⑧そしてまた朝がきた
グツグツとパスタを茹で、具材を切っていると、後ろからひょっこりとドブネズミちゃんが顔を覗かせた。
「シオリちゃん、料理できるんだね」
「そりゃ、少しは…」
「私のお母さんは全然しないよ」
「じゃあ、誰が作るの?」
「おばあちゃん」
「なんだ、お婆ちゃんがいるの」
「うん。でも、パスタは作ってくれない」
「そう。じゃあ、心して食べなさいね」
「うん」
お母さんがご飯作ってくれない、なんて言うからてっきり育児放棄かと思ったけど、お婆ちゃんがいるとしたら…、彼女が家出する理由は何だろう。
ふくよかではないけど、痩せこけてもいないし、育ちが悪い感じもしない。
「はい、完成。盛り付けたから運んで」
「シオリちゃんは食べないの?」
「私は外で食べてきたから」
「えー、つまんない」
「一緒にコーヒーでも飲んでおくわ」
「えー…」
ブーブー言いながらも、彼女はフォークにパスタを絡める。
若干ぎこちないのが、年相応で可愛らしかった。
「む!美味しい!」
「ふっ、それは良かった」
「私、パスタって、コンビニのしか食べたことなかったから…」
「そう…、まあ、中学生なんてそんなものでしょ。そのうち、ファミレスとか高級レストランとかで食べる機会がくるはずよ」
「どうだろう…、想像できないや。きっとずっと今みたいに家を転々としてるかも」
「それが嫌ならちゃんと家に帰ればいいでしょう?」
「嫌。私の家の話はもうしないで」
「…、分かった」
先ほどまでの軽い口調ではなく、心から拒絶するような言い方。
どうせ1晩の付き合いだろうけど、彼女の家の話は突っ込まないようにしよう。
それから、彼女が食べ終わるまでどうでもいい話をした。
彼女の好きなものの話(よく分からないけれど、女性アイドルと春巻きと犬が好きらしい)なんかをした。
そして、分かったことは、彼女は飲むことも食べることもとても遅い。
そして、昼夜逆転してるのでは、と疑うほどに寝るのも遅い。
彼女の食事とどうでも良い話に付き合っていたら、とっくに4時になっていた。
平日だったら、彼女の息の根を止めてでも寝ていただろう。
私の優しさに感謝して欲しい。