月の石
「おい、コウガ。相手は領主だぜ」
ダニーが、リュートの発言を止めようとした。
しかし、ドレイクは「続けてくれ」と促す。
「声が変わったな。口調も」
『気にせず聞いてくれ。オレは……コウガの意志だとでも思って欲しい』
ドレイクは黙り、リュートの意見に耳を傾けている。
コウガの力は、あくまでも武器を持たない人々のために使われるべき。貴族の個人的な私兵になるつもりはなかった。
『オレは力なき人々のために、剣を振るう戦士だ。それにあなたを含められるか、今はまだ』
「いや、あんたの言うとおりだ。あんたを見くびっていたよ」
政治利用のために、コウガを呼んだわけではないと、ドレイクは語る。
『分かってもらえたらありがたい。とはいえ、ロデントスが、民を貪る悪であるなら話は別だ』
「ならば、情報がある。参考になるか分からないが。あの男は、美女をさらってどこかへ売り飛ばしているってのは知っているな? 受け渡しの日が、今日らしいんだ」
近く、奴隷の密売が行われるらしい。
そこにロデントス伯爵が顔を出すというのだ。
「人権派の国王によって、今のイスリーブで人身売買は禁止されている。もし突き止めることができたなら。そればかりか、人さらいの罪まで糾弾できる」
『分かった。引き受けよう』
コデロは依頼を受諾した。
「場所は分かっているが、問題はどうやって忍び込むか」
「潜入捜査をします。敵をかく乱するので、後から乗り込んでください」
冒険者とバレないように、コデロは腕輪を外す。
「おやっさん、装備を預かっていてください」
ダニーにスマート・タグを預かってもらう。
「無茶だぜ! 武器も携帯できないのに!」
アテムが、気遣ってくれる。
確かに、スマート・タグも手放すことになる。
「まだ、私は面が割れていません。変身時もコウガですし、バレないかと」
「腹の紋章は、隠せないぞ」
「サラシでなんとかしますよ。では、行ってきます」
さっそく作戦を開始しようとした。
「お待ちになって」
が、ラキアスに止められる。
「奥方様、まさか、あなたも囮になろうとでも?」
強めの口調で、コデロは拒絶した。
もし、領主の奥方に万が一のことがあったら。
コデロだってギリギリだ。
その上、領主夫人までは守り切れない。
「いいえ、こちらの品を」
メイドに持たせてラキアスが用意したのは、灰色の石である。
宝玉かと思ったが、どう見てもキレイに磨かれた普通の石だ。
「これは、【月の石】と呼ばれる宝玉です。かつて、ドランスフォード王国にも、同様の宝玉があったと聞きますが」
エルフ族に代々伝わる、伝説の秘宝なのだとか。
しかし、杖に取り付けても武器にはめ込んでも、何の反応も示さない。
どうやら、強い魔力を内包している物でなければ、この石の力を引き出せないのでは、という結論に達した。
「この石が、何の効果があるのか分かりません。ですが、ロデントス伯爵は、どうもこの石に興味があるようでして」
「馬車が襲われただろ? あれも、ラキアス様を狙ったようなんだ!」
先日の襲撃も、この宝玉が関連しているのでは、とラキアスは考えたらしい。
「伯爵は、宝玉を求めているようなのです。しかし、この石にどのようなパワーがあるのか。そう考えている間に、あなたが現れた。もしかすると、この石はコウガのパワーアップアイテムなのでは?」
問いかけられても、コデロに心当たりはなかった。
「では、こちらで、預からせていただけませんか?」
ラキアスは、逡巡している様子だ。
「よろしいのですか? もしあなたが持っていると気づかれたら、あなたに危害が及ぶのではないかと」
「構いません。好都合です」
本当に伯爵の狙いが宝玉なら、ラキアスが持っているのは危険である。
コデロは手を差し伸べた。
「ラキアス、渡して差し上げなさい。我々には過ぎた代物だ。この石がコウガの手に渡るのは、ドランスフォードのお導きなのだろう」
「あなたがそう仰るなら」
決心したのか、ラキアスは【月の石】と呼ばれる宝玉を、コデロの手に。
「ありがとうございます。分析はこちらで致しますので」
コデロは、ベルトに宝玉を収納する。
リュートはいきなり、無理難題を押しつけられた形に。
『どういった性能なんだ?』
事細かに調べようにも、ただの石という鑑定結果しか出ない。
だが、エルフ族にまつわる伝承があるなら、何か意味があるはず。
『ドランスフォード家に、伝承はないのか?』
「確か、月と太陽が合わさるとき、何かが起きるとだけ。私は、コウガ伝承については何も知らないままでしたので」
周りに聞かれないように、念じるだけで話し合う。
コーデリアが知らない。
ではダニーなら、と思ったが。
肝心のダニーも、首を振るだけ。
自身で、情報を見つけるしかないようだ。




