⑩老夫婦と兄弟
「わぁ!雨!」
「そういえば、関東は今日から梅雨入りだった…」
どんよりと低い灰色の雲に、しとしとと静かに降る雨…
雨って嫌い。
どう頑張って傘を差してもどこかしら濡れるし、歩くと跳ねた水が自分にかかる。
とても鬱陶しくて私は好きになれない。
溜息をついて傘を取り出したとき、ふと傘が1本しかないことに気付いた。
「ごめん、やっぱりドブネズミちゃんは留守番だわ」
「どうして?」
「傘、1本しかないから」
「じゃあ、相合傘でいいじゃん」
「嫌。絶対濡れるし」
「大丈夫。この季節だから、風邪引かないよ」
「そういう問題じゃないから。私、濡れたくないの」
「大丈夫。乾くから!」
「だから、そういう問題じゃないって」
「シオリちゃん、わがまま言わないで」
「はぁ!?どっちがっ…」
エントランスでドブネズミちゃんと口げんかしていると、後ろからやってきた老夫婦にクスクス笑われた。
「あらぁ、仲良し姉妹なのね~」
「え、っと、これは…」
「うちのお姉ちゃん、手がかかるんです~」
「ちょっと」
「あらあら~」
ここにいたらいつまでも笑われちゃいそう。
しかも、あの人たち、よくゴミ捨てのときに顔を合わせるから、とても恥ずかしい。
「すみません、私たち急いでいたので…、失礼します」
ドブネズミちゃんを引きずるようにして外に出た。
…、今度から、ゴミ捨ての時間ずらそうかな…
「ふふっ、今度こそ、シオリちゃん照れてる」
「照れてない。恥ずかしがってるの」
「仲良し姉妹だって~、嬉しいな~」
「どこがよ…、しかも全然似てないし」
「確かに似てないけど…、私、お姉ちゃんいないから嬉しい」
「ふーん。じゃあ、下にいるの?」
「そうだよ。出来のいい、可愛くない妹が1人」
「そう」
「シオリちゃんは?兄弟、いる?」
「いいえ。いないわ。だから、どんな形であれ、兄弟がいるのが羨ましい」
「じゃあ、私が妹になります」
「…、遠慮しておく」
「ええ!?なんで!?」
こんな騒がしいのが妹なんて、堪ったもんじゃない。




