二人の足取り (3) / 次なる手掛かりを求めて (1)
「御乗車ありがとうございました。次は終点、△△、△△。お出口は、左側です。□□線は―――」
俺達は大都市から逃げ出して何とかここまで辿り着いた。終点に近いだけあって電車の中には殆ど人は乗っていない。
ここまで来る人は大抵の場合は新幹線を利用するから、電車で来る人は稀なのだろう。
電車が終点に到着しホームへのドアが開く。
ほっと一息をつきたいのもあってか二人でゆっくりと電車を降りた。
「ここまで来れば大丈夫だよな。」
「うん・・・。けど、これからどうしようか。」
「そうだな・・・。」
その場の勢いで逃げてきたのもあってかこの後の事を考えていなかった。改札を出て街に出たとしてもここは一地方都市。隣の県庁所在地の市より発展しているとはいえ、どんなお店や休める場所があるかは分からない。
とりあえずホームで休める所はないかと探している時だった。
まさか・・・そんな馬鹿な・・・。
「多香子、疲れているかも知れないが逃げるぞ。」
俺は多香子の手をとり、そのまま階段を駆け上ると別のホームに止まっている電車に飛び乗った。
「要ちゃん、一体なにがあったの?」
「まさかの奴がいたんだよ。向こうで電車に飛び乗った時には見かけなかった奴が。」
それを聞いた彼女は言葉を失っている。俺だって正直言えば、何故、奴がここにいるのかと思うほどだ。
飛び乗った電車が何処行なのかは分からないが、3両編成と車両も短く乗っている乗客も少ない。
このまま行ける所まで行こうと最後尾の車両へ移動し、空いている席に二人で座った。
窓の外は何時の間にか日が落ち真っ暗になっている。
このまま俺達は何処へ向かうのだろうか、何処へ行けば助かるのだろうか、そんな思いに耽っているうちに二人とも疲れからか眠りについていた。
ドンッ!!―――
物凄い衝撃で目が覚めた。今は何処まで来ているのか、電車は何処を走っているのかは分からない。何時の間にか寝ている間に周囲には誰も乗客がいない状態になっていた。
隣に座っていた多香子も先ほどの衝撃で目が覚めたのか目をパチクリさせて驚いている。
「何があったの??」
「わからない。物凄い衝撃で俺も目が覚めたぐらいだ。」
普通であれば車内アナウンスがあるハズなのだが、それすらない。あまりの信じられない状況にポケットのスマートフォンを取り出し何が起きたのか確認しようとした時だった。
「要ちゃん・・・ねぇあれ・・・」
俺の裾を力いっぱい多香子がひっぱる。そして彼女が指さす窓の外の方向をみる―――そこには奴が・・・死んだはずの赤城の姿があった。
俺達をまるで迎えに来たかのように恨めしそうに睨みつける彼の姿が。
その時だった。突然の土の匂いが車内にしたかと思うと、物凄い地鳴りが聞こえてきた。
「ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・」
俺と多香子は逃げる間もなく車両毎土砂に巻き込まれてしまい、そのまま意識を失っていった。
ただ、お互いの手を握りしめていた事もあって、遠退く意識の中、彼女だけは守らないとその手を離さないようにしながら―――。
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8. 次なる手掛かりを求めて
正直な気持ち、社で続報を待っていたかったのもあるが、このまま待ち続けていても変わらないのであれば何か行動を起こした方がいいのかもしれない。
益子さんにとっても気分転換をしたかったのもあるのだろう。岩爺から言われた落人の里に向かい何かの手掛かりを掴めればというのもあって、紹介された人物へのアポイントの電話を入れると「急な話であるが、今日は1日暇を持て余しているから大丈夫」との返答を貰えた事もあり、行く事にした。
社から車で有料道を使って向かうとしても、2時間強かかるような山の中に目的地はある。今から準備して出発すると現地に到着するのは13時過ぎぐらいになりそうだ。
