捜索
ナナゼ村で冒険者として暮らし、日々を過ごすほどに村の中で居場所ができていく。すっかり馴染んで毎日を過ごすうちに、二年の月日があっという間に経過した。
いつも通りの一日を過ごし、自宅へと戻る。村の皆に手伝ってもらいながらも自分で作った、一人ならなんとか暮らせる程度の小屋だ。その扉が激しく叩かれたのは、夕飯を食べている最中だった。
「アジフさん! お願いします!」
扉の向こうでケムィットさんの声がする。相当あわてているようだ。食べかけだった夕食を中断して扉を開ける。
「どうしたんですか、そんなにあわてて」
「うちの子たちが夕飯時になっても帰って来ないんです。探すのを手伝ってください!」
子供が夕飯に帰って来ないってのは、笑いごとで済む話ではない。村から一歩出れば魔物がうろつき回っているのだ。ケムィットさんの子供は男の子と女の子の兄妹二人だ。二人とも戻っていないのか。
「どこまで探しました?」
外出の準備をしながら、確認する。
「自警団にも声をかけて、村の中は探しました。門から村の外には出てないみたいなんですが、川の柵のすき間から村の外に出たかもしれないんです」
思わず外出の準備の手を止めて振りむいた。村には農業の為に、森から幅1mほどの小川が引き込まれている。水量は少なくて村のため池につながっているのだが、引き込み口は魔物が入らないように柵が設けられていた。
抜け道を見つけるのに、子供に優る存在はいない。言われてみれば、子供の身体ならちょっと左右の土を掘れば隙間を抜けられるかもしれない。そこから抜け出したとなれば、事態はかなり悪い。
手に取りかけた上着を戻して、鎧に手をかけた。
「準備してから門に行きます。ケムィットさんは村の中を」
これはもう、村中総がかりでの捜索になるだろう。慣れた手つきで鎧の装着を進める。
「お願いします。村の外周は自警団が探してますので」
ケムィットさんが急いで出て行った。すでに村を囲む柵の外側を自警団が探しているなら、川沿いに森を捜索するべきか。
だが、森を探索するといっても、すでに陽は落ちて森の中は真っ暗だ。
「ステータスオープン」
名前 : アジフ
種族 : ヒューマン
年齢 : 25
Lv : 36(+6)
HP : 231/258(+37)
MP : 145/164(+27)
STR : 69(+8)
VIT : 69(+9)
INT : 47(+7)
MND: 54(+8)
AGI : 45(+5)
DEX : 40(+7)
LUK : 19(+2)
スキル
エラルト語Lv4 リバースエイジLv4 農業Lv5(+2)木工Lv7(+3)
解体Lv8(+3)採取Lv4(+2) 盾術Lv8 革細工Lv5(+2)
魔力操作Lv17(+3)生活魔法(光/水/土)剣術Lv17(+3)暗視Lv2(+1)
並列思考Lv4(+1) 祈祷 光魔法Lv9(+5) アメラタ語Lv1
称号
大地を歩む者 農民 能力神の祝福 冒険者 創造神の祝福
ステータスを開いて、ちらりとスキルを確認する。ナナゼ村で二年過ごした結果、レベルは順調に上がっていた。
スキルの成長も著しい。もともと村の生活に適応したスキルが多かったこともあるが、光魔法は一人前の司祭とされるLv10も見えてきた。そして、半年ほど前にとうとう得たアメラタ語Lv1。会得するのに結局一年半もかかってしまった。
ここで見たかったのは、最近上がったばかりの暗視スキルだ。自警団の夜の見張りに参加していたら上がった。この場で一番頼れるスキルといってもいい。
装備を整えて村の門へ向かうと、そこにはかがり火が焚かれて2人の自警団員が槍を持って待機していた。
「どうだ、見つかったか?」
「おっ! アジフか。助かるぜ。ユテレもケジデも見つかってないが……川岸に足跡が見つかってな。二人が川沿いに森の中へ入ったところだ」
川岸に足跡か……よくない知らせだ。ユテレとケジデはケムィットさんの子供の名前だ。普段なら夜の森にそうそう入ったりしないが、この状況なら仕方がない。
「わかった。俺も後を追う」
「ああ、頼んだ」
門から出て村を囲う柵の外周を、北から流れ込む小川まで回り込む。川に沿って北上すると、ほどなくして森の端までたどり着いた。
空には青い三日月が浮かぶが、夜の森の中まで届く光はわずかで不気味に暗い。Lv2となった暗視のスキルの視界は、満月の夜よりも少し暗く感じる程度だ。だが、実際の満月の夜のような濃い影が無いので、視界としてはかなりいい。少なくとも夜の森を歩くのに不便は感じなかった。
