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傑作ハードボイルド映画『アホ―マンス』松田優作監督の話


 私は今や死滅?しつつあるハードボイルド映画やフィルムノワール映画が好きで昔の映画をよく見る。


 先日も映画「ア・ホーマンス」を見た。


 ハードボイルド映画の傑作だ。私見ですが。。


 この映画は、名優・松田優作(一九八九年十一月六日 四十歳没)唯一の監督作。

 映画公開されたのは一九八六年十月十日。


当時、私はこの映画を友人にも薦めた。だが、ほとんど賛同が得られなかった。


 我々はテレビドラマ「探偵物語」で育った世代だ。松田優作ファンは周りにたくさんいた。


 にも関わらず「ふ~ん」という鼻の穴から「無関心という虚無」が漏れ出す奴が多かった。


 中には私の執拗な促しにのって観るものもいたが、「う~ん」という反応だった。


 中には「でっ?」と言う奴もいた。


 映画を観て「でっ?」って何だよ。映画に「でっ?」を求めるなよ。


 映画とは人生だ。


 「でっ?」を求める人生なんて寂しいものに違いない。


 そんなこといったら私の人生なんて「でっ?」でしかない。

 

 そしてこの映画「ア・ホーマンス」は、絶対に「でっ?」を求めてはいけない映画だ。


 かくゆう私もこの映画を映画館では観なかった。


 映画、映画と言ってきたが、観たのはビデオだった。

 当時はDVDですらない、ビデオだ。


 ちょっと、言い訳したい。


 「ア・ホーマンス」。


 当時私は、まさにタイトル通り、松田優作独特のおちゃらけた映画だと思っていた。


 「アホ」が題名についている。


 「アホ?}「アホ?」ってなんだよ。そんな感じだった。


 映画以外でも、題名に「アホ」がつくものなんて他にあるだろうか?


 「アホ」を極め、「アホ」のプロフェッショナルである「アホの坂田」くらいではないか。


 でもこの映画には「アホ」がつく、


 「ア・ホーマンス」と「ア」と「ホ」の間に「・」は入ってはいるが、

 影響は甚大だと思うのだ。


 それに元々の監督が松田優作と揉めて自ら途中降板し、

 松田優作が自ら撮ることになったといういわくつき作品だった。


 松田優作は脚本も大幅に改稿してこの映画を完成させたそうだ。

 そういうスキャンダルも強調されていた。


 松田優作がまた揉めてるよ。なんかそんな印象だった。


 それに当時の私は松田優作に興味を失っていた。


 私が好きな松田優作は、テレビドラマでは「探偵物語」、映画では

 一九七八年「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」、

 一九七九年「蘇える金狼」「処刑遊戯」、一九八〇年「野獣死すべし」


 のハードボイルド系の松田優作で、


 一九八一年 「陽炎座」、

 一九八三年「家族ゲーム」、

 一九八五年「それから」


 当たりの松田優作はあまり好きではなかった。


 ちなみにだが私は「太陽にほえろ」は見ていないので、ジーパン刑事の印象はあまりない。


 その次の作品が、一九八六年この「アホ―マンス」だったからちょうど私の中で谷間の映画

 だった。


 それにこの映画自身も『駄作』のレッテルを貼られていた気がする。


 私はこの映画をビデオで見た。


 レンタルビデオ店でバイトしていた学生当時の私は、

 たまたま店内のテレビで放映していたアホ―マンスの予告編を目にした。


 その『ア・ホーマンス』予告編は、


 「過去をそして記憶すら持たない男が街に現れた」というテロップの後、


 一見してヤクザだとわかる石橋凌と、寝袋に入って野宿している松田優作の、


山崎道夫(石橋凌)「筋者でもねえ、犬っころでもねえ、ましてや普通の素人さんでもない」

風(松田優作)「人間ですよ」


というセリフのシーンが続く。


 絶対、面白いやん!そう直観した。


 それにARBのボーカル石橋凌も出演している。


 この映画の主題歌『AFTER ’45』は彼の曲で、私が大好きな曲だった。


 カラオケで歌ってみてほしい、無茶苦茶難しいから。


 ということで、すぐにビデオをレンタルして鑑賞した。


 いや~、面白かった。

 

