二人の行方(2)
「実はさ、多香子ちゃん・・・あ、太田さんと、大泉君の事なんだけど・・・。」
「あの二人か。そういえばまだ行方不明なんだっけか。」
「うん・・・。もう連絡つかなくなって数日経ってるよね。今も連絡つかないのって何かあったんじゃないかって思って・・・。」
言われてみれば確かにそうかもしれない。今も連絡がつかなければ、向こうからの連絡もない。そんな状況なら心配になるのもわからないでもない。
俺はこの時まですっかり忘れていたのだが、戸田に話したあの件の事を思い出した。ただ、その事を藤岡さんに話すべきか話さないべきか、この段階では判断できずにいた。
「確かに心配になるのもわかる。とりあえずは、今は待つしかないのかな。・・・いや、それとも・・・。」
思わず思い出した事を言い出しそうになった時、店員がオーダーした料理を運んできた。
「―――ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
「ではごゆっくり。」
店員が俺達の居る席から離れる。せっかく頼んだ料理だし、冷める前にいただいた方がいいだろう。
「せっかくだし、話は一度ストップして食事を済ませようか。」
「・・・そうだね。」
しばし無言のまま食事が続いた。その間、俺は食事をとりながらあの事を話すべきかどうか悩み続けている。
「「・・・ごちそうさまでした。」」
色々と考えていたせいか、食事をしたという気分にはあまりなれなかったが、目の前で美味しそうに食べている彼女をみるだけで、幸せになれたので良しとしよう。
食事をとって暫くして落ち着いた頃にまた話を再開する事になった。
「・・・それでね、あの二人なんだけど、もしかしたら、赤城君のようになったんじゃって不安になっちゃって・・・。」
「いや、多分考え過ぎじゃないか?確か、戸田があの二人を見かけたとLINEで送ってきてたからね。」
「そういえばそうだよね。それならいいんだけど・・・。ただね、大泉君が何時の間にか居なくなった時に嫌な音を聞いた気がして・・・。」
まさか、俺以外にも大泉のスマートフォンのあの音に気がついている人がいるとは思わずにいただけに正直驚きの声をあげそうになった。
「・・・ごめん、言おうか言わないか迷ってたんだが、実は俺もあの音には気がついた・・・。」
「え?高崎君も?私だけかと思って誰にも言えずにいたんだよね・・・。もしかして、大泉君ってまさか・・・。」
「いや、それは分からない。俺もどうなっているか知らないんだよ。戸田は戸田で何か隠しているようだけど重要な事を調べているようだし。」
もうこの際だから俺自身も藤岡さんには思っている事を打ち明けるべきだろう。今日の戸田のバイトについても気になって仕方がない事が多くあった。
「え?戸田君が調べている事って・・・。」
「俺が今日手伝った時に感じた事なんだが、もしかすると、例の肝試しに行った廃墟に関係しているんじゃないかと思ったんだよ。ただ、戸田は外国の本とか言っていたけど、腑に落ちない部分があったからね。」
「もしかして、戸田君、絵里ちぃの為に危険な事に首を突っ込んでいるんじゃ・・・。」
その可能性は高い。戸田の事だから羽生教授に頼んで何か伝手やら何やらを紹介されていてもおかしくない。ましてやあのバイト料の金額を考えると裏には何かあるとしか思えない。
「だと思う。バイト料も破格だし。翻訳させられた本も独語で書かれていて、内容も『ここに隔離されている患者の~』や『この場所に連れてこられる感染者達は~』とか医療に関わる内容が多かったな。」
「高崎君、今、何気に重要な事言ったよ?医療ってあの廃墟にあったのって、その手のモノだったよね。それと独語で書いてあったのって医療現場で紙のカルテに書く時って独語じゃなかったっけ?」
そうだ、肝心な事を忘れていた。何故、あの本が独語で書かれていたのか分かった気がした。あの本を書いたのは医師で、軍の末端の関係者に気がつかれても独語で書いてあれば分からないだろうとあのようにしたのかもしれない。
「アイツ、一体何を調べているんだ・・・。俺達に内緒で・・・。」