しばらく進むと、川岸に立ち止まる二つの松明が前方に見えた。
<ピィーッ>
口笛を一度鳴らして、近づいていく。自警団員の二人が音に気付いて松明をこちらに掲げる。見えているかわからないが、大きく手を振って合図する。
「アジフだ。手助けにきたぞ」
魔物に間違われたくはないが、大声も出したくはない。ある程度近寄ってから一声かけると、自警団員の傍らに小さな影があった。
「おっ! アジフさんか。助かるぜ。いい知らせと悪い知らせがある」
いい知らせの方はすでにわかっている。自警団員の傍にいる男の子は畑で何度も会った事がある。ケムィットさんの子供でケジデだ。確か10才だったはず。
「ケジデ、無事だったんだな。よかった。それで……ユテレはどうしたんだ?」
村を抜け出して森に入った事は、後でたっぷり怒られると思う。だが、それは自分の役割ではないし、今はそれどころではない。下を向いて顔色を悪くするケジデにたずねた。
「それが悪い知らせだ。ユテレはゴブリンにさらわれたそうだ」
ケジデに代わって自警団員が答える。ケジデが無事だったのは幸いだが、想定された中でもかなり悪い事態だ。しかし、村の周辺のゴブリン集落は、日頃からマメに殲滅しているので心当たりがない。見落としでもあったのだろうか。
「そうか、一刻を争うな。ケジデ、ゴブリンがどっちにいったかわかるか?」
「それがなぁ「あっちだよ! 俺、あいつらの巣まで追いかけたんだ! 場所ならわかるから一緒に連れてってくれ!」」
ケジデが指が指し示す方向を見て納得した。北の森の方角だったからだ。普段から北の森には入っていないので、見落しがあっても不思議ではない。
「さっきからこう言ってるんだ。アジフさん、どうする?」
場所がわかるのは助かるが、ゴブリンの後をつけるなんてずいぶん危険なまねをしたものだ。妹がさらわれて居ても立っても居られなかった気持ちはわかるが、一人で追いかけるなんて危険すぎる。
「わかった。ケジデ、ゴブリンの集落まで案内してくれ。どちらか一人は一緒についてきてケジデを守ってやってくれ。もう一人は村に戻って連絡してくれ。念のためにメゼリルにもだ」
褒められたものではないが、ユテレの身を思えば頼らざるをえない状況だ。夜の森を子供を連れて歩くのは危険だが、この際仕方がない。メゼリルにも連絡を頼んだのは、エルフの森に近い北の森に入ることになるからだ。
ケジデの案内で自警団員の一人……ヒリイットと夜の森を進む。いつ魔物があらわれてもいいように警戒しながら進むが、あまり気配は感じられない。これは恐らく、ゴブリンの縄張りだからなのだろう。魔物同士は、割とお互いの縄張りを侵さない。
とはいっても。北の森は奥に入るほど強力な魔物が現れる傾向がある。ゴブリン程度の縄張りでは、何があらわれてもおかしくはない。決して油断できる状況ではないだろう。
「早く! 急いで!」
松明を持ったケジデが急かすが、周囲を警戒しながらではそうそうペースは上がらない。とはいえ、ユテレの身を案じる気持ちはわかる。
「ケジデ、夜の森は普段よりさらに危険だ。あわてるな」
なだめながらも先を急ぐ。ケジデが案内してくれた先には、ゴブリンが使っていると思われる道があった。ゴブリン共は二足歩行で道具も使うので、道は枝や木が払われて歩きやすい。当然その分あちらからも発見されやすいが、ここは時間優先で道を通って先を急ぐ。
森の中の暗い月明かりを頼りに進んで行く。暗視のない二人にはつらいと思うが、ゴブリンが使う道の足元はいいので、がんばってついてきてもらいたい。
「このまま道を行けば、そろそろなはずだよ」
ケジデの言葉で道を外れ、松明を消して森の中へと入る。松明を持って近付けば見つけてくださいと言っているようなものだ。だが、さすがに森の中では松明無しで歩けとは言えない。その場で一旦足を止めて、二人に声をかけた。
「様子を見てくる。すぐ戻ってくるからここで待っててくれ」
森の中から木の陰を伝って道沿いに森の奥へと進むと、しばらく行ってから木の間にちらりと粗末な柵らしき物が見えた。木々の間に隠れてそろそろと距離を詰める。
見張りにゴブリンが二匹焚火を囲んでいる。その奥に見えたのは、森の中に不自然に盛り上がった小山と、そこにぽっかりと空いた穴の入り口だった。




