②④出すぎた杭は打ち砕かれる
食卓には、棒棒鶏と夏野菜カレーが並んでいる。
6月だというのに、夏野菜は早すぎると思うけど、子ねずみちゃんの言い分によると、「カレーライスにするなら、根菜は嫌」とのこと。
だから、具がトマトにナスにズッキーニだ。
正直、さっぱりしすぎていて、私はカレーと認めたくない。
それに、私はきゅうりの瑞々しい匂いが好きなのに、カレーのせいで台無しだ。
「完全にカレーが良くないと思う」
「どうして?夏をフライングゲットしたようなものだよ?」
「逆に棒棒鶏にカレーってどういうことなの?」
「でも、カレーは9割葉子ちゃんが作ったじゃん」
「そりゃそうだけどさ…」
確かに、文句は言いつつも、作り上げたのは私だ。
正論だけど、腑に落ちない。
「出来上がったものに罪はないんだから、楽しく食べようよ」
「分かったわよ」
腑には落ちなかったものの、美味しそうに食べる子ねずみちゃんを見ていると、なんだかちぐはぐな食事でも良いような気がした。
ようは、何を食べるか、じゃなくて、誰と食べるか、か肝心なのだ。
「私、誰かと3食以上も共にしたのって、高校生ぶりかも」
「え?」
「実家で生活してた時以来だわ、たぶん」
「そうなの?」
「ええ。なかなか、楽しいものなのね」
「そっか。葉子ちゃんが楽しいなら良かった」
「…」
「えっと、私ね、1人だとご飯食べないの。泊めてくれる人と一緒にご飯食べるの」
「紐っていうのよ、それ」
「知ってるよー」
「早く人間になりなさいね」
「ねずみって言われたり、紐って言われたり…、葉子ちゃんといると大忙しだね」
「願ったり叶ったりでしょ?」
「意地悪だ」
「優しいだけじゃ、つまらないでしょ?」
「えー、私、優しくされたいー」
「そういうのは他所にお願いしてください」
「やだ。まだここにいる」
"まだ"、か。
そういえば、この子は色んな家を転々としているんだった。
気付けば、ふらっといなくなることだってあるだろう。
ちょっと寂しい気がしないでもない。
「そういえば、明日から私は会社にいくけど、あなたはどうするの?」
「んー、お留守番?」
「え…、学校は?」
「行きたくない。っていうか、今年入ってから行ってない」
「はぁ!?」
「色々あってね、とても行きづらいの」
「私には考えられないけれど、現代の女子中学生って大変なのね」
「そう。出る杭は打たれるどころか、打ち砕かれるからね」
「まあ、あなたぐらい飛び出てたら、とことん打たれそうよね」
「生きづらい世の中だね」
「中学生が言うの?それ」
「中学生だから、生きづらいの」
「あっそ。ほら、カレー、冷めちゃうよ」
「はーい」
子ねずみちゃんは食べるのがとても遅い。
普通に食べても30分かかるのに、喋りながらだったら、1時間近く食べていることもある。
それでも、残さずにちゃんと食べるから文句は言えないけれど。