「多分だけど、私達にも関わるから調べているのもあると思う。戸田君って変なトコで正義感や仲間意識強いから。それで言えないのもありそうだよね。」
「戸田ならありえるな。アイツ、変なトコで律儀だし。今日のバイト料だってアイツの事だから色付けていると思う。」
「・・・ねぇ、それならさ、私達でも調べてみようよ。何か分かればきっと役に立てるハズ。」
藤岡さんの言いたい事は分かる。俺も戸田が危険を顧みずに何かをしているようなら一人で背負いこませたくはない。
「それじゃ、調べるとしても何から調べていいのかはわからないけど、これからどうするかだな。」
「う~ん、この時間ならネットカフェ行ってインターネットで調べるってどうかな?」
今日の彼女はいつもより積極的な気がする。俺達は会計を済ませると店を出て、近場のネットカフェを探す事にした。
その時だった。藤岡さんのスマートフォンだけが突然鳴り出した。
「ティロリロ~ン♪ティロリロ~ン♪」
その音にお互い顔を見合わせて驚いた。勿論、周囲の人達のスマートフォンは一切鳴っていない。
もし、本来の緊急速報であればこの一帯にいる人達のほとんどの人のスマートフォンがならなければおかしい。
俺達の周囲にいた人達は、例の音が鳴った事でこちらを訝しそうに見ながら歩き去っていく。
恐る恐る彼女はスマートフォンを取り出すと画面には『ヒトリジャサビシイヨ・・・』と意味の分からないメッセージが表示されていた。
「何これ・・・。意味わからない・・・。」
これが何を意味するか俺にも分からない。ただ、その後、スマートフォンから目線を離して遠くを見ていた彼女の表情が一瞬にして真っ青に変わった。
「え・・・あれって・・・。なんでこっちをみて手招きしてるの?!」
「どうした?大丈夫か??」
「高崎君、ずっと先になんだけど、なんか見覚えのある人が俯き加減で私の事を手招きしてるの・・・。」
「もうそれ以上見たらダメだ。ここから離れるぞ!」
俺は彼女の手をひっぱり、全力でこの場から離れた。どれぐらい走ったかは覚えていない。
ちょうど駅からそう離れてない場所にあった店からは相当離れた場所までは来ている。走ってきた方向が駅を通り過ぎてさっきまでいた場所の反対側に近い場所だ。
確か、この辺ならネットカフェが数件あったハズだし、この辺は眠らない街だけあって何時でも人通りがある。何かあれば助けを求める事も出来るし、交番も近い。
「急に走り出したからビックリしたけど、ありがとう。高崎君・・・。」
「いや、俺なら大丈夫だ。それよりも、そこにネットカフェがあるからそこで調べ物をしてみようか。」
「うん、そうだね。それがいいかも。」
近場のネットカフェに入り、二人で使える個室を確保した。個室といっても上が開いているので何かあれば助けは呼びやすい。最近のネットカフェの中には寝床代わりに使う人の為に完全な個室を提供している店もあるようだが、大抵そういうお店は常連客で溢れかえっていて利用するのは難しい。
そう言う意味でも、やましい事をするつもりもないのならこのタイプの個室を提供している所に限る。
「やっと落ち着いてきたからいいようなものの、さっきは吃驚したよ。突然おかしな事を言い出されたから。」
「ごめんね。私も何が何だかわからなくて。けど、あの手招きしているのは本当に怖かった・・・。」
「ま、ここなら大丈夫だろ。身分証明書がないと利用できない店だし、変な人は入ってこれないと思うし。」
「うん・・・。ありがとう・・・。」
彼女が少しでも安心できるのであれば、その方がいい。その為にも今、俺がやるべき事は常に周囲を警戒し続ける事かも知れない。
もしも、佐野さんや赤城のような事に彼女がなってしまったら、俺は後悔し続ける事にきっとなってしまう。それだけは避けたい。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/07/21 23:00頃に公開します。
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