二人の行方(3)
「調べるって言っても、なかなか見つからないね。」
「そうだね。しかしまぁよく戸田は調べているよな。一体アイツは何処で何をしているのだか。」
ネットカフェに入ってからどれぐらい時間が経っただろうか。時間を確認するととっくに終電の時間は過ぎている。
「そういえば、終電の時間過ぎているけど大丈夫か?」
「それは高崎君もでしょ?私は一人暮らしだから大丈夫だけど。」
「それなら俺も大丈夫。実家から通学しているとはいえ、俺のとこは俺に対しては放任だからなー。」
俺の両親は俺が両親が望む法学部か医学部に進まない事がわかってからは、今まで俺にしてきた教育は無駄だったの如く俺を突き放し、全てを放棄した。
小さい頃は可愛い可愛いと言われて愛玩動物のように扱われていたけれど、大きくなった途端に要らないと捨てられるペットのように。
何時もつるんでいるメンバーには言ってはいないが、大学の進学費用も奨学金制度を利用して自ら最終的に返すという約束で大学への入学を認めてもらったほどだ。
両親には、親の敷いた道の上を歩まない子供にかける金はないとはっきり言われている。
あの両親にとっては、子供は自分の虚栄心を満たすための単なるひとつの道具でしかないのだろう。俺には出来のいい弟がいるので、両親はその弟があの人達が望む道を進むように必死になっている。
そんなだから、俺は家に帰らなくても怒られもしないし、むしろ帰ってくるなと言われているぐらいだから問題はなかった。
「・・・なんか高崎君って色々抱えてそうだよね。何時もそんな素振りは見せないけど。」
藤岡さんの鋭い指摘に少々困った顔をしそうになったが、余計な事を言って巻き込むのは良くない。平常心を装い普通に返した。
「そんな事は無いよ。色々抱えていたら大学なんて来れないんじゃないの?」
「まあ、高崎君が大丈夫っていうなら深くは聞かないけど。」
彼女は心配そうな目で俺を見ているが、こればかりは正直に話す訳にはいかないので話を変えるしかない。
「それよりも、ネットで調べても分からない事が多いだけに、こうなると何か方法があるかだよな。羽生教授に戸田が何をしているか聞いても教えてくれるわけがないから、こうなると図書館で歴史書とか調べるしかないのか?」
「う~ん、どうなんだろうね。けど、その方法がいいかも。って、なんか眠くなってきた・・・。」
「ま、時間が時間だからね。手出ししないから仮眠とるならとりなよ。」
「あはは。高崎君が紳士なのはわかってるからそうするー。」
時計の針は02:00を指している。眠くなるのも仕方ない。俺も周囲の安全確認をして少しだけ仮眠をとる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「高崎君、朝だよー朝ー!」
誰かに体を揺らされ起こされたような気がした。
「まだ、もう少し寝かせて・・・」
「もう10時過ぎてるよ!!起きないとダメだよ!!」
何やら聞き覚えのある声だ。こんな声に毎朝起こされたらさぞかし幸せだろう。
って10時?!ヤバい大学に遅れる時間だ。不味い起きないと。
俺はとっさに目が覚めた。俺の目の前には何故か藤岡さんがいる。
「あ、起きた?どうも疲れたみたいで二人ともぐっすり寝ちゃってたみたい。」
「あれ?なんで藤岡さんがここに?あれ?ここ何処だっけ?」
「まだ寝ぼけてる。顔洗ってきて退店しないと延長料金発生しちゃうよ?」
思い出した。俺は藤岡さんと何かから逃げるように走ってきた先にあったネットカフェに調べ物をするために入ったんだった。
まさか寝ぼけている所を彼女に見られる事になるなんて正直言えば恥ずかしかったのもあり、言われるがままにお手洗いで顔を洗ってきて、今まで使っていた個室に忘れ物がないかを確認し、二人そろって店を出た。
「そういえば、あの後は大丈夫だった?」
昨日の夜、藤岡さんがみたという何かの事が気になり聞いてみた。
「とりあえずは大丈夫だったみたい。ただ、何か起きるかもしれないというのはあるかな・・・。」
「ま、俺が出来る事は何でもするから。一人で抱え込むなよ?」
思わず本心が出てしまった。彼女の為なら俺は出来る事は何でもしたい。ましてやこの状況なら尚更だ。
俺のその言葉に一瞬彼女は顔を赤らめたが「ありがとう」とだけ返し、何時もの表情に戻る。
「それじゃ、高崎君が言ってたとおり、図書館に行って調べてみよう!」
この後、二人で図書館に行き、閉館に近い時間まで色々と調べてみたのだが何も手掛かりらしい手掛かりは得られなかった。
やはりこうなると最終手段しかないのかもしれない。
お互いに図書館で調べ物をしている時にあまりにも手掛かりを得られない事に思いついた結論が『例の廃墟に、肝試しの時と同じぐらいの時間に行って調べるしかない』という答えだ。
幸い、俺は高校卒業前ぐらいからバイトして貯めておいたお金を使って校則違反になるからって理由で高校に内緒で運転免許を取得しておいたのもあり、車さえあれば現地に向かう事が出来る。
藤岡さんは優等生タイプだったのもあって、俺のように校則違反上等で免許を取得などしていなかったので、一人では向かう事は出来ない。
ここは俺がエスコートする形で頑張るしかない。ましてや、彼女の身に何か起きる前になんらかの対応が出来れば救う事も出来るかも知れないという淡い期待もある。
今いる図書館のある地域にはレンタカー会社はないが、駅前に行けば格安で借りられるレンタカー会社が複数件あるし、それ以外にも有名どこも数件ある。
俺達は駅前に戻ると格安レンタカー会社に飛び込んで、安く借りられそうな車を探し、手続きを済ませるとそのまま出発する。
まずは、途中ワンコインショップによって必要となりそうな物を買い揃える事にした。
現地で調達しようと思っても、あの山の中ではお店はないし、あったとしても着いた頃には閉まっている可能性が高い。コンビニであっても田舎だと7時から23時までしかやっていない場合もある。
レンタカーを借りたお店からほど近い駐車場のあるワンコインショップを見つけ、懐中電灯、電池、怪我をした時に必要になりそうな物一式、2リットルペットボトル入りの水など思いつく限りカゴに入れて会計を済ませて駐車場に戻ると何時の間にか夜になっていた。店に入った時は日が落ち始めた頃だったのに。
物資はどうにかなったので、あとはこれからどのルートで現地に向かうかだ。
時間を考えれば高速道路を使って有名な世界遺産である観光地を通り抜けて峠越えをした方が早い。夜の時間帯ならまず混雑している事はないハズだ。
ナビの渋滞情報を確認してみても今の所は問題なさそうだし、ナビもそのルートを推奨しているので指示通りに向かう事にした。
高速道路に乗ってどれぐらい進んだ頃かは忘れたが、突然、俺の腹の虫が鳴きだした。
「キュルルルル・・・」
「高崎君、お腹空いてない?そういえば夕飯食べてなかったよね。」
「あ、言われてみれば。藤岡さんもお腹空いてない?」
「実は私もお腹空き始めてて。この先のSAでなにか食べない?」
流石に藤岡さんもお腹が空いていたようだ。考えてみれば、起きたのが遅かったのもあってブランチとして朝昼を済ませてしまったのもあってそろそろお腹が空くのも仕方のない時間ではある。
俺は案内看板に数キロ先にSAがあるのを確認し、そこで休憩がてら遅めの夕食をとる事にした。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/07/22 23:00頃に公開します。
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