 正直、ストーリーは普通である。何の変哲もないといっていい。


 だが、この映画はストーリーを楽しむ映画ではない。


 「が凄くいい映画」といえる。


 私の好みの。「」が合う映画。


 ましてや、低予算をとやかく言う映画ではない。


 「」と「雰囲気(空気感)」を味わう映画なのだ。


 そういう意味では、ストーリーはこの映画の空気感を邪魔していない。

 

 男くさい映画にありがちな「下品さ」もなく、


 私にとっては「エリック・サティ」の曲のように何回も見ていられる映画なのだ。


 私が「空気感」を味わえる映画は、


・ストーリーがシンプル

・「」が自然に感じらる

・役者の演技が過剰でなく、上品。

・「ロングテイク」や「音がないシーン」、「動きが静止するシーン」が効果的に使われている。

・映像が美しい

・風などの自然な揺らぎがある。できれば風や水の音が効果的に使われているともっといい。

・登場人物のキャラクターが凛としていてカッコいい。

・そして、ハードボイルドであること。


などの条件があるのだが、


 このアホ―マンスは、

 風や水の音が効果的に使われていること以外は、全てクリアしている稀有な映画だ。


 また、登場人物も魅力的である。


 松田優作演じる・ふうは、記憶喪失で何のこだわりも、執着もなく、

 どんな状況でも平然としていて、無口で、喧嘩がムチャクチャ強い。

 本当に自由な人間というキャラクターで魅力的だ。

 どっかハロルド作石による傑作漫画『ゴリラーマン』的魅力もある。


 大島組の幹部・山崎(石橋凌)は、実直さが魅力で、

 これが映画デビューの石橋凌の少しぎこちないが、みずみずしい演技がこの役とピッタリあっている。


 大島組の代貸し藤井(ポール牧)は、知性的で臆病で狡猾、そして狂気とコミカルさを兼ね備えた男を見事に演じている。


 演出も面白い。

 松田優作はこの映画に「意表をつく怖さ」という演出をとりいれている。

 特にポール牧がそうだ。

 その点もぜひ、観て欲しい。


 これは、一九八九年に公開された北野武監督「その男、凶暴につき」の演出と共通する点だと思う。


 私は北野武作品の中でこの「その男、凶暴につき」が一番好きなのだが、


 当時監督業以外から参入してきた人たちは、何か共通した新しい演出感覚を持っていたのではないか?と思うほどだった。


 そういえば、「その男、凶暴につき」も元の監督が降板したことにより、北野武がメガホンをとることになった映画だった。


 ちょっとした共通点だ。


 また、このアホ―マンスは、ストーリーは普通だが、印象に残る数々のシーンがある。


 私の好きなシーンを力づくで並べてみたい。


・敵対する足の悪い暴力団員・片桐竜二(役名をわすれてしまった)が、

 松葉杖で甲高い声を出しながら、突然暴れるシーン。

 自分の松葉杖でカウンターや天井から吊り下がったライトを叩くのだが、

 何故かコミカルでちょっと笑える。


・暴力団員が夜道でふうに殴り掛かるシーン。

 風は殴られても何の反応も示さずに去って行くのだが。

 このが凄くカッコいい。


・それとやはり、山崎(石橋凌)が風に自分がヤクザであることを告げ、

 部下の非礼を詫びるシーン。

 このシーンは渋くて最高のシーンだ。


 予告編で使われていた、


山崎「筋者でもねえ、犬っころでもねえ、ましてや普通の素人さんでもない」

風 「人間ですよ」


 もここでのシーンだった。


・山崎が麻薬売買の取引を済ませた後、そこに暴走族達が現れ、絡まれたところを、

 風がナイフを素手で掴み、暴走族達を追い返すシーン。


