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本の行方(1)

11. 本の行方



 家に帰った僕は疲れた溜まっていたのか、荷物を部屋に投げ出すとベットに倒れ、何時の間にか眠りについていた。

何時も起きる時間よりも早い時間にいつもとは違うお風呂に入っていない気持ち悪さで目が覚めたのもあり、寝ぼけ眼のままシャワーを浴び、しゃっきりとした状態に部屋に戻った時にどれだけ疲れていたのかを痛感させられた。

なにせ、部屋の中には脱ぎ散らかした服と適当に投げられた荷物が散乱していたのだから。

朝からやってしまったという気分になったのだが、まぁ仕方がない。とりあえず脱ぎ捨てられた服と荷物を片付ける。

片付けながらふとある事に気がついた。

そう言えば、帰ってきてからスマートフォンが鳴ったりしていないだろうかと。

なんとなくではあったが、寝ている間に電話が鳴ったような気がしたからだ。夢の世界で鳴っていたのなら問題はないのだろうけど、現実の世界で鳴っていたのなら時間をみて連絡を入れた方がいい。

スマートフォンの画面を確認すると着信はなかったが益子さんからメールが届いていた。

「明日、何時もの時間に何時もの場所に迎えに行く」とだけ。

時間的には電話を入れるのは失礼な時間ではあったので、メールで「よろしくお願いします」とだけ返し、朝の準備を済ませ、社のある地方都市へ向かった。


 新幹線を降り、毎度お馴染みの待ち合わせ場所に向かうと今回も益子さんに先乗りされていて待たさせてしまっていたようだ。

「おはようございます。すいません、毎回毎回。」

「おはよう。いやいや気にしないでくれ。それより、今回は社に寄らずに岩爺のとこに直接行くぞ。もう荷物は準備してあるから。」

僕はてっきり社に行って昨日、高崎に翻訳してもらった本の内容を今日は時間をかけて調べるものだと思っていたので急な話で驚いてしまいそうになった。

「急に岩爺の所に行くって・・・何かあったのですか?」

「ああ、今朝方、電話があってね。何か思い出したらしいんだよ。」

「そうでしたか。電話では聞けなかったのですか?」

「あの爺さんの事だからね。直接聞きに行った方が早いんだよ。電話だと脱線したら修正するのに苦労するから。」

益子さんはため息交じりにそう言うと、車に向かって歩き出した。

相変わらずあの御仁と関わる事で色々と苦労が絶えないようである。


 車に乗り込み、市街地の渋滞に巻き込まれながらも何とか朝のラッシュを抜け、有料道に乗り、今度は夏の観光シーズンによる有名な坂道の渋滞に巻き込まれるという地獄を味わいながら、岩爺のいる湯元温泉郷へ辿り着いた。

8時前に県庁所在地でもある地方都市を出発したハズなのに、目的地に到着したのは11:00近くになっている。

「午前中にはお伺いします」と伝えていた益子さんはあまりの渋滞の酷さに何度か運転しながら頭を抱え込んでいたほど、今回は渋滞に巻き込まれ続けていた。

何とか約束の時間内ではあるが、相手方の都合を考えると申し訳ない気持ちになる。

岩爺のいる旅館へ辿りついた僕達は申し訳なさそうに中に入ると、まるで待ちかねていたかのように玄関内で岩爺が待っていた。

「すいません、遅くなりまして。」

益子さんがそう謝るとこの時期の渋滞の酷さを重々理解している岩爺は仕方ないという顔をして出迎えてくれた。

「いや、こちらこそ呼び出して申し訳ない。ここでの立ち話は客人に迷惑になるので奥で話すとしよう。」

そのまま連れられ、前回案内された奥の部屋まで行く。

「まあ座ってくれ。」

奥の座敷に着くなり、気を使わずに話を聞くように指示された。

「で、今回連絡した件なのだが・・・。あの日誌のような物について思い出した。本当に物忘れが酷くて申し訳ない。」

岩爺はそう言って頭を下げた。

「いや、あの後、お前さん達が落人の里へ行っただろ。その事で先方から連絡があってな。それで話していて思い出してな。いや、まさかアイツに久しぶりに怒られるような事になるとは・・・。」

