

「すまんすまん、あの本を貰った時に気になって翻訳していたのを忘れていてね。まあ、忘れていた理由は聞かないでくれ。」

「どうせ奥さん絡みですか?教授の場合、奥さんに頭が上がりませんものね。」

「あははは・・・戸田君は相変わらず鋭いな。まあ、妻と籍を入れる前の話だからねー。」

絶対この人はやらかしたんだと悟った。そうじゃなければここまで誤魔化さない。色々と突っ込んで聞きたいのだが、それは後回しだ。今は、この翻訳された内容を一気に読む事が最優先だ。

僕は画面とのにらめっこをはじめ、この本に書かれている真実を受けとめる。


 教授が前もって翻訳していた内容を読んで僕は唖然とした。

高崎に翻訳してもらったもう一冊の本が日記のように書かれており、色々とぼやかしてあったのに対し、こちらの本の内容は、事実を包み隠さず書いた証言のようで、あまりにも違いが大き過ぎる。

専門用語も多岐に渡って使われていて僕にはその辺りの事は分からないが、分かる範囲だけをまとめると何が起きていたのかは把握できた。

ただ、その内容はあまりにも非人道的であり、戦争の名の元に行われていた悲しい事実を知る事になってしまった。


☆★☆★☆★☆★



15. 廃墟の真実



 私がこの施設に赴任する事になった理由は、私が感染症の専門医だったからだろう。

表向き、この施設はある地域で発生した奇病の患者を隔離する為に作られたと言われているが実体は違うような気がする。

その違和感を感じたのは赴任してきてすぐだ。

ここの施設には、何故か優秀な軍医が多くいるのにも関わらず、何故、私のような一大学病院の勤務医が連れてこられたのかが分からなかったからである。

優秀な軍医を揃えておきながら、全く治療を行っている様子がないのも不可思議であった。

初めのうちは、私なりに軍医は軍医の仕事があってここにいるだけであり、患者の治療は私が全てを行うのものだと勝手に解釈し、自分自身を納得させるようにはしていたが、納得できない行動が多い。

彼等は彼等なりに任務があるのかもしれないが、それにしても、患者に対しての扱いが医師とは思えない事が多かった。

そんな疑問を感じながら仕事をこなしていたある日の事。私は診療室の先にある患者隔離病棟へ向かう途中の壁に違和感を感じた。

どうも、一ヵ所だけ隠し扉のようになっている感じがする。ただ、ここを診療時間である昼間に確認するのは難しい。

何をしているのかは知らないが、ひっきりなしに軍医達が患者を連れて何処かに行っているようだ。

ただ、患者の扱いを見ている限り、けして治療ではないというのはわかる。行くのを嫌がる患者を無理やりひっぱたき、時には手錠などで拘束し、無理やり引きずってでもどこかへ連行していく。まるでモルモットを扱うように壊れたら代わりはいくらでもいるかのように、彼等は患者を人として扱っていなかった。


 ある日の夜、私は夜の当直の任務を与えられ、夜の施設内を巡回する事になった。

夜間な事もあり、ずっと気になっていた例の隠し扉のような物を調べるチャンスである。夜中であれば、軍医達も出歩いていないだろうし、巡回警備をしている軍人達もいないだろう。

患者達もこの時間であれば部屋に閉じ込められていて出てくる事も無い。鍵は警備担当の軍人が管理しているだろうから誰も抜け出せないようになっている。

私は周囲に誰も居ない事を確認し、例の隠し扉のような所を入念に調べる。よく見ると引き戸のようになっていて、何処かに開ける為のスイッチがあるようだ。

入念に周囲の壁をみていると、スイッチらしいものを見つけた。上手く照明のスイッチのように偽装してあるようだが、こんな場所に照明のスイッチがあるのが冷静に考えればおかしなものである。

ゆっくりとそのスイッチを押すと、引き戸のロックが解除されたようで開ける事が出来そうだ。

中に誰かがいるかもしれないので、ゆっくりと物音をたてないように扉を開けると、その中にはまた通路が存在していた。

ここの建屋の作りだとすると、この通路は施設の裏手にある崖の中に作られた何かにつながっているのかもしれない。


 私はゆっくりと足音をたてないように通路を進んでいった。この先に、どんな恐ろしい物が待ち構えているかなぞ、一切知らぬままに―――。

お読みいただきありがとうございます。

この続きは2020/07/25 23:00頃に公開します。

=-=-=-=-=-=-=-=-

投稿作品の宣伝をしないダメダメ筆者のTwitter -> @SekkaAsagiri

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