ランク昇格試験
「アジフさん、Eランクへの昇格試験基準に達しました。昇格試験を受けますか?」
Eランクへの昇格条件はFランク依頼50件と討伐依頼の達成、そしてギルド職員との立ち合いだ。
「お願いします。武器は片手剣と盾です。いつ頃になります?」
「明日の午前中でどうですか?」
「大丈夫です、それでお願いします」
立ち合いと言っても勝負するわけではない。最低限の戦闘能力を見るだけだ。
翌朝の予約を取って、ギルドを出た。
翌朝食事をとり、いつも通りの日課をこなし、装備を整えてギルドへ向かう。
受付の列に並び、冒険者プレートを提示する。
「Eランク昇格試験のアジフです」
「あー、アジフさんですね、実はちょっと手違いがありまして…詳細は訓練場にて説明しますので」
え、何!? 面倒なのはご遠慮したい。
職員に案内されて行った訓練場では、試験官と思われる、それはもう強そうな槍使いがやる気十分でウォーミングアップしていた。
「実はスケジュール管理ミスで、ギルドの職員の都合がつかなかったんです。そこで、こちらのAランク冒険者のスエイさんが、試験官に名乗り出てくださったんです」
「おう、スエイだ。ミレイちゃんが困ってるって言うから手助けにきたぜ」
うわー、これダメな人じゃね? とは言え、ギルドの顔を潰すわけにもいかないか。
「Fランク冒険者のアジフです。Aランクの方に担当していただいて光栄です。よろしくお願いします」
「ふうん?Fランクにしちゃ歳いってんな」
「旅の間の手慰みですので」
「まぁ、いいか。得物を準備しな」
訓練場の盾と木剣を手にして、構えをとった。
「お願いします」
「いつでもいいぜ、かかってきな」
相手は槍をかつぎ余裕の構えだ。
左の盾を前に左半身で間合いを詰めた、その瞬間
<ブンッ>
<<<バンッ!>>>
攻撃を認識する前に、盾を構えずに打ち払ったのはほぼ偶然だった。
発生した衝撃と音で吹き飛ばされ、地面に転がる。
とっさに、体を起こすと左手の盾はバラバラに砕けていた。
「ふぅん、オレの「参りました」」
何か言わせる前に剣を捨て降参した。
こんなEランク昇格試験ありえない。
「いや、試験はまだ終わってねぇよ、剣を拾え! 新しい盾を持ってきな!」
「いいえ、降参です」
「てめぇ! 失格にしちまうぞ!」
「次のチャンスにかけます」
「実戦で次なんてあると思うな! 死ぬ気を見せてみろよ!」
「これが実戦なら戦う前に負けてます」
「あ゛!? お前、つまんねぇヤツだな」
「あなたはFランク相手に楽しそうだな」
そう言った瞬間、衝撃を認識する間も無く意識を失った。
*********************************************
気がつくと、ベッドに寝かされているようだった。
おお、これはアレか!? アレを言う時なのか?
「知ら「気が付きましたか?」」
職員さんがいたようだ。
「・・・あ、はい、どうなったんですか?」
「あなたはEランク昇格試験で気を失ったんです。骨が折れてましたので、回復魔法で治療しました。ここはギルドの医務室です」
体を動かしてみたが、どこも痛くない。回復魔法バンザイ
「ああ…そうですか。試験はどうなりました?」
「スエイさんとギルドで協議の結果、合格になりました。こちらが冒険者プレートです」
「そうですか…それは、まぁよかったです」
渡された銀色のプレートが皮肉に思えた。
「スエイさんはギルドマスターにこってり怒られましたので。悪い人じゃないんですが、今回はギルドの人選ミスです。本当に申し訳ありませんでした」
職員さんは立ち上がり頭を下げた。
ちゃんと謝ってもらえたならまぁいいか。
「ひょっとしてあなたがミレイさん?」
「え?そうですけど?」
「いや、なるほどね」
ベッドから身を起こし、靴を履いた。
「私の装備は?」
「えっと…それが…鎧がバラバラになってしまって」
「ハァ!?」
「もちろん、ギルドで弁償しますので。金貨2枚ほどの品とお見受けしましたが、どうですか?」
「あ、ああ、その値段だったが」
「今回の迷惑料を加え、金貨5枚ご用意します。これでよろしいでしょうか」
…おやっさん、すいません。鎧は不本意な形で失ってしまいましたが、最後にちゃんと守ってくれました。
「それで結構です」
残りの荷物を引き取り、金貨をもらい外に出るとスエイが待っていた。
「あーなんだ、悪かったな、ちょっと熱くなっちまった」
知ってる。
「済んだ事だ、気にしてないよ」
「いや、それじゃ気が済まん」
「ではミレイさんにも謝罪を、大変申し訳なさそうに謝ってくれたよ」
「そ、そうか、いや、そうだな。それが筋か」
「そういうこと、では」
肩を落とすスエイの横を通り、ギルドを出た。
*************************************************
「ミレイ、すまなかった」
目の前で頭を下げるスエイさんを見ている。はぁ
「いえ、今回の事はそもそもギルドの不手際です。スエイさんにも謝らなくちゃいけませんわ」
善意で協力してくれたAランク冒険者を無下にするなど、ギルドにできるはずがない。ましてや、若く実力のある高ランク冒険者が自分への厚意から手助けしてくれたんだ、職員として嬉しくないはずがない。
「それでも結局迷惑をかけちまった。この埋め合わせはいつかさせてもらうぜ」
「気にしなくてもいいのに…。でも、そうね、その時はお願いしようかしら」
「ああ、必ず、だ」
そもそも、スエイさんは”冒険者としては”何も間違った事はしてない。責任なんて問えるはずがないのよ。
戦う力はあっても、求められることを見分ける経験が足りなかったのね。
*************************************************
スエイが“Eランクの昇格条件”ではなく、“相手の実力”を試していたのは最初の一撃でわかった。
試す内容がお互いに違ったのだから噛み合わなくて当然だ。
しかし、Aランク冒険者の力を体験できたのは運がよかった。まったく本気じゃなかったとは言え、凄まじいの一言に尽きる。
訓練用の木槍で魔物の牙をも通さない鎧をぶっ壊すなんてどうかしている。
とは言え、さすがに無手無抵抗の相手を試験でぶっとばすとは思わなかったが。これが若さか。
ギルドを出て向かったのは工房エリアだ。この街に来て初になる。さて、どんな工房があるかな。
一通り見て回ると、高くて腕のいい職人か、安くて若い職人か二極化していた。中間がいない。どうもこの街ではある程度腕がいいと稼げてしまうので、値段が高くなってしまうらしい。うむむ、お得感がない。
若い職人の工房で、整理と整頓と清掃が行届いた工房を選んで訪ねた。3Sは現場の基本だからな。
「いらっしゃいませ、鎧ですか?」
盾持ってグリーブ付けて胴体ががら空きだからね、そりゃわかるか。
「ああ、作品を見せてもらえるか?」
「ええ、どうぞ」
2領あった完成品は無骨で無難なデザインだった。造りはしっかりしてそうだ。うん、いいんじゃないかな。
「静かで丈夫なのがいいな。予算は金貨4枚で」
「4枚ならキラーアントですかね。ジャイアントセンチピードは8枚は欲しいです」
「裏革は?」
「オークで」
うん、無難だ。
「それでお願いしよう」
「ありがとうございます、では採寸をさせてください」
前金で金貨2枚を渡し、完成は1週間後、中3日で寸法確認に来て欲しいとの事だった。




