旅路の終わり
「────こんな世界、間違っている」
青年の亡骸を前に少女は呟いた。
もう、温もりは感じない。
それでも、少女は青年をそっと抱きしめる。
────少女にとって、彼は剣の師匠だった。
────少女にとって、彼は錬魂術の師匠だった。
────少女にとって、彼は最愛の人だった。
少女にすべてを与えてくれた青年は、もうこの世にいない。
青年に触れれば触れるほど……何かを確かめようとすればするほど、残酷な現実は少女に真実を教えてくる。
少女がもう一度立ち上がるには時間が必要だった。
しかし、世界は優しくない。
少女の頭上には、再び災厄が浮かび上がっていた。
それは、大きな蝶の羽を広げ蝶毒という名の光り輝く鱗粉を世界にまき散らしている。
空に浮かぶ憎き敵を前に少女は決意した。
「少しだけ待っててね……」
そっと、青年の亡骸を横にしてから少女は立ち上がる。
それに呼応するように、地に落ちていた剣が浮かび上がった。
その数────およそ十。
剣の一振り一振りすべてが、この世に二つとない魔剣や聖剣と呼ばれる代物だ。史上最強の剣たちは少女の周りに結界みたく集まっていく。
「Xブレード……展開」
少女の一声で剣がその場に停止する。それはまるで、見えない手で剣を掴んでいるかのような静かさだった。
剣先はすべて敵に向かい、錬魂術のための錬成陣を描く。
さらに、少女の背中からも敵と同じ蝶の羽が生えていた。
「たぶん、私はアンタたちに勝てない……だから────」
自嘲するように少女は嗤う。
「────こんな結末変えてやる」
瞬間、世界は虹色の光に包まれた。
こうして、彼女の旅路は最悪の形で結末を迎えた。