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⑫腹足類な彼



ようやく家につき、料理を作っていると、ドブネズミちゃんがトコトコとキッチンにやって来た。



「シオリちゃん」



「なに?今、火使ってるから…」



「なんか大きいコップ頂戴」



「大きいコップ?」



「うん。紫陽花入れる」



「そう言われても…」



私の家には私が使う分のコップしかないし…

紫陽花を挿すとなると、もう再利用は出来ないし…



「あ、ねえ、あのでっかいのは?」



ドブネズミちゃんが食器棚に仕舞われたジョッキを指差した。

一昨年にアイツから誕生日プレゼントで貰ったものだ。


一度も遣わず、大切に仕舞ってたもの。



もう、要らない、かも…



「うん、あれにしよう、ちょっと取るから、フライパン見てて」



「はーい。あ、焼きそば~」




フライパンの中身を見てはしゃぐ彼女を横目に、食器棚の上のほうからジョッキを取り出す。

2年ぶりに出したそのジョッキは、とてもどっしりとしていて、安くはないであろうことが分かる。


1回くらい、これでビールを飲んでみればよかったかも。




「はい。ジョッキ」



「ありがと。これ、本当に使っていいの?」



「なんで?」



「よく見たら高そうだし、あんな高いところにあるってことは取っておいてるってことでしょ?」



「いいの。大切だったけど、もう要らなくなった」



「そうなの?」



「塩とソース、どっちがいい?」



「え?」



「焼きそばの味」



「塩!」



「分かった。じゃ、あっち行ってて」



「はーい」




大人しく従った彼女を見て、常にこのくらい扱いやすければ妹にしても良いと思った・




出来上がった塩焼きそばと付け合せのスープを持って行くと、テーブルの上にジョッキに紫陽花が差さっていた。

その紫陽花をドブネズミちゃんがジッと食い入る様に見ていた。



「そんなに紫陽花って珍しいの?」



「え?」



「すっごく見てるから…」



「ああ。私が見てたのは、この、カタツムリ」



「え…?」



「ほら!」



「ギャアアアアア!!?」



紫陽花には確かに小さなかたつむりが1匹ついていた。

それを目の前に紫陽花ごと差し出されて飛び上がる。



「あははは!シオリちゃん、今、めっちゃ飛んでた~」



「ちょっと、もう!なんてことするの!?」



「ははは、そんなに怒らないでよ。かたつむりさん、びっくりしちゃう」



「…」



未だに腹を抱えてゲラゲラ笑うドブネズミちゃんを睨む。

っていうか、部屋に生き物を持ち込まないで欲しいんだけど…



「ご飯食べる前に、そのかたつむり、逃がしなさいね」



「えー、飼おうよー」



「冗談言わないで。そんな得体の知れないもの…」



「得体の知れないもの、じゃないよ。かたつむりだもん」



「お願いだから、飼うなら哺乳類にして…」



「ははは、シオリちゃん、泣きそうになってる」



「とにかく、捨ててきなさい!」



「わー、こわーい」



ドブネズミちゃんは笑いながら、かたつむりの乗った葉っぱを持って、ベランダに出た。

そして、「バイバイ」と言いながら、外に葉っぱを投げた。



「かたつむりさん、野生でもちゃんとやっていけるといいね」



「最初から最後まで野生だったから大丈夫よ。手、洗ってきて」



「はーい」




2日目にしてわかった事は、彼女がいるとハプニングにキリがない、ということだ。


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