音信不通(1)
12. 音信不通
「実は、高崎に送ったメッセージが届けられなかったと通知がきてまして。かれこれ6時間以上前に電話をした時も電源が入っていないか、圏外にいるというアナウンスが流れて繋がりませんでしたし。」
それを聞いた益子さんがすぐさま「電話してみたらどうだい?」と言ってきた。
確かに電話して確認した方が確実だろう。急いで高崎に電話をかけてみる。
「・・・こちらはd mobileです。おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所におられるため、かかりません。こちらは―――」
やはり午前中にかけた時と同じであった。
「・・・繋がらないです。午前中に電話した時と同じアナウンスが流れるだけでした。」
「そうか、一体、彼の身に何があったのか。そういえば、高崎君は藤岡君と仲が良かったよな。彼女に聞いてみるのはどうだ?」
言われてみればその方法があったのだが、僕は藤岡さんのLINEは知っていても電話番号は知らない。
「すいません、僕は藤岡さんの電話番号は知らないのです。だから電話をかけようにもかけられなくて。絵里なら知ってるでしょうけど、彼女は今は―――。」
俯き加減にそう答えると教授がそこは任せておけと言う顔をした。
「それなら問題ないよ。一応、藤岡君も出入りしているからね。担当教授から彼女の連絡先なら聞いてあるから、私が電話を入れてみるよ。」
教授は応接セットに近い固定電話から短縮番号を入力し電話をかけ始めた。
「ププップププッ・・・こちらはS mobileです。おかけになった電話は―――」
藤岡さんのスマートフォンも高崎と同じ状況のようだ。
「困ったな・・・繋がらない。戸田君、あの二人の今日の予定とかは聞いてなかったのかい?」
「いや、そこまで踏み入って聞いたりしてないですよ。」
「だよな。すまん、ちょっと気になったんでね。」
流石に何時もつるんでいるようなメンツであっても、そこまでプライベートに干渉する事はない。実際に僕と絵里の関係に関してもバレなかったのはそういう部分があったからだ。
それにしても、ここまで連絡がつかないと何があったのかと心配になる。
なんらかのトラブルに巻き込まれていない事を願うしかない。
この日は益子さんは新幹線で地元に帰る事になり、僕は大学と自宅アパートのある大都市に残る事になった。
連絡のつかない高崎や藤岡さんの事も気になるし、教授の所で見つけた本をどうやって調べるかを考える時間が欲しかったから。
それに、絵里の様子を見に行きたいのもある。そういうのも重なった事と、明日はちょうど日曜なのもあり休みをもらっている。
大学の最寄りの駅で益子さんと別れた僕は面会時間もとっくに過ぎているのもあって絵里の所にはいかず、自宅アパートへ帰った。
あまり意識はしてはいなかったが、やはり、ここ数日の長距離移動は慣れていないのもあってダメージが大きいようで、前日のように家に着き次第倒れるという事は無かったのだが、一通りの用事を済ませた後は何時の間にか眠りについていた。
次の日の朝は休みを貰っているのもあってのんびり起き、朝の準備を済ませ、ここ数日行けなかった絵里の元へ。
ちょうど大学病院に着く頃には土日祝日のみ設定されている午前中の面会が許される時間になる。
今日こそは目を覚ましていて欲しいという淡い期待を持ちながら病室へ向かったのだが、やはりその淡い期待は裏切られる事になった。
やはり、病室の中にいたのは今日も目を覚ます様子のない彼女―――。
僕は何時になったら彼女の事を目覚めさせる事が出来るのだろうか。
時折、もがき苦しむような様子を見せる絵里を見る度に代われるなら代わってあげたいという気持ちが心を支配する。
そんな絵里を見守っている時、僕のスマートフォンに着信が入った。
個室とはいえ、病室内で電話に出るのは良くないだろう。通話の許されている同じフロア内の談話室まで移動し画面を確認する。
益子さんからの着信だ。僕が休みなのを知っていて電話をしてくるとなると何かあったのかも知れない。
「もしもし、戸田です。」
電話に出ると慌てた様子の声が聞こえる。
「益子です。戸田君、今何処に居る?もしかすると大変な事になったかもしれない。」
「今ですか?絵里の入院する大学病院ですが。」
「それなら、新幹線が発着する駅に近いとこだったよな。悪いけど急いで来てくれ。何時のに乗ったか連絡貰えれば駅に迎えに行く。」
そう言うと電話は切れた。この様子だと余程の事があったのかもしれない。
あの様子だと今すぐここを出て向かった方がいい。絵里の部屋に戻り次第、持ってきた荷物を回収し、寝ている絵里に「行ってきます」と小さな声で声をかける。
気のせいかも知れないが、その声に反応したのか絵里が「気をつけてね・・・」と言ったように聞こえた気がした。
大学病院を急いででた僕は新幹線の出る駅に走って向かった。休日というのもあって人通りも多く何度かぶつかりそうになったが、平日と違い本数が減る日曜だけに最も早く着く車両を探すとそのまま飛び乗る。
途中、何時発のどの車両に乗ったか益子さんにメールを入れ、何とか空いていた座席に座ると何があったのか考え込んでいた。
あの慌てっぷりだと、益子さんの身にも何か起きたのかと思ってしまう。それか、連絡のつかない高崎や藤岡さんの身にだろうか。
新幹線は1時間もかからずに社のある地方都市に到着した。
改札を出るなり、声をかけられた。もちろん、声をかけてきたのは益子さんである。
「すまん、せっかくの休みなのに呼び出してしまって。」
「いや、大丈夫ですよ。それよりもその慌てっぷりだと何かあったのですか?」
「ああ。悪いけどついてきてくれ。戸田君も直接聞いた方が早いだろう。」
そのまま僕は逮捕された容疑者のように連れられて行く事になった。
益子さんに連れられてきたのは県警本部内にある記者クラブの一室。
そこにいたのは県警担当の記者。
「待たせてすまない。」
益子さんは頭を下げると相手の記者は「そんなに気を使わないでいいですよ。」と大らかに言うと僕達を呼んだ理由を話してくれた。
「実はですね、県警の人から聞いた話なのですが、もしかするとお二人が調べている事に関係しているのではないかと思いまして。」
県警担当の記者がこっそりと見せてくれたのは、ある事故現場の写真。
「これは・・・。」
益子さんが息を呑んだ。
「もしかして、例の県跨ぐ峠にあるトンネルじゃ・・・。」
僕も思わず先日みたトンネルだけだっただけに言葉が漏れた。
「ええ、そうです。昨夜の事ですがここで車両が炎上する事故がありました。今も事故処理であの辺は通行止めになっています。」
「それで、その事故と私達が調べている事に関係が。」
「まあ焦らないで下さい。益子さんからは、以前に地すべり事故に大学生が亡くなった件でこちらにも問い合わせありましたよね。それがあったので今回連絡したのです。」
連絡した理由を聞いてなんとなくだが察する事が出来た。益子さんがこっちに急いで来るように言ったのもそれが理由なのだろう。
「まだ正式な詳細は出てはいませんが、今回の事故の犠牲者は2名。遺体の損傷は激しく、まだ身元は確定していないようです。但し、レンタカー会社への問い合わせで借りた本人は特定できているようで、実際に運転していたのがその人物なのかを確認して身元の確定のひとつにつなげたいようです。また、その際に一緒に女性が居たという証言もあります。」
「すいません、少し質問してもいいですか?」
正直な気持ちを言うと聞くのが怖いのもあるがここは聞くべきだろう。
何故、あの二人と連絡がつかなかったのを知る為にも―――。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/07/19 23:00頃に公開します。
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