「それで、岩爺、何を思い出されたのですか?」

真剣な表情で益子さんが尋ねた。

「ああ、医師から預かった物の事だ。儂には何が書いてあるか読めなかった物だが、確か本のような形態をしたおったな。」

「で、その本の行方は?」

「以前に地域の歴史を研究しているという学者先生にあってその時にあげてしもうた。」

地域の歴史を研究しているという学者で僕は一人の人物を思い出した。そう言うまでもない、教授の事だ。

「岩崎さん、歴史を研究している学者って何処の大学とか名乗っていましたか?」

「ほほぉ若いの、良く儂の名字を知ってたな。何処の大学だったかは忘れてしもうたが、結構特徴的な奴だったのは覚えとるぞ。」

「いや、先日お伺いした際にお二人が酔っ払って話している時に益子さんが何度か岩崎さんと呼ぶ事があったので、覚えていたんです。」

「そうだったか。」

岩爺は納得した顔をしているのだが、僕にとってはそちらよりも特徴的な学者の方が重要である。

「で、すいません、ちょっと写真を見ていただきたいのですが、この人だったでしょうか?」

スマートフォンで大学のホームページから羽生教授の写真を探し出し、岩爺に確認してもらった。

「うむ・・・。似てるような気がするが、違うような気もする。何せ、結構前の話だからな。」

「そうでしたか。他に覚えている特徴はありませんでしたか?」

「そうだな。・・・ああ、関係は分からないが若い女の子を連れていたな。ただ、研究ばかりに夢中になっていたのが原因のようで、旅館内で大泣きされていたのは覚えとる。しかも、その時の慌てふためきようは滑稽だったな。」

・・・それ、確実にうちの教授です。ここまで来ると最後の確認をしなければならない。そう、一緒にいたと思われる女の子。それは教授の奥さんの事だろう。

スマートフォンを操作し、以前に教授の奥さんが研究室に来た時の写真を探し確認してもらった。

「ああ、この子は覚えとるぞ。学者と一緒におった子だ。」

これで羽生教授だという事が確定した。ついでなので、この旅館に教授と奥さんが来た時の話を聞きだしておく事にした。

何かあった時の教授のコントロール用の秘密兵器として。

聞き出した話はここでは言えないが、教授の弱点が奥さんである事を確信するのにとてもいい話だと言っておこう。

教授と奥さんは一回り近く歳の差があるのは知ってはいたが、そんな関係であったなんて知らなっただけに僕にとっては興味津々&まるで最終兵器を手に入れた気分になった。

もし、教授が今後暴走するような事があれば、これでチクリと刺す事が出来る。

ちなみに僕と一緒に話を聞いていた益子さんは少しばかり先生の知ってはいけない一面を知ってしまったような気不味そうな顔をしていたのが印象的で申し訳ない事をしてしまった気分になった。

まあ、悪いのは教授なのだから、益子さんには諦めてもらおう。


 岩爺から重要な本の行方を聞き出した僕達は一度社に戻ってこれからどうするかを決める事にした。

時間はちょうど正午を過ぎたぐらい。帰りの車内でも教授から本のありかを聞き出した後どうするかの話題になり、また独語で書かれていた場合の事を考えてその際は高崎に頼む事にしようという話になった。

もし頼むとしたら早目に連絡だけは入れておいた方がいいと思った僕は益子さんに断りを入れ、高崎に電話をかけた。

「・・・こちらはd mobileです。おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かない場所におられるため、かかりません。こちらは―――」

何時もなら繋がるハズの高崎が電話に出ない。不思議に思ったりもしたのだが、何か理由<<ワケ>>があって出られないのかもしれない。

それならばとLINEでメッセージを送る事にした。

――――――

戸田:

お疲れ様です。悪いんだけど、前回の続き頼めれば頼みたいのだけど。

――――――

これだけ書けばわかるだろう。とりあえず、繋がるようになればメッセージは受信されるハズだ。

「戸田君、電話は無事終わったかい?」

益子さんが心配そうに尋ねてきた。電話が繋がれば会話が成立するのが普通だし、留守電になっていれば何かメッセージを残すものだ。

「すいません。高崎に電話したのですが、圏外のようで留守電にもならなかったので。一応LINEは飛ばしたので大丈夫だと思います。」

「そっか。まあ何か都合があるのだろうし、気長に待つしかないだろうね。」

この時は気にしていなかったのだが、この電話が繋がらないという事が今後起きる事の前触れだったとは知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございます。

この続きは2020/07/17 23:00頃に公開します。

=-=-=-=-=-=-=-=-

投稿作品の宣伝をしないダメダメ筆者のTwitter -> @SekkaAsagiri

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