③③しそに蛙(カワズ)
「はい、みんな席ついた?いただきます、するよ?」
カオリさんが指揮をとると、やんちゃなコウくんもしっかりと手を合わせる。
私も慌てて手を合わせた。
「いただきます」
「「いただきます」」
なんだか、小学生の頃の給食を思い出す。
自由奔放ではあるけれど、子ねずみちゃんも挨拶を欠かしたことは無かった。
きっと、育ちは良いのだろう。
だからこそ、彼女が放浪していた理由が全く思いつかない。
ご飯の間、コウくんと子ねずみちゃんはおろか、カオリさんまでも、ほとんど喋らずに、むしゃむしゃとご飯を食べていた。
全員が私と比べて華奢な方なのに、私の倍以上食べていた。
痩せの大食いなんだろうか。
でも、どの料理もとても美味しかった。
畑からすでに摘み取られて、火を通されてるはずなのに、生きている味がした。
生き生きと力強い味。
「はぁー、食べた食べた」
カオリさんがお腹を叩きながら、満足そうにしている。
「そうだ、そろそろジュースが冷えてるよ」
「え!?また作ったの?」
「今日の作りたてだよ」
「やったぁ!私、注いでくるね」
カオリさんが席を立って台所に行く。
先程、千代さんが言っていた"とっておき"と言うやつだろうか?
カオリさんがグラスに注いだそれは、鮮やかな赤紫色で、とても爽やかな香りがした。
「なんですか、これ」
「あれ?葉子ちゃん、飲んだことない?」
「ぶどう、じゃないですよね?」
「これはシソだよ。しそジュース」
「シソ!?」
「そうそう。ま、飲んでみて」
おずおずと、その赤紫を口に運ぶ。
酸っぱくて甘く、シソの爽やかな風味が鼻を突き抜けた。
美味しい。
「これ、すっごく美味しい!」
「でしょ?婆ちゃんのしそジュースは世界一なの」
子ねずみちゃんが得意げに言った。
「これは水で割ってるけど、ソーダで割っても美味しいんだよ。この辺じゃ、結構飲む人多いけどね」
「そうなんですか…」
改めて、その赤紫のジュースを眺める。
せいぜい、料理の付け合わせか、梅干しを漬けるためのシソだと思っていたけれど、まさかメインになるなんて…
しそジュースは、まるで初夏をそのまま飲み物にしたような味がした。
食後に持ってこいだ。
「ごちそうさま」をみんなでした後、カオリさんに連れられて、縁側で二杯目のしそジュースをご馳走になる。
どこからか、カエルの鳴き声が聞こえる。
カエルなんて、見るに耐えないけれど、鳴き声だけ聞く分には中々風流だ。
コウくんと子ねずみちゃんはお風呂に入っている。
「姉、アイのこと探し回ってるって」
「なんだ、そうでしたか。じゃあ、早くお家に連れて行かないと」
「絶対アイは行かないと思うけど」
「どうしてですか?その、虐待とかされているわけでは無いんですよね?」
「やだぁ、姉はそんなことしないわよ」
「じゃあ、どうして、こね…、アイちゃんはそんなに家に帰りたがらないんですか?」
「さぁね。そこのところは、教えてくれないの。葉子ちゃんは何か知ってるかと思ったんだけど」
「すみません、全然知らなくて…。家族の話をすると、本当に嫌がるので」
「そっか。案外頑固よね、あの子。姉にそっくり」
「シノさん、心配されてますよね」
「いや、してないと思うな。お姉ちゃんは、自分が世間の常識から外れるのを怖がってるんだよ。アイが家に帰らず、学校にも行ってないっていうことが、きっと、許せないのよ」
「アイちゃんも同じこと言ってました。心配はしていないって」
「うん。まあ、妹の方はしっかりしてるし、アイの放浪癖は昔っからだから」
「はぁ。なんていうか、私には考えられない世界です」
「ははっ、旦那からも言われたよ。おかしいって。あ、そうだ、お酒あるけど、葉子ちゃん、飲む?」
「あ、いえ。運転しなくてはならないので」
「えー?泊まればいいじゃん」
「いや、そこまでお世話になるのは…」
「アイも泊まってく気満々だし、ここ、布団だけはたくさんあるから」
「でも…」
「この辺、夜は街灯少なくて、土地勘がない人がガードレール突っ切っちゃったりする事故が多いから、泊まりなよ」
「ほ、本当にいいんですか?」
「もちろん。ね、お母さん」
「ふふ、うちは大歓迎よ。賑やかな夜になるねぇ」
好意に甘えるのはあまり得意ではないけれど、カオリさんの強引さには勝てる気がしなかった。