 抑えたアクションを迫力あるシーンとしてに魅せられるは松田優作がもつ演技力

 そのものだと思う。


・藤井(ポール牧)が風に拳銃を渡し、山崎を殺すよう依頼するが、

 風はその拳銃を一瞬でバラバラにし、山崎を狙えば「お前を粉々にしてやる」

 と藤井に脅しをかけるシーン。


 松田優作の静かな迫力もそうだが、

 素知らぬ顔をして逃げようとする藤井(ポール牧)の演技が笑えてしまう。


・藤井(ポール牧)が運転手の口を剃刀で切り裂くシーンと、

 取り押さえた刺客を自ら拳銃で撃ち殺すシーンは、

 この男の狂気を見事に演出している。


 最後に一応ストーリーにも軽く触れておこう。


 大島組・旭会というふたつの暴力団組織の抗争が激化しつつある新宿ネオン街。


 その街に記憶を失った謎の男・風(松田優作)がオートバイに乗って現れる、

 そんなシーンからこの映画は始まる。


 大島組の幹部・山崎(石橋凌)は、街にやって来たこの記憶喪失の男が、

 刑事か、敵対する暴力団組織の者ではないかという疑いを持ち、

 身辺調査を始めるが、関係ないことがわかり、

 山崎はふうに自己紹介を行い、部下の非礼を詫びた。


 予告編でも使われている、


山崎「筋者でもねえ、犬っころでもねえ、ましてや普通の素人さんでもない」

風 「人間ですよ」


 はこのときのシーンだ。


 山崎はそんなふうに興味を持ち、

 組がかかわっているデート喫茶で働かせることにした。


 組織人である大島組の幹部・山崎(石橋凌)は、

 何事にも動じず、やたらと頑健な体を持ち、この世に執着がなく人を裏切らない、

 飄々として自由に生きる謎の男・風(松田優作)の魅力に惹かれていく。


 また、風も自分に仕事と居場所を与えてくれた山崎に恩を感じるようになる。


 そんな中、山崎が所属する大島組の組長が山崎の眼前で旭会のヒットマンに狙撃された。

 重体の組長に代わって大島組の代貸しである藤井(ポール牧)が実権を握る。


 藤井は、山崎に旭会の副会長殺害を命じた。

 向うの副会長の首で手打ちにしようというのだ。


 山崎は「こっちは組長が殺されているのに、なぜ相手の会長でなく副会長なのか」

 と不満をもつ。


 藤井は旭会の会長が自分と組みたがっているのを知り、

 手打ちをして、自分のシマにしようと計算をはじいていたのだ。


 納得できない山崎はたった一人で組長の仇を討とうとする。


 この渦中、山崎道夫(石橋凌)と風(松田優作)は友情を深めていく。


 山崎(石橋凌)は、記憶を失い、この世に未練が全くないようにみえる

 本当の自由人・風の生き方に共感し、

 自らも自分の命は惜しくないと思おうとする山崎だったが、

 脳裏には恋人の姿がチラつき、涙を浮かべる。


 山崎の反逆行動を知った藤井は、組員達に山崎を殺すよう指示を出した。


 そこに旭会の会長が撃たれたと報道が流れる。山崎がったのだ。


 これが一連のストーリーだ。


 ストーリーは普通だと思う。


 ここでは書かないが、

 ラストシーンは肘がテーブルからカクンと落ちるほどの興冷め系だ。


 しかし大丈夫だ、ガッカリした瞬間すぐに、名曲「AFTER '45」が流れるからだ。


 すぐにいい雰囲気に心が浸される。


 何度も言うが、この映画はストーリーを楽しむ映画ではない。


 「」と、「雰囲気(空気感)」を味わう映画なのだ。


 私は、傑作ハードボイルド映画だと思う!


 是非、観て欲しい、お薦めだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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