Beginnig (2)
キャンプ当日。待ち合わせ場所の駅に行くと、赤城君が黒の如何にもあっち系の人が好きそうなカスタムをされたヴェルファイアを路駐して待っていた。
私以外のメンバーも先に集まっていたようで、一番遅れてきたのは私って感じになっていた。
「みんな、早いね。」
私がそう言うと、それぞれが赤城君にバレないように適当な答えをしている。
本当の事を言うと、児玉さんに頼まれた人達が私より先に着く事で赤城君が変な行動をしないようにと先手を打っていてくれた。
私が合流した事により、今回行けるメンバー全員が揃った。
赤城君は私を助手席に座らせようとしたかったようだけど、高山君が何時の間にか助手席を占拠していてくれたお陰で藤岡さんと最後部の席に着く事になった。
「こういう時の高山君って頼りになるんだよね。恰好いいな・・・。」
隣に座る藤岡さんがポツリとそんな事を言っていたのを聞いて、なんでこの二人は付き合わないのかな?と思ったのだけど、人の色恋沙汰に首を突っ込むのもと思って言わない。
このキャンプで藤岡さんと高山君が付き合うようになればいいなーなんて思っていたりするけれど、それは二人次第。
そんな事を考えていると、何時の間にか車は出発していて、どのルートで向かうかを赤城君と高山君が話していた。
「この時期だと、TH道・UN有料道路経由だと混雑してないか?」
アウトドア好きの藤岡さんの事が好きなだけあって、彼女が喜びそうな所に行くにはどこを通ればいいかを学習する能力を身につけていた高山君が言った。
「そうか?別ルートっていうと何処があるんだよ?」
私の事を助手席に座らせることに失敗した赤城君が不機嫌そうに高山君に言う。
「うーん、それならKE道でNTで降りて国道を走った方がいいと思う。」
「遠回りじゃないのかよ?」
「遠回りだけど下手に渋滞に巻き込まれるよりはいいと思うけど。特に世界的に有名なあの社寺の辺りと湖に向かう坂道は休みは大渋滞してるじゃん。」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
こういう時にも分かるのだけど、赤城君は事前に調べるって事をしない。勢いで済ませちゃうから困ったもの。児玉さんがいれば、もう少し違うのかもしれないけど、今回ばかりはいないから仕方ない。必死に赤城君を説得しようと高山君が頑張ったお陰で渋滞に巻き込まれないで済むであろうK越道経由で行く事になった。
車は順調に進み続け、キャンプ場の近くまで来た時に赤城君が何かを見つけたようだった。
「うん?なんだあれ??」
助手席の高山君も気がついたらしく、安全な場所に車を停めて確認している。
「・・・何かの廃墟じゃないのか?」
高山君が興味をなさそうに答えると赤城君は逆に興味をそそられたようでテンション高めになる。
「面白そうだな!肝試しするにはちょうどよさそうじゃん!!」
車内にいた全員がその言葉に頭を抱える。この様子だと夜には肝試しになるのだろうなーと。
まだ、事前に分かっただけ今回は良いのかもしれないけれど。
車は再出発すると目的地のキャンプ場についた。
キャンプ場のそばには大きな沼があり、本州で一番透明度が高いと言われているだけあってとても綺麗。
車から荷物を下ろし、キャンプ場の管理人小屋へ向かい、手続きを済ませる事にした。
管理人小屋には年配の男性が一人。私達が到着した時刻がお昼時だった事もあって他の職員さんは見当たらない。
カウンタの傍に行くと私達に気がついた老人がカウンタに近づいてきてきた。
「いらっしゃい」
予約した張本人は赤城君なのだからと全員から行くのは当然という態度をとられたのもあって赤城君はしぶしぶ前に立たされ手続きをする事になった。
「あの、予約しておいた赤城なのですが。」
「ちょっと待ってください。今確認します。」
老人はそういうと帳簿のような物をカウンタの下から取り出し確認し始めた。
「赤城、赤城と・・・あったあった。すいません、今、若い担当者達がお昼時の対応で席外してて、私のようなのしかおらず。」
「いや、大丈夫。それで、何処を使えばいいんだ?」
せかすように言うと老人はため息をつく。
「ちょっと待ってください。まずは利用に関する説明をさせてもらえれば。」