必要な荷物を積み込み、いざ出発となった時だ。僕のスマートフォンが鳴った。誰からだろうと画面を見ると教授からの着信。
重要な電話かも知れないので、電話に出る事にした。
「もしもし、羽生です。戸田君、大泉君と太田君の件なんだが―――。」
「おはようございます、教授。ええ、益子さんとその話になりまして。あ、今、車で移動中なので隣に益子さんいますからスピーカーに切り替えます。」
益子さんに教授からの電話な事を伝え、スピーカーに切り替えた。
「先生、大変な事になりましたね・・・。」
スピーカーにした事で通話に参加する事になった益子さんが深刻そうに言った。
「ああ・・・。益子さんならもう情報が伝わっているとは思うのだけれど、昨夜の地すべり崩壊の犠牲者がウチの生徒だからね。」
「ええ、上野新聞の記者から情報を貰ってましたから。」
「先ほど、大学の方にも確認のための連絡が来ましてね、まさかと私も思ってそれで戸田君に電話を入れたと。」
教授の言葉に僕は正式にあの二人が亡くなった事を実感した。まだ正式発表がされていないとはいえ、大学にも確認の電話が来るとなるとそう言う事としか思えなかった。
「・・・そういうわけだ。戸田君達もくれぐれも身辺には気をつけてくれ。」
「教授、ご心配ありがとうございます。ただ、僕はこれ以上の被害が出ないように出来る事をしたいと思ってますので。」
「無理はするなよ。戸田君も益子さんもあの場所へ行って佐野君と同じ事が起きているだけに。」
「はい。それと教授、いただいた電話で恐縮ではありますが、その後、教授の方で分かった事ってありますか?」
「うーん、それなんだがな。これといった手掛かりがありそうでないんだよ。何か忘れているような気もするのだが。」
この教授の声の様子だと何かひっかかるものはあるのだろうけど、それが今一つ思い出せないような感じなのかもしれない。
「先生、こちらこそお手数をおかけさせてしまい、すいません。」
「いや、大丈夫。それよりそっちの調査はどうなんだい?」
これから落人の里に情報収集に行く事を伝えると興味深そうな声で教授が話す。
「落人の里か。この国が血で血を洗う乱世の時代だった頃に温泉として発祥したような所だけど、あの辺りは温泉地から離れると一気に山に囲まれる場所だね。あの辺りなら、落人伝説が伝わる土地だし、今も続いている風習のたき火をしない、犬を飼わない、鶏を飼わないなどを考えれば、あの大戦中にも逃げ隠れこんだ人達がいるという話があってもおかしくはないと思うよ。まぁ何か分かったら私にも教えてくれ。」
「わかりました。」
そう答えると電話は切れた。慌てて切ったような感じもしたので、何かあったのだろう。
今回の地すべり崩壊の犠牲者である大泉と太田さんは僕があの研究室にいる事が多いから全員が集まるのにもちょうどいいという理由もあって教授の所に出入りしていたのを目撃している人も多いハズだから、それが原因で何らかの対応に追われてない事を願うばかりだ。
本来であれば、教授が対応するような事ではないのだろうけど、赤城の件もあるだけに目が向けられている可能性は否定できない。
そうなっていない事を願いつつ、僕は助手席で何故あの二人があの場所で犠牲になったのかと考えこんでしまっていた。
赤城の時は崩れてきたガラス、大泉と太田さんは地すべり崩壊による土砂災害・・・。共通性が分からない。有名なホラー映画やホラー小説なら何らかの共通性があるモノだろうし、俗に言われる呪いというものなら共通性があってもよいハズだ。
その共通性が何なのかが全く見当もつかないまま、これからどうしたらいいのか、何が起きるのかを想像しろと言われても難しい。
ただただ、僕は今起きている現実を受け入れるしかないのか―――心の中にモヤモヤが溜まる一方だ。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/07/12 23:00頃に公開します。
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