③嫌な浮遊感
駅前を歩いていると、金曜日ということもあってか、人通りが多い。
大規模な会社での飲み会が減った今、スーツ姿の人々よりも、ちょっとお洒落な服を着た男女のほうが多い気がする。
ただの僻みフィルターのせいかもしれないけれど。
そして、ふと、今朝机の上に放置してきた白い手紙を思い出した。
なんか…、帰りたくないな…
こういうとき、飲みに誘うのは専らあいつだった。
でも、あいつはもう、異性とサシでは飲みに行けないのだ。
家庭を持つってそういうことでしょう?
仕事だけやってきた私には、気軽に誘える友達も、慰めてくれる男性もいない。
1人で呑もうかな…
ふらふらと歩き、空いていそうで雰囲気の良い居酒屋を探す。
残念ながら、居酒屋はなかったけど、空いているバーを見つけた。
本当はビールにおつまみが良かったけど…、この際、アルコールならなんでもいいや。
入り口を開けて中に入ると、部屋の中は薄暗く、酔っ払っていたら最悪転ぶかもしれないくらいだった。
テーブル数が少ないけど、通路は狭い。
お店そのものがかなり小さいようだった。
「ホワイトレディを一つ」
迷うことなくカウンターに座り、1杯目を注文する。
10代のときは、映画やカラオケですら1人では行けなかった。
20代前半は、居酒屋や飲食店に1人では行けなかった。
30代を目前にして、私は、よく言えば肝が据わったと思う。
悪く言えば、人目を気にしなくなった、図々しくなった。
「ホワイトレディです」
華奢なグラスに注がれたカクテルがスッと出される。
付け合せに小盛りのナッツも出された。
どうも自分がお店で浮いてるようにしか感じない。
ビールに枝豆、ポテトフライなんかのほうが、自分には合っている気がした。
その後も、オススメなんかを注文した。
名前も味もあまり覚えていない。
酔うことには酔ったけど、陽気にはなれなかった。