⑱七夕一色
「うわ~、装飾されてる!」
「結構気合入れてるのね」
「いいなぁ、私もこの準備、参加したかったな。誰にお願いしたら手伝い出来るんだろう」
「さあ?」
そんなこと、考えたこともなかった。
「えー、シオリちゃん、大人なのに知らないの?」
「だって興味もなかったし」
「ふーん。じゃあさ、たぶん7月8日にはこれ、撤去されるでしょ?誰が撤去してるか見に来ようよ!」
「8日って…、月曜日じゃないの。無理よ」
「えー…、ほら、大人ってアレがあるでしょ!えっと、有給!」
「はぁ?なんで、片づけを見るために有給取らなきゃいけないのよ!」
まさか、有給申請書に『七夕フェスティバルの後片付けを見学するため』なんて書けるわけがない。
かといって、良い理由も思いつかないし、万が一、体調を崩したときのために取っておきたい…
「有給の無駄遣いって贅沢じゃない?」
「そんなわけないでしょ。やっぱり子ネズミちゃんってずれてると思うわ」
「そうかな?シオリちゃんもずれてると思うよ」
「うそでしょ。私、結構一般人だと思うんだけど」
「みーんな、少しずつずれてるって。1mmも誤差のない人なんていないよ」
「…、それはそうかもしれないけど…」
たまに、本当にたま~に、子ネズミちゃんは痛いところを突いてくる。
子供ならではの独特な感性を持っているのかもしれない。
「あ、見て見て!」
「うわっ、びっくりした。突然大きな声ださな…」
「いいから、あれ!」
「どれよ?」
子ネズミちゃんが指差す先には、淡い水色のワンピースが飾られていた。
子ネズミちゃんが着るにしては、大人っぽすぎないだろうか…
「シオリちゃんに似合いそう!」
「え、私!?」
「うん。似合うと思う」
「淡い色で、しかもワンピースなんて…、ちょっとキャラじゃなくない?」
「シオリちゃんが言う"キャラ"ってなんなの?」
「え?えっと…、客観的に見たときの印象?とか?」
「そんなの人それぞれじゃん。似合わないと思う人もいるかもしれないけど、あたしは似合うと思ったよ?」
「だって…、子ネズミちゃんは、ずれてるし?」
「もう!じゃあ、あのワンピースのデザインは嫌い?」
「ううん。可愛いと思うし、むしろ好きなデザインだけど」
「じゃあ、決まりだね。試着しよう!」
「はあ!?」
いや、無理でしょ。
だって、もう29歳になるってのに、パステルカラーのワンピースとか…、若作りって感じじゃない?
「着たら一回見せてね!」と念を押され、狭い試着室にワンピースと一緒に詰め込まれた。
くそ、笑いたいなら笑えばいい。
半ば、ヤケクソで袖を通す。
夏に向けて作られたそれは、薄く軽く、肌触りが滑らかだった。
着心地はすごく良い。
問題は似合ってるかどうかだ。
個人的には、言うほど似合わなくはない…、と思う。
でも、ちょっと若作りしすぎではないだろうか…
「シオリちゃーん、着た?」
「あ、う、うん」
「開けるねー」
「あ、ちょっ、まっ…」
シャッと、なんの躊躇いもなくカーテンが開く。
びっくりした顔の子ネズミちゃんと目が合う。
びっくりしたのは、こっちのほうだって言うのに。




