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終末より、お届けものです。  作者: 五月七日 外
第一便 蝶の落とし物
9/10

依頼人

お久しぶりです。

ちょっと時間できたので更新です。

  翌日、シュノムの家で、フェスティアが一人昼食を摂っていたときだった。

 来客は突然やってきた。

 頬張っていたパンを牛乳で流し込み、フェスティアは慌てて玄関へと向かう。


『俺とライラで買い出しに行ってくるから、フェスティアは休憩がてら留守番を頼むな』

『来ないとは思いマスガ、もしも仕事の依頼人が来たときは拘束してでも留めておいてくださいネ?』

『おいライラ、来ないと思うは余計だぞ』

『ツッコむところはそこじゃないでしょ……』


 ────と、シュノムたちが出かける前にしたやり取りを思い出しながら玄関を開けたところで、フェスティアは自分の軽はずみな行動を後悔した。

 〝────絶対、仕事の依頼人じゃないよね。この人たち……〟

 玄関前には軍服に身を包んだ黒髪の青年。その隣には、軍服を着るにはあまりに幼い橙色の髪をした女の子が立っていた。

 七大国のうち軍を持つことを許さているのは、中立国であるここキングルクセンドのみだ。実際のところ軍には七大国の各国から選出された人員が所属しているため、キングルクセンドが持つというよりはキングルクセンドに軍が居を構えているだけなのだが、ずっとクオルに住んでいたフェスティアはその辺りに詳しくない。おかげで、フェスティアは軍の意味合いも若干ズレて認識しており、どちらかというと警察に近い意味合いで認識している。軍の本当の仕事を知らないのだから無理もないのだが……。

 そんなこともあってか、何か盛大に勘違いしたフェスティアの脳内ではシュノムが軍の厄介になったのではないか? という答えをはじき出していた。

 フェスティアは反射的に扉を閉めようとするが、それよりも早く黒髪の青年が扉に手をかけ阻む。


「シュノム=ノースはいるか?」


 黒髪の青年は圧倒的な威圧感を隠そうともせず、フェスティアを赤い瞳で睨みつける。たったそれだけのことで、フェスティアの体は強い〈剣気〉に当てられたみたく、まったく言うことを聞かなくなってしまった。


「もうっ、グランってばー! 女の子と話すときは笑顔だよっ笑顔! そんなんだからフィアットにも逃げられちゃうんだよ」

「わかったよ、オレンジ……少しは努力する」


 言われて、黒髪の青年────グランは小さく嘆息する。が、しかし。橙色の髪をした女の子────オレンジに言われる前と、グランから発せられる威圧感になんら違いはなかった。


「ぜんぜんわかってない⁉」

「しょうがないだろ。ボクはこういうの苦手なんだ」

「もうっ、グランはアタシがいないと全然ダメなんだから……しょうがない、ここは彼女のアタシに任せて!」

「おい待て。ここぞとばかりにお前がボクの彼女なんていう嘘情報を発信するな」

「またまたぁー、グランったら本当に照屋さんなんだからー。あの時アタシに約束してくれたじゃん」

「だからアレはお前の勘違いで……って、おい。オレンジのせいで、さっきから彼女固まってるじゃないか」

「えー、そこはアタシ関係ないもん。グランがこわがらせるからだよー。ね、えっとお……」


 と、しばらくフェスティアそっちのけで話をしていた二人だったが、ようやくフェスティアの存在を思い出したらしい。


「あ、フェスティアです……」

「ほら! フェスティアちゃんもそう言っているし」

「いや、名前しか言ってないだろ」

「え、そうだっけ?」


 この二人ちょっと苦手かも。そんなことをフェスティアが理解し始めた頃、ようやくシュノムたちが帰ってきた。

 人一人分くらいは入りそうな大きな箱と共に……。




 ☆★☆★☆★☆




「そいつは災難だったなフェスティア」

「ちょっと、本人の前でそんなこと言えるわけないでしょ……って、何言わせるのよ!!」


 シュノムたちが帰ってきてからしばらくして、なぜかグランたちも一緒にシュノムの家でお昼を食べることになっていた。

 フェスティアから先のことを簡単に聞いたシュノムは他人事みたいにケラケラ笑っている。フェスティアからしてみれば当人の前で気まずかったなど言えるわけもないのだが、シュノムはそんなのお構いなしだ。

