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廃墟へ (4) / 手掛かりを求めて (1)

 診察室と思われる部屋を後にした僕達は奥へと進んだ。

前もって藤岡さん達から聞いてきた話を基にどの辺を進むかは決めておいた。この廃墟を虱潰しに調べるとすれば1日では足りないだろう。

思ったよりも広い気がする。そして、何よりも瓦礫で入れない部屋などもあった。瓦礫の奥には一体何があるかわからない。

行ける所まで行くと、土砂崩れに巻き込まれて完全にそれ以上先は隔離されているような場所に辿り着いた。見る限りだとこの奥にもまだ部屋やら何かが存在するような感じがする。

強力なライトのお陰か、埋まっているという感じではなく遮断されたと分かる箇所に気がつけたからだ。よく見ると上の方には隙間があるし、その奥から空気の流れを感じる事が出来た。

道具さえあれば土砂を取り除き行けるかもしれないが、今回はそんなものは持ってきていない。

そして、一番気になったのは足元のガレキの多さだ。

土砂崩れに巻き込まれて発生したガレキ以外にも土砂災害に巻き込まれた事で亡くなったと思える人達の品々だったと思えるものも多く目立つ。中には肝試しに来た者達が破壊したのだろうと思える物も数多くあった。

そんな中、ある物を見つけてしまった。

バラバラにされてはいるが、元はきっと美しかっただろう人形を。きっとここに入所していた人の物だったのだろう。

胴体から顔は外れ、腕や足は外れたり、あらぬ方向を向いていた。あまりにも見ていて可哀想と思える状態だったので僕はそっと拾い上げ、バラバラになったパーツを拾い集め組み立て直して安全な所に置く事にした。

人形以外にもぬいぐるみやペンダントと思わしき物なども人為的に引きちぎられたような状態で捨てられていて、それらも同様に見つかったパーツは一緒にし、人形と同じ場所におくようにした。

益子さんも同様にここが廃墟と化してから侵入した者達が無礼極まりない行動をしたとしか思えないゴミの数々を拾っては1ヵ所に集めていた。

本来であれば現状維持をすべきなのだろうが、自分達がした事ではなくても罪悪感を感じるほど酷い有様になっていた。

たぶんであるが、ここに肝試しに来た者達にとっては廃墟の見た目と違いそれほど恐怖を感じないからという理由でこういう事をしたのだろう。薄暗い中では分からないとは思うが、最近捨てられたとしか思えない空き缶や空き瓶や菓子の袋やコンビニの袋などが投げ捨てられていたらそう思ってしまう。

人が見ていないから、人がいないからと何をやっても良いわけではない。

僕達は無言のまま、片付けをしながら何か手掛かりはないかと探していた。ふと集めた人形やぬいぐるみを見ていると何やら紙切れが1枚ある事に気がついた。

その紙切れにはこう書かれていた。

――――――

最愛の―――

戦争がなければ僕達は何時か一緒になる事が出来ただろう。

いずれ僕達はこのままでは引き裂かれてしまう事になる。

僕は何時までも君のそばにいたい。けれども、今の様子ではいずれ―――

―――。一緒に君と逃げる事が出来ればどんなに幸せだろうか。

君への思いをこの人形にこめて―――

何時かきっと二人で幸せに暮らせる日が―――

――――――

一部かすれていたり破けていたりしてそれ以上は読む事が出来なかった。

紙切れの内容をスマートフォンで撮影し、元の人形の中に戻す。

益子さんも手掛かりを探し続けていたようだがこれと言って見つからなかったようで、そろそろここを切り上げて話を聞ける人の所に向かう事にした。

廃墟からでて、僕達は無意識のうちに中に向かって手を合わせていた。何故、そうしたかは分からない。しないといけない気分になったからとしか言えない。


外に出ると日は傾きつつある。山の中は平地とは違い山に太陽が隠れてしまうため日暮れが少し早い。時計の針をみると17時半。ここを出るのが18時だとすると約束の湯元温泉郷に着くのは19時前ぐらいになる。

急いで車に戻ろうと獣道を歩き始めた時だった。僕と益子さんのスマートフォンが鳴り出した。

「ティロリロ~ン♪ティロリロ~ン♪」

鳴り出したのは緊急速報のチャイム音。

僕のスマートフォンがその音の後に自動音声が内容を読み上げ始めた。

「キチャイケナイトイッタノニ・・・モウワタシニハ・・・・・・」

ポケットからスマートフォンを取り出し確認するとメッセージが表示されている。益子さんのスマートフォンも同様だ。

「・・・僕達のスマートフォンにも例のが起きましたね・・・。」

「ああ・・・。正直嘘だろ?と思った。戸田君、スマートフォンの画面をよく見てみろ。上部のアンテナピクトマークを。」

「え??ここって圏外なんですよね。圏外でこんな事が起きるなんて。」

「普通ならあり得ない。戸田君の使っている電話会社ってd mobile回線だったよな。」

僕は「はい」と頷くと益子さんは話を続ける。

「私のスマートフォンは私物と会社支給のがあるのだが、私物はa mobile、会社支給のはS mobileでどちらも圏外だ。それなのに私物が戸田君のと同時になったわけだ。それが意味するわけはわかるよな。」

言うまでもない、普通ならあり得ない事だ。人為的に起こそうとすればこの付近に基地局が必要になるし制御機器も必要になる。

藤岡さん達の話では絵里のスマートフォンだけが鳴ったとの事だったが、今回は二人のスマートフォンが鳴った事を考えると、僕達の身にもとてつもない事が起きる可能性がある。

絵里が意識不明になっているし、赤城は亡くなっている。それ以前にここに肝試しに来て何らかの粗相をした連中の身にも起きている。覚悟しておくべきだろう。

僕達の身に何時何が起きるかわからない状況となった今、時間は限られる事になってしまった。

もし、何かあった時は仕方ないとしてそれまで後悔しないように出来る事をしなければ。これからどうするかを話しながら、車に戻ると急いで湯元温泉郷へ向かう事にした。


 ただ、この時、僕達は肝心な事を忘れていた。キャンプ場の管理人小屋の男性から聞いていた老人の存在を。



6. 手掛かりを求めて



 温泉郷に向かう間、何処までスマートフォンが圏外なのかも確認する事にした。各社のサービスエリアマップを確認できれば早いのだが未だに圏外だ。

ちょうど電波が復活したのは県を跨ぎトンネルを過ぎた辺りからだ。4Gのマークがつきアンテナピクトが立つ。日常生活ではどこでも繋がるのが当たり前に感じていただけに、はあまり気にしていなかったのだが、意外な所で圏外になる事を知った。

トンネルを抜けた先から曲がりくねった坂道を下り続け、それほど時間もかからずに温泉郷の入り口に辿り着いた。

温泉郷に辿り着くまで、ほんの少しの場所でのみ一時的に圏外になったがそれ以外はずっとサービスエリア内の表示がでていた。


 温泉郷の中に入ると19時近いからか散策している人達がいる様子はない。日帰りの人はほとんど帰ったか、泊り客の人は目的のホテルでくつろいでいるのだろう。

時間は厳格に決めてはいないとはいえ、遅くなると相手に失礼にもなる。

ただ、こんな時間でも何処に人がいるか分からないのもあるので、ゆっくりと周囲の安全を確認しながら湯元温泉郷の長老のような人物がいる旅館へ車を走らせた。

お読みいただきありがとうございます。

この続きは2020/07/05 23:00頃に公開します。

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投稿作品の宣伝をしないダメダメ筆者のTwitter -> @SekkaAsagiri

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