ラキアスの助力
「最高級の素材を、三流のドワーフが製造をしたらしい。しかも、短時間でと来た。こんなにも雑な仕事、ドワーフ界隈でも見たことがないよ」
おおかた、名を売ろうとしたドワーフが調子に乗って、安請け合いしたんだろう。だが、あまりに手に負えなくなったのではないか、とノアは語る。
「で、形だけ小綺麗にしましたとさ、ってトコロだな。上等な素材が泣いているよ」
素材の力だけで、怪人と渡り合える力があった。
なのに、ドワーフの技術が追いついていなかったらしい。
「製造元は、鍛冶ギルド:スマート・イレブンですよ? 当時最高の技術を持っていました」
「三流中の三流ギルドじゃないか」
即座に、ノアから反論が返ってきた。
「ドワーフ族ならみんな知っているよ。過去の栄光にしがみついている、老害鍛冶ギルドだって。よくあんな素人集団に、貴重で大事な素材を任せたよね?」
「そんなにひどいのですか?」
「ミスリルでノコギリを作った様なもんさ。まったくもって非効率。宝の持ち腐れにも程がある。豚に真珠とは、彼らのために作られた言葉だよ」
「わかりやすいたとえですね」
あまり、評判の良いギルドではないらしい。
「あいつも俺と同じでな、同名のギルドを追い出されたんだ」
「逆恨みも上乗せされているようですね」
「だが、ノアの言葉は真実だと思っていい」と、ダニーは言う。
「用途をまるで理解していない。こんなの、昔のやり方をそのままマネただけだ。体裁を取り繕っただけで、この金属が持つポテンシャルを、自分の理解できるレベルまで引き下げてある。これじゃ、そこの包丁のほうがよっぽどよく切れるよ」
ミレーヌの厨房にある包丁を、ノアは指差した。
実に、辛辣な言葉だ。
「信頼できるギルドなんて、他にいませんでした」
「だろうね。一流のドワーフをかき集めても、この素材は扱いきれないさ。なんせ、古代の部品を使っているから」
話を聞いているだけでも、貴重なアイテムだと分かった。
「でも、吾輩に任せてくれたら、この素材が持つポテンシャルをフルに活用できる。保証するよ」
「お願いします」
ノアは、金槌や金属バサミなどをカバンから取り出す。
「荷物は没収されたわけじゃないんですね」
「ギルドに道具を預けておいて、よかったよ」
しかし、とノアはため息をつく。
「道具はある。だが、ラボはここから遠くてね。受け渡しに時間がかかる」
「だったら、ウチの地下室を使えば?」
ミレーヌは、何の迷いもなく告げた。
「いいのか? 吾輩は得体のしれぬドワーフだぞ?」
「盗まれるのが、心配なのよね? だったら、あたしが見張りをすれば安心でしょ。ずっと缶詰にしておいてあげるわ。ちょっと手狭だけど」
ノアは「助かる」と告げて、ダニーに地下へ案内してもらう。
「確かに、研究所としては小さいね。だが、贅沢も言っていられないか。怪しまれているよりずっといい。その頼み受けよう」
「そいつはいい。足りないものがあれば、俺がサポートする」
「助かるよ」
そこで、リュートも提案をする。
『余っているパーツなどは、ノアに任せてもいいか?』
「いいよ」
コデロだけに問いかけたつもりだったのに、なぜかノアが応じた。
「ところでさ」
ノアは、コデロの腹部に目をやる。
「吾輩がベルトに霊が宿っていると、気づかないとでも?」
ニッ、とノアが不敵に微笑む。
『知っていたのか』
「見くびるなよ、精霊。吾輩も一応、冒険者だ。鍛冶職メインだが、戦闘職はバトルメイジなんだよ?」
そう言って、ノアは金属製ハンマーを、ふわりと中に浮かべてみせた。
「当時の戦闘には、参加していたんだからね」
『恐れ入る。オレは織部 琉斗』
名乗るのは、久々な気がする。
「オリベ・リュートか。でも、キミは仲間からは『ベルト様』って言われているね?」
『不本意だが、コデロがそう呼んでいるから仕方ない』
「ではベルト殿、キミの強さの秘密も知りたい。キミを知れば、この剣の扱いも把握できるだろう」
コデロが、剣をノアに渡そうとすると、扉がまた開く。
「お話は聞かせていただきました!」
また来客だった。今度はラキアスとアテムである。
「おお、ラキアスか。何の用だ?」
「とぼけてもムダです。おおかた、コデロさんと手を組んで、コウガという仮面勇者の秘密を探ろうというのでしょう?」
腰に手を当てながら、ラキアスは断言した。
「そのとおりだ。仮面の勇者をサポートするのだよ」
「では、わたくしも支援致します」
「なんだって?」
「夫は特定の冒険者をひいきできない、難しい立場の身。ですが、わたくしには何一つしがらみはございません。コウガ殿をせめて陰ながらご支援いたしたく」
うれしい提案だが、受けていいのだろうか。
「嫌とおっしゃっても、すでに隣の空き家を購入いたしました。どうぞ、研究所としてご利用なさいまし」
隣の家に向かうと、使用人たちが一心不乱に部屋を片付けていた。あっという間に、掃除まで完了する。
「いかがです、ノア?」
「申し分ないよ。さすが行動力の鬼と呼ばれるラキアスだね。ありがたく使わせてもらうよ」
ノアは、研究所となる隣家の間取りを見て、ため息をついた。
「これだけ広ければ、どれだけの研究ができるか」
「必要なものがあれば、なんでもおっしゃいな。エルフの秘宝さえ、ご用意いたしますわ」
ラキアスが両手を広げる。
「ノームのダニー様、ドワーフのノア、そしてエルフのこのわたくし。まるでかつての魔導御三家ですわ」
かつてコウガを開発した一団だという。
「では、わたくしたちは装備の開発を行うとしましょう。ダニー様、地下施設の美品は運ばせますが、よろしくて」
「助かるね。じゃあ頼むよ」
「お安い御用ですわ」
ラキアスが使用人に指示を出し、ダニーの保存していた資料などを隣家に運ぶ。
「では、吉報をお待ち下さいな、コデロ様」
ごきげんよう、とラキアスがカーテシーでコデロを見送る。




