オオカミ怪人
『待て!』
屋根を伝って、影を追いかける。
相手の逃げ足は、大したスピードはない。コウガでも余裕で追いつく速度だ。間違いない。人払いをしたいだけか。
怪人の足が、採掘場で止まる。
『むう、お前は!?』
その姿は、騎士だった。フーゴの森にあったアジトで見た人物と同一である。騎士団の一人というのは分かる。
『何者だ!』
「誰でも構わん。我はもはや、人ですらない」
騎士が、兜を脱ぐ。その正体は、若い青年であった。
「デヴィランの理想を理解できぬものに死を与える者とだけ、分かっておればよい」
月明かりを仰ぎながら、騎士はつぶやく。
『お前もデヴィランの怪人か!』
「怪人? そうか、貴様の世界ではそう呼ぶのだな」
まるで、地球の事情を知っているかのような口ぶりだが?
「我らは人を超越した、【魔物】! 古の時代、世界を支配していた存在!」
こちらの世界では、怪人は魔物と認識されているらしい。
「そしてコウガ、我は貴様を超え、更に強くなる!」
硬い兜を、騎士は両手で握り潰した。
筋肉が盛り上がり、鎧がはじけ飛ぶ。
オオカミの怪人の本性を現す。皮膚は灰色で、毛の色は蒼い。針のような体毛が、全身を覆っている。手足には鎧が残っていて、ロボットのような形をしていた。
『お前は!』
リュートは、その姿に見覚えがある。自宅を襲いに来た怪人だ。
「我が名は【ライカン】! コウガ、貴様に後れは取らん!」
オオカミ怪人が襲いかかってくる。
スピンキックを腹に喰らわせ、怪人の猛攻を押さえ込む。
「むお!」
地面に転がり、オオカミ怪人は体勢を立て直す。だが、たいしたダメージはないようだ。
「さすがコウガなり。見事な反応速度よ!」
すぐさま、次なる攻撃に移る。拳と蹴りの応酬となった。
顔へのパンチをスウェーだけでかわし、反撃の機会を窺う。
だが、相手の攻撃が早すぎて手が出ない。無理な体勢にさせられ、カウンターしようにも威力が出ないのだ。強引に攻撃しようとしても、蹴りが飛んできて食い止められた。
強い。
まるでこちらの動きを読み取ろうとしているかのようだ。
「素晴らしい。手に負えんと思っていたコウガにさえ、我は渡り合っている」
歓喜の混じった声が、オオカミ怪人から漏れた。
戦闘経験の豊富なコウガでさえ、対応するのがやっとである。立て続けの戦闘に加え、必殺技を出した後で消耗している状態だ。決してコンディションは万全とは言えない。
それを差し引いても、この怪人は強かった。
「その強さは、デヴィランが与えたのか!」
「デヴィランの目的は、人間の肉体を改造し、古の時代に滅びた魔物を復活させることなり。再び魔が世界を支配するのだ! くらえ!」
肩部分の体毛をむしり、怪人が投げつけてくる。
両手に片手剣を呼びだし、体毛ミサイルを弾き飛ばした。
だが、体毛はなおもコウガの周囲を舞う。再度襲ってきた。
対応が遅れたコウガは、体さばきで体毛攻撃を避けていく。だが、わずかに腕をかすめた。
コレまでの怪人とは、強さがまるで違う。
「ギイイ!」
コウガが怯んだところへ、怪人が飛びかかる。長い爪を振り下ろした。
ハイキックで、爪攻撃を防ぐ。
火花が散り、怪人が飛び退いた。
『地球のことを知っているようだな。話してもらおうか?』
「貴様と雑談する舌は持たん!」
再度、オオカミ怪人は飛びかかろうと足を曲げた。
「ぬぐっ!」
オオカミ怪人が膝を突く。全身に、電流を帯び始めた。
「やはり、ニワカ仕込みの改造では歯が立たぬか! また会おう!」
さっきとはまるで越人のような速度で、オオカミ怪人は闇に消えていく。
『手強い相手だ』
「先程の魔物、知り合いですか? そのようなリアクションに見えましたが」
なぜリュートの家に現れた怪人が、生きていたのか。
形状は若干違っていた。が、あれは、リュートが倒した怪人に間違いない。
だが、あまりにも敵が素早く、リュートは怪人の正体を聞き出すことすらできなかった。
答えてくれるはずもないが。
ざわざわと、周辺に人だかりができてきた。
路地に隠れ、コウガは変身を解く。
ナメクジ怪人は、頭だけになっていた。それも段々と、人間の姿に戻っていく。
「失礼! 道を空けてください!」
野次馬をかき分け、商業ギルドの責任者が。怪人の頭部をたしかめようと、しゃがみ込む。
「おお、この人は!」
商業ギルマスが、眼鏡を直す。
「どうかしたのですか?」
「この人、最初にお店を買った人ですよ!」
表向きは敏腕社長、裏では女性ドレイを買ってはひどいことをする、ヘンタイ富豪だったそうだ。
しかし、店を買って早々に行方不明に。
周辺住民からは、「天罰が下ったのだ」とウワサになっていたという。
「うええ、もし私がつかまっていたら、どうなっていたのかしら?」
身震いしながら、ミレーヌが身を縮ませる。
「もしかすると、最初から住み着くつもりで買ったのかもな。得物をおびき寄せるために」
だが、生きていると怪しまれる。
そこで、死んだことにして身を隠したと。
「不気味だな。こんなヤツの申し出さえ聞き入れるのだな、デヴィランは」
前に倒したペンギン怪人も、子どもをかどわかす目的があった。
「欲にまみれた人間を、デヴィランは怪人にしてしまうのだろう」
富豪や実力者に、デヴィランの手が伸びているとなると、油断ならない。
死体は役所に任せ、全員で商業ギルドへ。長年空き家だった店舗の事情を聞く。
「ありがとうございます! おかげで助かりました!」
十分すぎるほどの報酬を受け取った。
その金額に、ミレーヌは困惑している。
「屋敷の責任者は?」
「商業エリア領主の、ヘインズリー侯爵です」
ギルド長が言うと、「ああ」とアテムが手を叩く。
「ラキアス様の領地だったのか」
「その、ラキアスってのは誰だ?」
アテムに、ダニーが問いかける。
「先日お会いした、お嬢さんだよ。馬を埋めて帰ろうと言ってきただろ?」
「あのお嬢ちゃんかっ!」
ようやく、ダニーも思い出せたようだ。
「今度会わせてやろうか?」
「そんな簡単に、会えるのですか?」
「だってアタシは、ラキアス様の護衛も務めてるもん」
複数の冒険者によって、交代で護衛を担当しているらしい。
「ちょうど、あたしは明日の護衛担当なんだ。ついてきてみるかい?」
「お願いします」
「よしきた。話を通しておいてやるよ。領主のお嬢様を助けたんだ。悪いようにはしないさ」
陽気に笑いながら、アテムはウインクした。
「ヘインズリー様を疑っているわけではないのです! ただ、こうも連続して失踪事件とあっては、さすがに見過ごせず」
ギルド長は、そう強調する。
「旗色は悪い、ということですね」
「ホントに疑ってはいないのです。領主様ですからね。死力を尽くされているのも分かっているのですが、成果が出ず」
事態は深刻なようだ。