当然だけど何処に何があるかなどの説明を受けておかなければ、これから先困る事になる。何時もの事だけど、その辺を気にしないのが赤城君らしいとこだ。
イラつく赤城君を尻目に他の人達は真剣なまなざしで説明を聞く。
説明が始まってどれぐらい過ぎた頃だろうか。年配の男性からの諸注意の中で気になる事があった。
「このキャンプ場周辺には沼や高原など様々なものがありますが、くれぐれも行かれてはならない場所があります。地図でいいますとこの辺です。」
老人が指さした場所は、私達がここに来る時に見たあの廃墟の辺り。
「その辺りって何があるのですか?俺達がここに来る時に通った道からみえた辺りなのですが。」
助手席に乗り常に周囲を確認していた高山君が皆を代表したかのように聞いた。
「うむ・・・立ち入り禁止区域なので入る事は出来ないのですが、道沿いから見えるのは廃墟ぐらいですね。」
その言葉にさっきまで機嫌の悪そうだった赤城君が食いついた。
「その廃墟ってなにがあるんです?」
中年の男性は気不味そうにしながら、言葉を濁しながら答えた。
「・・・さぁ?私も詳しくは知らないんですよ。昔からあったとだけしか・・・。」
きっと何か言えない事情があるのだろう。私はとてつもない嫌な予感しかしなかった。
「―――それじゃ説明は以上で。」
中年男性はそう言うと、私達が使うコテージの場所を案内してくれた。
コテージには車を横づけできるスペースもあり、コテージ内はロフトと居住スペースが別れている。予約した人数が人数だった事もあって、隣り合ったコテージが2棟確保されている。
お陰で夜は男女に別れて過ごす事が出来そうだ。この時、赤城君は男女混合にしようとしたようだけど、全員の反対で却下され、男女に別れて荷物をコテージに持ち込み、夜の解散になるまではコテージ前のキャンプスペースでみんなで集まって遊ぶことになった。
昼の間は沼に行ってカヌーを借りて水遊びをしたり、夕食時にはみんなでカレーを作ってと普通のキャンプらしいキャンプを楽しんだ。
そして、夕食が終わり、夜の帳が落ち始めた頃、赤城君が満を持したように言い出した。ついに恐れていた事を。
「せっかくのキャンプ、せっかくの夜、これから肝試しをやるしかない!」
まるでどこぞのガキ大将がリサイタルをひらくかのように。
「何処でやる気なの?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「う~ん、秘密。めぼしはつけてあるぞ。そこならちょうどよさそうだし。」
赤城君以外の人達が顔を見合わせてため息をつく。絶対あそこだろうから。
「赤城さ、まさか行くなと言われたあの廃墟じゃないだろうな?」
高山君が口火を切って問い詰めはじめた。
他の人達も同様に、「まさかね」「違うよね?」と口々に言う。
けど、赤城君にはそんなのは関係なかった。そう、彼の悪い癖である人の話を聞かないが十分に発動していたから。
「高山さ、お前怖いだけだろ?そんなだから、硬派気取っているだけで藤岡にコクれないヘタレなんだろ。」
その一言に高山君が怒りに震え赤城君に詰め寄った。
「違うわ!そこまで言うなら行ってやるさ。どこででもな!」
高山君が釣れた事に味を占めた赤城君は大泉君の事を挑発し始めた。
「大泉も大泉でさ、太田って彼女いるくせに男見せる気ないんだ?いいよな、そんなヘタレな癖に彼女いるなんてさー。太田もそんなヘタレと別れればいいのに。」
言いたい放題いう赤城君に対し、流石の大泉君もフザけるなって顔をしている。
「お前さ、言っていい事と悪い事の分別つかんのか?そこまで言うなら、行ってやるよ。」
高山君、大泉君の男性陣2名が赤城君の思う壺に陥ってしまった。こうなると、太田さんも藤岡さんも落とされるのは時間の問題。
最後まで私なりに反対し続けたのだけれど、結局、多数決状態になっていかざる終えなくなってしまった。
ちょうど日付が変わる頃の時間、私達は車に乗り込み、赤城君が決めた肝試しスポットへ向かった。
言うまでもなく、車の向かっている場所はあの場所だろう―――。
お読みいただきありがとうございます。
この続きは2020/06/23 21:00頃に公開します。
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