②②恋愛も若さも捨ててきた
「もう!ソウちゃん、そんな大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしい」
まさに、鈴の鳴るような可愛らしい声で、ちょっと怒りながら、彼女が目の前に来た。
怒っても可愛らしいなんて、私には勝ち目がないどころか、同じ土俵に立つのもおこがましい。
「悪い悪い。どうしても紹介したい人がいてさ」
「なぁに?」
「俺の幼馴染の葉子。結婚式にも招待してるんだけど」
「ああ!あなたが。ソウちゃんからいつも話を聞いてました。異性で1番仲の良い友達だって。結婚式、ご都合よかったら、ぜひ来てください」
「も、もちろんです」
絵に描いたような、素敵な奥さん。
私には、恋敵の悪態をつくことすら出来ないのだ…
「ヨーコお姉ちゃん、私、お腹空いた」
「あ、そ、そうよね。もう18時だもんね」
「うん、帰りたい」
「はいはい」
お腹が空いたなんて嘘だ。
カフェから1時間も経っていないし。
それでも、子ねずみちゃんの心遣いが、とてつもなく有難い。
「じゃあな、葉子。次は式のときかな?」
「うん。だろうね。あ、あと…、結婚おめでとう」
「あ、ああ、さんきゅ。なんか照れるな」
2人は目配せして微笑みあってる。
やっぱり、私では彼の隣は務まらなかったのかも。
なんだか少し、吹っ切れた気がする。
数歩先を歩く子ねずみちゃんに追いつき、隣に並ぶ。
本名を知られた手前、ちょっと気まずい。
「なんて呼んだらいい?」
「え?」
「シオリちゃんと、ヨーコちゃん、どっちがいい?」
「選ばせてくれるんだ」
「偽名だったのは、ちょっとショックだったけど、私も本当の名前じゃないから許してあげる」
「それはどうも。葉子でいいよ。葉っぱの葉に、子供の子で、ヨウコっていうの」
「わかった。葉子ちゃんって呼ぶ」
まだ少しだけ不貞腐れた顔で、子ねずみちゃんが言った。
「そういえば、シノってあなたの本名?」
「まさか。1個前の名前だよ。いや、2個前かな。子ねずみとドブネズミの前だから」
「…、ドブネズミはカウントしなくていいんじゃない?」
「ううん。全部大事な名前だから」
「そう。あなたが良いなら良いけれど」
「名前ってさ、親が自分の子がどう育つか分かって付けられれば良いのにね」
「どうして?」
「だってさ、私の親が付けた名前より、今、色んな人が付けてくれる名前のほうがしっくりくるもん」
「そんな無茶なこと言わないでよ。それに、名前って"こうなって欲しい"っていう親の思いなんじゃないの?」
「えぇ…、そんなの押し付けだよ」
「押し付けじゃなくて、願いだってば」
「じゃあさ、葉子ちゃんの名前はどうなの?」
「言うの、恥ずかしいんだけど」
「聞きたい聞きたい」
「はぁ…、私、5月生まれで未熟児だったの」
「え、見えない」
「もしかしたら、2~3日しか持たないかもって言われて、絶望していたところで、病室の窓から青々とした桜の葉が見えたんだって。すごく生き生きしていて、あんな風に力強く生きて欲しいってことで、葉子。恥ずかしいな、もう」
誰かに名前の由来を喋ったのは初めて。
未熟児だったってことも、言った記憶はないかも。
「どうせなら、桜ちゃんなんて可愛い名前の方が良かったなぁ…、なんて。って、なんとか言ってよ」
恥ずかしいあまり、ベラベラ喋ってしまった。
ちらりと、彼女を見ると、目に涙を堪えていた。
「え、えぇ…」
「葉子ちゃん、それってすごく素敵だよ!葉子ちゃんは、やっぱり葉子ちゃんなんだよ。桜ちゃんでも、シオリちゃんでもない」
「あ、ありがとう?」
「いいな、葉子ちゃんは、何でも持ってる」
「いや、何でもは持ってないけど」
「持ってるよ。私の持ってないもの、全部」
「何言ってんの?15も違うんだから、これからいっぱい手に入るでしょ」
「ふふっ」
「変なやつ」