 フェスティアが弁解する間もなく会話は展開されていく。


「だとよグラン。俺の弟子もそう言ってることだし、今日のところは飯を食ったらとっとと帰ってくれ」

「弟子? シュノム、あのお前が弟子をとったのか?」


 言われて、グランが信じられないものを見るような目でフェスティアの方に一瞬だけ視線を寄こす。不思議と、グランが常に発していた威圧感もこのときだけは和らいでいた。


「断る方が大変だと思っただけだ。……別にそれ以上の意味はないからな」

「そうか、まあそのときはこの辺り一帯を吹き飛ばすだけだから気にするな」

「おい、物騒なこと言うなよ」

「爆殺しないだけありがたく思え」

「はぁ……お前は相変わらずだな」

「お前もな」


  この二人は、仲が良いのか悪いのか。ギスギスした空気のなか食事と会話は進んでいく。

  一方で、ライラとオレンジは仲が良いのだろう。オレンジはライラの膝の上にのり、グランとシュノムの二人をニコニコと楽しそうに眺めながらパンを頬張っていた。

  一人、取り残されてしまったフェスティアは、すっかり味のしなくなったパンをただ口に運んでは飲み込んでいく。

 

「……ていうか。さっさと飯食って帰れよ」

「フン、お前に言われなくとも用さえ済めばそのつもりだ」

「なんだ? 今日はいつもの勧誘できたわけじゃないのか」

「なんだシュノム。やっぱり軍に入りたくなったのか? ボクはいつでもお前を歓迎するぞ」

「いや、軍なんか入らねえよ」

「だろうな。わかっていたさ」


 よく分からない二人の会話にフェスティアが首を傾げていると、ライラの膝の上に乗っていたオレンジがちょんちょんとフェスティアの肩を叩いてきた。

 どうやら、耳を貸せということらしい。


「あの二人仲良しでしょ? なのに、アレでお互いを嫌いだって言うんだよ。おかしいよね」

「仲良し?……ううん。それもだけど、あの二人ってどういう関係なの?」

「むかし一緒に〈大罪の蛾(ファラエナ)〉と戦ったんだって。戦友ってやつ?」

「……そうなんだ」

「まっ、今はグランが一方的にスカウトしているから片思いの関係ってやつだね!」


 と、オレンジがそんなことを言ったからか。

 二人してグランに睨まれてしまった。威圧感も先の二倍増しである。


「で、グラン。その用ってのは?」

「ああ。シュノム、お前に人探しを頼みたい」

「人探しだ? 悪いが、俺は運び屋で何でも屋じゃな……」


 何か言いかけたシュノムだったが、それを遮るようにテーブルの上に投げつけられた写真をみて黙ってしまう。

 写真に写っていたのは藍色の髪をした女の子だった。見た目オレンジとそう変わらない年齢で、似合わない軍服に身を包み、自信なさげに目線をカメラから逸らしていた。フェスティアは彼女のことを知らないが、大人しそうな印象を受けた。


「言い方を変えよう。こいつの名前はフィアット。ボクたち軍の保有物にして、ついさっき無くしてしまった落とし物だ。こいつをボクの元に届けてくれないか? 落とし物専門なんだろ?」

「落としたって……お前まさか」


 グランの妙な言い方に疑問を感じたのだろう。フェスティアでさえ違和感を覚えたのだ。シュノムがそれに気づかないはずがない。

 それを見てグランが頷く。


「ああそうだ。フィアットは地上(した)にいる」


 期限は十日だ。ボクたち軍も地上に降りるからそこに届けてくれ。それだけ言い残して、パンを頬張っていたオレンジを抱えたグランはシュノムの家から出て行った。

 玄関前に置かれた大きな箱に一瞥くれて……。




 ☆★☆★☆★☆




 人生で最も楽しくない食事をようやく終え。

 やっと一息ついたフェスティアだったが。

 ことはそう上手くいってくれないらしい。


「よし、そろそろ出てきていいぞ」


 何故か、誰もいないはずの玄関に声をかけるシュノム。

 そして、シュノムの声に反応するかのように大きな箱がカタカタと揺れた。

 中に何かが入っているようで、ライラが蓋を開けようと近づいていく。


「え?」


 箱から出てきた人物に、フェスティアの口から驚きの言葉が漏れる。人間本当に驚いた時は叫び声なんてあげないようだ。

 さっき写真で見たのだ。その特徴的な髪の色に似合わない軍服……。見間違えるはずがない。


「紹介しまス。さっき拾ってきました。フィアットちゃんデス」


 そんな。「帰り道で猫拾ってきました」的な紹介をされたのは、グランから探すよう依頼されたフィアットだった。


「よ、よろしくお願いします……」


 フィアットは申し訳なさそうに、ペコリとフェスティアにお辞儀した。




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