⑤ドブネズミみたいに美しくな(文字数)
「お姉さんのおうち、どの辺りなんですか?」
「言っておくけど、家に入る前にどこかでお風呂に入ってもらうから」
「え?私、小さいお風呂でも気にしないですよ?」
「…、あなた、自分が汚いとは思わないの?」
「確かに綺麗ではないですけど…、洗えば落ちると思います」
「そうね」
分かり合える気がしないので、とりあえず口を噤む。
あんなところにいた子だから、きっと、自分の部屋を汚されたくない・汚いものに触りたくない、といった感覚が鈍いのかもしれない。
それにしても…、変な子だ。
体型的にまだ中学生、ひょっとしたら小学生くらいなのに、妙に大人びた言語を使う。
制服のようなものを着ているが、靴は見当たらない。
「ねえ、あなた…」
「あなた、じゃなくって、別の名前がいい」
「じゃあ、名前教えなさいよ」
「私ね、泊めてくれる人から名前貰うの」
「は?」
「だから、名前頂戴」
「何者なのよ、まったく…、じゃあ…」
「うん」
「ドブネズミちゃん」
「…、ひっどーい!!今までで一番ひどい名前!!」
「だって…、格好があんまりなんだもの…」
「でも、ドブネズミちゃんか、悪くないかも!」
「嫌ならリンダでも良いわ」
「リンダ?なんで?」
「なんでもないわ。ドブネズミちゃん」
今、軽くカルチャーショックを感じた。
「はい!ドブネズミです!」
「…、で、靴はいてないけど、痛くないの?」
「うーん…、あまり気にならないかも。でも、このタイルの地面はちょっと角がチクチクする」
「そう…、何センチ?」
「え!?買ってくれるの!?」
「あまり高い靴はだめよ?」
「んっとね、たぶん21センチ」
「…。あなた、何歳なの?」
「たぶん14歳」
「14!?」
私の半分しか生きていないのか。
そんな子にドブネズミなんてつけちゃったの、ちょっと心苦しい。
「本当の歳を言うとね、皆泊めてくれないの」
「そりゃ、犯罪だからね」
「全ての物事が善か悪かなんて、ハッキリ分けられるわけなのにね」
「はい?」
「お腹空かせた女の子を泊めてあげただけじゃん?何が悪いの?」
「…さあ?あ、ここ、銭湯じゃない。入ってきなさい。その間に、靴…、と服、買っておくから」
「ありがとう!優しいお姉さん!」
千円渡すと、彼女は嬉しそうに建物に入っていった。
めんどくさいけど、服と靴、探さなきゃ。
この時間に開いている、服が手に入りそうなところ、探さなきゃ…